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霧の中

その夜はそのまま一晩過ごし、翌日、目を覚ますと霧は幾分薄くなっていた。


といっても、完全に晴れた訳ではなく、見通しもあまりいいとは言い難い。

けれども、気を付ければ馬を出すくらいの事は出来そうだった為、ユウは先に進む事にした。


昨夜はユウ以外は皆よく眠れたようで、こんな天候の割に三人とも体調はよさそうだった。

ユウも浅い眠りではあったものの、時間的にはしっかり眠る事が出来たので、意外に頭はすっきりしている。


これで、霧がすっかり晴れてくれれば、気持ちの良い旅になるのに、などとぼんやり考えながら馬を進めていると、今日はユウの馬に乗る事になった為、ユウの腕の中にいたアーダが急に前方を指差し声を上げた。

「ユウ、すぐそこで森が終わっているみたいだぞ。足元には気を付けた方がいい」


そう言われて見てみると、確かに少し先で木々がぷっつり無くなっている。

実際にその境目まで近づいてみると、そこから先は目の前の地面が少し見える他は、真っ白で何も見えなくなっている。

また霧が少し濃くなっただけなのかもしれないが、何か少し違和感を感じない事もない。


「どうするの?」

フィノが馬を寄せて聞いてくる。


その隣にルティナも並ぶ。

「霧が晴れるのを待ちますか?」


視界があまり利かないのは事実だが、声のあった方向がこの先なのは間違いない。

しかし、湖の東側の毒沼のように迂回したほうがいい場合も考えられる。

ユウはこの先へ進むべきか、森に沿って迂回すべきか、それともここで霧が晴れるのを待つべきか、少し悩んだ。


しかし、霧は昨日よりはましになっている事も確かで、馬の上からでも進むべき脚元はしっかり見えているし、今後日が昇るにつれ、霧も次第に晴れてくるだろうと考え、ユウは先に進む事にした。

「だいぶ明るくなってきているみたいだから、このまま行ってしまおう。万が一危ない状態になった場合は、戻ってくればいい訳だしね。俺が先頭で行くようにするから、念の為、フィノとルティナは一列になって俺の後ろをついて来て。あまり離れてしまうと見失うかもしれないから注意して」


「わかったわ」

「後ろの事は任せてください」


二人の返事を確認し、ユウは馬を前に進めた。

少し行くと、それまでは幾分視界の利いていた後方もすっかり白一色に覆われていしまい、視界は三百六十度どこを見ても真っ白の状態になってしまった。


唯一白以外の色が見えるのは脚元の土くらいで、それ以外には、振り返ればフィノと、その後ろに微かにルティナの馬が見える他は霧しか見えない。

恐らく、この辺りは草原か荒地で、近くには木や大きな岩など霧を遮るものが何もないのだと想像できる。その為、霧が濃く感じられ、霧の白さが際立っているのだろう。


そんな状況がしばらく続いた。

しかし、進むべき脚元がしっかり見えている事と、振り返れば後ろの二人もしっかりついて来ている事が確認出来ている為、ユウはそのまま真っ直ぐ進んで行った。


その間、アーダはちょくちょく後ろを覗き、二人がついて来る事を確認していた。

そのアーダが後ろを覗くのを止め、頭を横にずらしてユウの顔を見上げた。

「ユウ、ちょっとスピードを落とした方がいいかも。一番後ろのルティナの馬が少し霞んで見えるようになってきた」


「わかった」

ユウはアーダに頷きかけ、アーダの言うとおり馬の進む速さを少し抑えた。

その上で、アーダに確認する。


「このくらいの速さでいいか?」

「うん。二人とも間隔を詰めたみたいだから、もうしっかり確認できる」


ユウは、あまり速くなり過ぎないよう気を付ける事にした。

何も見えないため、気を緩めると速度感覚がおかしくなってしまうようなのだ。


そういえば、そろそろ日もだいぶ高くなってきているというのに、霧は一向に晴れてこないどころか、周りの白さは逆に増してきているようにさえ見える。

とはいえ、脚元と後ろが確認できるうちは、つまり、フィノやルティナとはぐれる事なく馬を進める事さえ出来ていれば、このまま進んでもいいだろう。

ここまで来ると、戻るにしてもリスクがあるので仕方がない。


ふと見ると、アーダはまだあちこち周りを見回しているようだった。

アーダの頭はユウの胸の辺りにあるので、そんな風に頭を動かしていると嫌でもそれが目に入ってくる。

「どうした? もしかして、まだ少し速いか?」


するとアーダはもう一度後方を確認するように大きく覗きこんだ。

「いや、後ろはしっかりついて来ているのが見えているから大丈夫だ」


「ならなんだ? 何か気配でも感じたのか?」

「いや、そう言う訳じゃない。…っていうか、あえて言うならその逆かな。近くに何の気配も感じない気がするんだ」


そう言われてみれば、確かに近くに気配は感じられない。

只々静寂で冷たい空気が辺り一面に広がっている。


「多分、この辺りはだだっ広い草原か何かなんじゃないのか。この霧じゃあ、草原に住んでいる動物だって、巣穴の中に籠っているだろうし、歩き回っているのは俺たち位のものだろう?」

何も出歩いていないのなら、気配が無くてもおかしくない。


気配が無いと言う事は、襲われる可能性も小さいという事だ。

視界の利かない今のこの状況の中では、それは有難い事だといえる。


「まあ、そう…なんだろうけど…。…にしても、何もないところだよな。特に左右は何も見えない」

アーダは何か納得しきれていない様子で、まだ辺りを見回している。


「もうちょっと行けば何か見えてくるんじゃないか?……じゃなければ、いつのまにか何かの結界に紛れ込んでいて、ずっと同じところをぐるぐる回っていたりなんかして…」

ユウは少しおどけてアーダの事を脅してみた。


しかし、アーダはそれに特には反応せず、冷静な口調で言ってくる。

「そんな気はしないけどな。まあ、いいや。あたし達はユウさえいればいいんだから」

そして最後はユウに体重をあずけてくる。


不意を突かれたユウは、その所為で後ろに倒れそうになりながらも何とかアーダの身体を支え、馬から落ちない様必死に手綱を握らなければならなかった。

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