幼カラスの救出
普通なら進む事さえ容易ではない溶岩の上を、フィノは上手い事足場を見つけ、足場から足場へ跳び移りながら、信じられないスピードで走り始めた。
その意図に、一拍置いて気づいたアドが、仲間と共にフィノの後を追いかけていく。
ユウは、フィノとアドを追いかける事にした。
「ルティナ、俺達も行こう」
「はい、ユウ様」
そんな風に元気に返事をしてくるルティナだが、ゴツゴツした溶岩の上を歩くのはルティナはあまり得意ではない。
当然、それを援助しながら進むユウの歩みも遅くなる。
それでも、目的地にカラスが集まっていた所為で、離れた場所からでもその場所が良く見えた事も有り、二人も迷う事無くそこにたどり着く事が出来た。
ユウとルティナが近づくと、カラス達はさっと割れて道を作ってくれた。
もちろん誰も襲いかかって来るモノなどいない。
その道の一番奥では、アドとカイ、それにその二匹のちょうど中間くらいの大きさのカラスがもう一羽、其々小さな溶岩の出っ張りの上にとまって、ひたすら下を見つめている。
フィノの姿は見当たらない。
「フィノはどこへ行ったのですか?」
「フィノさんは、ルクの事を助けるためにこの穴の中に入りました」
アドは嘴でとある溶岩の隙間を指し示した。
ユウは、その隙間を見て驚いた。
その隙間が想像以上に狭かったからだ。
「フィノ!」
思わず大きな声が出てしまう。
フィノは暗い場所が苦手、というか、トラウマがあるのだ。
勢いで突入してしまったのかもしれないが、その先で我に返り、動きが取れなくなっている可能性がある。
『フィノ、大丈夫か。すぐに行くから、返事をしてくれ』
ユウは久々に念声でフィノに声をかけてみた。
普段は滅多に使わなくなった念声だが、別に使えなくなったわけではない。
この声は耳元で聞こえる感覚があるため、こんな時のフィノにはうってつけのはずだ。
『ユ、ユウ。来てくれたのね、…ありがとう。で、でも…、大丈夫。ち、ちょっと、寒いけど、烏の子は見つけたから、あ、後はもう戻るだけ。し、心配しないでいいからね』
フィノが頑張って耐えているのが伝わってくる。
ユウはすぐにその隙間の中へと入ろうとしたのだが、その時にはフィノはもうすぐそこまで登って来ていたようで、隙間からフィノの手が覗いて見えた。
ユウが急いで手を伸ばすと、フィノは間髪入れずにその手を取った。
フィノの手は予想以上に冷たくなっていて、しかも小刻みに震えていた。
その手をグッと握って力いっぱい引き上げると、フィノの身体はひしゃげた楕円形をした隙間の入口から、外の明るい世界へと引き出された。
すぐにユウが抱きしめる。
「大丈夫? 無理しないで待っていればよかったのに」
「うん。だけど、私達も仲間がどんどん増えている事だし、私だけ甘えている訳にはいかないもの。お姉さんとしては頑張らない訳にはいかないわ」
そんな言い方をする所をみると、フィノはアーダの事を気にかけているらしい。
先輩としての意地があるというような言い方だが、フィノとアーダは全くタイプが違うので、張り合う意味は良くわからない。
フィノの身体が冷たくなっていた事と、フィノを落ち着かせる意味もあり、ユウがそのまましばらくフィノの事を抱きしめていると、少しして、ユウは背中を誰かに叩かれた。
ルティナだ。
こういう場合、大概ルティナは黙って待っていてくれるので、珍しいなと思いつつ振り返って見ると、ルティナは黙って、視線をある方向へと動かした。
その視線を追いかけ、ユウも視線を動かすと、そこには、アドとカイともう一羽のカラスがいた。
そのカラスはユウではなくフィノの方を見つめている。
いや、正確にはフィノの左の腕の中だ。
そこには、まだ羽も碌に生えそろっていない、若鳥が抱きかかえられている。
少し遅れて、フィノもその視線の主の存在に気が付いたようだった。
「そうだ。早くこの子をお母さんに返さなきゃ」
そう言って動こうとするのだが、ふらついてしまってまだ上手く動けない。
やはりかなり無理をしてきたのだろう。
思うように体が動かないらしい。
代りにユウがアドを呼ぶ。
「アド、この子がさっきアドが言っていた幼鳥なのでしょう? 早くお母さんに返してあげないと」
「お母さんならここにいます」
アドの言葉に背中を押されるように、こちらを見ていたカラスが進み出る。
やはり目の前にいたそのカラスが母親だったらしい。
そのカラスは、ユウ達の事をまだ信じていいのか迷っているのだろう、躊躇いがちにたまに後ろを振り返りながら、そろそろと近づいて来る。
ユウはフィノの手を導いて、幼鳥を母カラスの前に降ろした。
降ろされた幼鳥は、たとたとと頼りない足どりで母カラスの元へと戻って行く。
それを母カラスは羽を広げて胸の中へと抱え込んだ。
「ありがとうございます。その親子、ジリとリクに代わって私からお礼を言わせてもらいます。もちろん、カイも同じ気持ちでいます」
アドの言う通り、カイも頭を下げ、感謝の気持ちを表している。
ユウを見るその目もすっかり柔らかいものになっている。
それだけではなく、周りのカラス達からも、いつの間にかすっかり剣呑な空気はなくなっていた。




