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第28話 灰かぶり姫は、王子の愛(不燃ゴミ)と義母の毒(惚れ薬)に気づかない

それからというもの、アシュリンは度々ブラックウッド公爵邸を訪れるようになった。

目的はただ一つ、ジョンソンのために「破壊的料理」を振る舞うためである。


この状況が面白くないのは、ようやく胃もたれから復活した義母レティシアと、そしてアシュリンが公爵邸に入り浸っているという情報を掴んだエドワード王子だった。


ある日の王宮。

エドワード王子は、自慢のカモシカのような細い足首を強調するポーズで立ち、登城してきたリチャードの前に立ちはだかった。


「ブラックウッド公爵……何やら私のレディが、君の館に頻繁に出入りしているそうじゃないか?」


「……私のレディ?」

リチャードは心底不可解そうに眉を寄せた。


「とぼけるな! アシュリン・ルーカス嬢だ。まさか貴様、あのアシュリン嬢を……甘言を弄してたぶらかすつもりではあるまいな?」


「アシュリン嬢……ああ、そうか。エドワード王子、貴方が執拗に『カネ』を湯水のように使い、国庫を傾けさせたと噂になっていた相手というのは、アシュリン嬢のことだったのか」


リチャードは得心がいったように、ふっと肩の力を抜いて笑った。

氷の公爵と恐れられる男が、人前で声を漏らして笑うのは極めて稀なことである。


「……何がおかしいッ!」


「いや、失礼。王子、貴方が彼女に贈ったという『ダイヤモンド』や『黄金の噴水像』。それらを彼女が本当に喜んだのか?考えただけでおかしくなって」


アシュリンの性格を考えれば、とてもそれらの品物を喜んだとは思えなかった。

何故一番喜ぶイノブタラをプレゼントしないのか。


「何だと……? 彼女は私の分身(黄金像)を肩に担いで、誰にも邪魔されない場所へ連れていくほど、私の輝きに酔いしれていたのだぞ!」


王子のドヤ顔に対し、リチャードの瞳には深い、深い憐れみが浮かぶ。

リチャードは知っている。自分の領地である森の奥深くに、土に埋もれた「黄金のナルシスト像」が転がっているのを、この目でしっかりと見てしまっているのだから。


「……王子。彼女が求めているのは、貴方の『財力』でも、そのカモシカのような『足首』でもない。貴方の贈り物は、彼女にとっては単なる『重すぎる不燃ゴミ』……あるいは『埋立地行きの荷物』でしかないのだよ」


「ゴミだと!? 貴様、私の至高の愛を侮辱するか!」


「事実を言っているだけだ。……貴方のその薄っぺらなアプローチでは、彼女の視界に一秒たりとも留まることはできない。彼女が見ているのは、もっと……地に足のついた、力強い真実だ」


リチャードは、アシュリンがジョンソンに向ける純粋な慈しみや、泥臭くも真っ直ぐな生き方を思い描き、静かにそう告げた。


「貴様……! ならば証明してやる! アシュリンが本当に求めているのは、この私という完璧な3Dモデルであることをな!」


王子は鼻息荒く、次の「金に物を言わせたテロ」を画策するために去っていった。


その後ろ姿を見送りながら、リチャードは静かにため息をついた。


エドワード王子が王宮でリチャードに一蹴されていた頃、ルーカス伯爵邸ではレティシアがどす黒い執念を煮えたぎらせていた。


「……あのアシュリンめ。公爵邸に入り浸り、わたくしのリチャード様をあの忌々しい筋肉で絡め取ろうなんて……。もはや、ただの嫌がらせでは済みませんわ」


レティシアはマントを羽織り、家族には「エステに行って参りますわ」と嘘をついて、深い森の奥、魔女の館へと向かった。


「……誰だい、こんな日に客なんて。うちは今、占いはお休み中だよ」


扉を開けたのは、かつてアシュリンと拳で語り合い、今や屋根の穴から差し込む日光で家庭菜園を楽しんでいる森の魔女だった。


「魔女様……。お願いがございますの。どうしても消し去りたい、目障りな小娘がおりますの。……毒リンゴを作っていただきたいの」


「毒リンゴだって!? ケッ、古いねえ! 私は今そんな物騒なものは作ってないよ。今は平和に、惚れ薬なんかを作ってるのさ」


「……惚れ薬?」


レティシアは一瞬、拍子抜けしたように固まった。ほれ薬、そんなものが何の役に立つ――。

だが、彼女の脳内で悪魔の計算が瞬時に弾き出された。


「(……待てよ。アシュリンを亡き者にせずとも、惚れ薬を使ってリチャード様をわたくしの虜にしてしまえば……。あの子がいくら筋肉を躍らせようと、閣下の隣はわたくしのもの!)」


「惚れ薬で良いですわ。即、作ってくださいな!」


「ほう、随分と急ぐんだね。いいよ、特急で作ってあげる。ただし、その分料金はたっぷり上乗せだよ。それで良いんだね?」


「構いませんわ! お金などいくらでも工面できますもの!」


レティシアは二つ返事で魔女の条件を飲んだ。彼女の瞳には、すでにリチャードと腕を組んで公爵邸を歩く自分自身の姿が浮かんでいた。


一方、その頃のアシュリンは。

「ふんぬっ! ジョンソン、見てください! この丸太、片手で持ち上げながらサイドステップができるようになりましたわぅ!」


「バフンッ!(師匠、さすがの体幹です!)」


迫りくるエドワード王子の「プレゼント爆弾」や「惚れ薬」の脅威など知る由もなく、彼女の身体能力は今日も人類の限界を更新し続けていた。

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