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立ち枯れの林

赤茶けた岩がむき出しになった山の頂は、登りはせずに左回りに迂回する事にする。

山向こうへい行く為に、何もわざわざ山頂を超える必要は無いので、超えやすい場所を超えて行くことにしたのだ。


左側を選んだのは、そこに一段低い場所、つまり峠がある事がわかったからだ。

そこならば馬に乗ったままでも山向こうに抜けられる。

ユウは、その峠をめざし、足場の悪い岩場を慎重に進んで行った。


足元の状態がだいぶ悪くなったため、あまり早く進む事は出来なくなったものの、峠には思ったよりも早く到達する事が出来た。

当たり前だが、そこから先は下りになっていて、その為眺望は開けている。


だがその風景は、想像していたものとはだいぶ違っていた。

峠の先は、立ち枯れた木が疎らに残る、その他には僅かに草が生えている以外は平らな部分のほとんどない、ゴツゴツした黒い岩の斜面が広がっていたのだ。


もちろん、その向こう側にはまた別の森があり、その先も緑の山が続いている。

だが、次の森までの間は黒い岩が帯のようになって行く手を阻み、今いる場所との間を分断している。


その黒い帯を上へ上へと辿っていくと、周りの山々よりも一段高い場所にある一つの山の頂へとたどり着く。

その山は恐らく火山だ。

今は噴煙を上げている訳ではないが、目の前の黒い帯は流れ出た溶岩に違いない。

僅かにだが、草が生えている所を見ると、噴火が収まってからかなり時間が経っているものと思われる。


ユウは、山を少し下り、それまでの赤い岩と、そこから先のゴツゴツとした黒い岩との境目まで進んだ所で、その場所に馬を残して行く事にした。

凸凹の溶岩の上は馬で行くには適さない。

無理をすれば、馬は足を痛めてしまう事だろう。

その為、この場所に馬を残して行かざるを得なくなったという事だ。


馬は溶岩の凸部に繋ぎ、そこから先は溶岩の上を歩いて行く。

ここからは、進む速度が一気に落ちる事になる。

歩きずらいごつごつとした多孔質の岩の上を行く事になるのだから、やむを得ない。


そんな難儀な道行も、二人とも文句一つ言わずについて来てくれている。

しかし、少し進むと、ルティナがきつそうな表情を見せるようになってきた。

男のユウでも辛い道のりなのだから無理もない。

ルティナは元はお嬢様なのだ。


「ルティナ、大丈夫? 」

先に登った岩の塊の上から、ユウはルティナに向かって手を差し伸べた。


「すみません。大丈夫…です」

ルティナがユウの手を握り、その大きな岩を登りきる。

必死に平然を装おうとしているのがわかるが、疲れているのはひと目でわかる。

そのやり取りで、フィノもその事に気が付いたようで、先行していた少し先の岩の上から跳ねるようにして戻って来る。


「少し先に立ち枯れた木が密集している場所があるんだけど、そこに鳥がたくさんいるみたい。多分その辺りに巣があるんじゃないかな。そこまでなら、もうすぐよ」

フィノもルティナと同様、いや、元はもしかしたらそれ以上のお嬢様だったはずなのだが、この世界では無限とも言える体力を有する為か、疲れた様子は見られない。


「って言う事は、そこにいるのが例のカラスって言う事になるのかな?」

聞き返したユウの言葉に、答えたのはルティナだった。

「話しかけてみないと断定はできませんが、恐らくはそうだと思います」


「とにかく近くに行ってみましょうよ。そうすればはっきりするんじゃない?」

ユウが何かを言おうとするのよりも早く、フィノはそう言ってルティナの身体を軽々と持ち上げた。

所謂お姫様抱っこと言うヤツだ。これが意外に似合っていて格好いい。


「少し先に行ってるね」

そしてユウにそう言い残すと、そのままずんずん進んで行く。

ユウはフィノを見失わない様気を付けながら、急いで後を追いかけて行くより仕方がなかった。


それからしばらく、ユウにしては頑張ってフィノの後姿を追いかけていくと、とある大きな岩の前で、フィノとルティナは待っていた。

そこへ追いついたユウが、ルティナに促されてその場にしゃがみこむと、少し前から大きな岩に阻まれて見えなくなっていたその先の景色が、岩と岩の隙間から覗き見る事が出来る場所があった。


ルティナが小声で言ってくる。

「この岩の先の立ち枯れた木の森はやはりカラスさん達の巣のようです。この岩を超えると、多分カラスさん達に気付かれてしまうと思います」


見ると、その岩の向こう側は、溶岩流の流れの間に出来た島のようになっていて、立ち枯れた木が疎らに並ぶ、森の残骸のような場所だった。

その葉が一枚も生えていないモノトーンの枝のそこかしこに、真っ黒なカラスがたくさん羽を休めている。


そんな立ち枯れの木の中でも、一番目立つ大きな木をルティナはそっと指差した。

「多分、あの一番高いあの木の上でキラキラと光っているのがバウジフさん達が言っていた鏡なのだと思います」


そう言われてよく見てみると、その木の一番上の枝の根元から、時折、鋭い光が発せられる事がある。

ルティナの言うように、周りの木に比べて一回り高いその立派な木は、その辺りの立ち枯れた木々の中ではただでさえ目立って見えているのだが、その木が時折光を発する為、余計に目立って見えている。

沢山ある枯れ木の中で光って見えるのはその木だけだ。


何のための光なのかはわからない。

だが、周りの木にはそれぞれに分散してカラスがとまっているのに、その木にだけカラスが一羽もとまっていないことからも、その木が特別な木である事は何となく伝わってくる。


あの光が鏡の反射によるものならば、ここにいるカラス達が小人の鏡を盗って行ったカラスである可能性は高いのだろう。

もしそうなら、返してもらう様、説得しなければならない。


「上手く説得できるかな」

ユウはフィノとルティナに気付かれない様、大きく一つ深呼吸した。

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