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第31話 灰かぶり姫の義母は熟女バーにドナドナされる

「プッ……! クハハハハハッ!!」

静まり返ったホールに、借金取りの女性の爆笑が響き渡った。彼女は腹を抱え、涙を浮かべてレティシアを指差した。


「あんた、すごい夢を見たもんだねぇ! ブラックウッド公爵夫人だって? 鏡を見てから言いなよ。それにさ、今の旦那はどうするつもりだったんだい? 相手が亡くならない限り、次の結婚なんて教会が許すはずないだろ? ……まさか、邪魔な旦那を毒殺でもするつもりだったのかい?」


その言葉が投げかけられた瞬間、二人の人物が対照的な反応を見せた。

青ざめたのは、レティシア。

そして、それ以上に顔を白くし、戦慄に震えたのは――ルーカス伯爵だった。


「違う……そんな恐ろしいこと……わたくし、考えてなど……!」

レティシアは必死に首を振るが、その声は上ずっていた。実際、この時代において結婚は神との誓いであり、離婚は認められない。夫が健在である限り、公爵夫人になるという夢は物理的に不可能なのだ。


「レティシア……お前、私を『邪魔者』だと。……あわよくば、消えてしまえばいいと、そう思っていたのか……?」

「違いますわ! 貴方、落ち着いて……!」

「落ち着いていられるか! 惚れ薬を買い、不倫を画策し、挙句に私の命まで狙っていた疑いがあるというのに!」


伯爵の心は、完全にへし折れた。行き場のない母子を引き受け、今日まで支えてきた自負があった。その恩を仇で返され、あろうことか殺意さえ向けられていた(かもしれない)という事実は、彼を絶望の淵に突き落とすに十分だった。


そんな修羅場を、借金取りの女が冷ややかに切り裂く。

「ま、あんたたちの夫婦仲なんてどうでもいいんだよ。要は、金が払えないってことだろ? だったら、こっちの言い分を聞いてもらおうか」


女はレティシアの腕をがっしりと掴んだ。

「あんた、顔だけはいいんだからさ。うちの系列に、訳ありの熟年層に人気の『熟女バー』があるんだよ。そこで身を粉にして働いて、この天文学的な借金、きっちり身体で返してもらうよ!」


「なっ!? なんですって!? 熟女……わたくしを、あんな下品な店で働かせるつもり!? 離して、離しなさいよ!!」


狂ったように暴れるレティシアを、二人の大男が丸太のような腕でがっちりと固定した。

その時、騒ぎを聞きつけたレティシアの実娘、セシリアとベアトリスが不安げな表情でホールに姿を現した。


「お母様……? 一体、何事ですの……?」


二人の姿を見た瞬間、レティシアの瞳に醜い「希望」の光が宿った。彼女は掴まれていた腕を振り払い、あろうことか娘たちを指差して叫んだのだ。


「待ってちょうだい! 借金の肩代わりなら、わたくしじゃなくて、うちの娘たちにさせればいいわ!」


「「えっ……?」」

セシリアとベアトリスの顔から血の気が引いていく。

しかし、レティシアの暴走は止まらない。


「見てのとおり、わたくしなんかより、若くてピチピチのこの子たちの方が需要がありますわ! 二人いれば、借金なんてあっという間に返せるはずよ。さあ、この子たちを連れて行ってちょうだい!」


実の母親の口から飛び出した、信じられない「人身売買」の提案。

これには、百戦錬磨の借金取りの女さえも、心底汚いものを見るような目でレティシアを睨みつけた。


「……あきれたね。あんた、自分のツケを払うために、実の娘を売る気かい?」


「娘の幸せを願わない母親なんていませんわ! 貧乏伯爵家で腐らせるより、よっぽどこの子たちのためになりますもの!」

レティシアは謎理論を吐いた。


彼女は必死だった。自分が『熟女バー』などという場所で、泥にまみれて働くことなどプライドが許さない。そのためなら、娘たちの人生など安いものだと本気で思っているのだ。


「お、お母様……今、なんておっしゃいましたの……?」

「わたくしたちを……売るというのですか……?」

セシリアとベアトリスは、がたがたと震えながら絶句した。


ルーカス伯爵もまた、そのあまりの非情さに、もはや怒りすら通り越して深い虚脱感に襲われていた。


「悪いね、今うちで空きがあるのは熟女バーだけなんだよ。そっちのお嬢様方は、お呼びじゃないね!」


借金取りの女が鼻で笑い、顎で合図を送った。

「おい……お前ら、さっさと連れていきな!」


「「あらほらさっさー!」」

大男二人は、叫び声を上げるレティシアをまるでトレーニング用の丸太か何かのように軽々と担ぎ上げ、ホールから運び出していった。


「離して! 離しなさいよ! 私は伯爵夫人なのよ! 公爵夫人になる女なのよぉぉぉ……!!」


断末魔のような叫び声が遠ざかり、屋敷には重苦しい沈黙と、取り残された二人の娘――セシリアとベアトリスのすすり泣く声だけが残った。


母レティシアが借金のカタに「熟女バー」へドナドナされる凄惨な様を目の当たりにし、セシリアとベアトリスは、自分たちの身の上に襲いかかる死神の鎌を確信した。


かつて、実の父であった前伯爵を失った際、彼女たちは、父の後を継いだ伯父によって、文字通り一文なしで屋敷から叩き出されたのだ。

その間、母レティシアがわずかばかり蓄えていた宝石を切り売りして食いつなぎ、母がルーカス伯爵と再婚した際に、ようやく「寄生先」としてこの屋敷に引き取ってもらった身である。


だが、今、その母がいない。

後ろ盾を失った身寄りのない令嬢に残された道は、俗世を捨てて一生を捧げる「修道院」か、冷遇に耐えながら他人の子を育てる「家庭教師ガバネス」の道しかなかった。


「お……お義父様。お願いでございます。どうか、私をここにおいてくださいませ……! なんでも致します。修道院も、家庭教師も、私には……私には無理ですわ!」


セシリアが、プライドをかなぐり捨てて伯爵の足元に縋り付いた。

かつて家庭教師を「教養の押し売りをする召使い」と嘲笑っていた彼女に、その職が務まるはずもなかった。


「お義父様、私もお願いします! 玄関の掃除でも、洗濯でも、なんでもいたします! 修道院だけは……あんな、一生を神に捧げて朝から晩まで働くような生活だけは……!」


ベアトリスもなりふり構わず、大理石の床に頭を擦りつけた。


ルーカス伯爵は、冷徹な目で彼女たちを見下ろした。

情けをかける筋合いはない。だが、ここで放り出せば彼女たちが路頭に迷い、ルーカス家の名を汚す可能性もある。


「……いいだろう。修道院よりは、この屋敷の汚れた床を磨く方がマシだというのなら、残してやる」


「あぁ……! ありがとうございます!」


「勘違いするな。今日からお前たちは、この屋敷の『下働き』だ。ハンス、この二人からドレスを没収し、一番古くて硬い使用人服を与えろ。まずは、庭の石拾いから始めさせろ。岩や丸太の破片が、まだ山ほど転がっているからな」


「「は、はいっ……!」」

二人は安堵の涙を流したが、それが修道院以上の「筋肉的苦行」の始まりであることを、まだ知らなかった。



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