一時帰還へ
「それにしても見事な角ですよね。近くで見ると、曲線が絡み合った感じがすごくきれいで美しいわ」
ルティナがアーダを覗き込むようにしてため息をついている。
一行の中では美術品に関する知識が最も豊富なのはルティナだ。
幼いころから様々な美術品を見てきているので、自然、見る目も肥えている。
アーダはルティナにそう言われて気分が良くなったのか、ほとんど真っ平らな胸を小さく張って、やや自慢げに角の槍をルティナが見やすい位置へと持って来て翳した。
アーダはこの槍を『ラビアローナの槍』と勝手に呼んでいる。
だが、ラビアローナの槍は、まだ子供のアーダが持つにはアンバランスといえる程の長さがあった。
今ここにいる四人の中では一番身長が高いのはユウだが、そのユウが持つにしても持て余すの程の長さだ。
その為、アーダもだいぶ持ちづらそうで、かなりふらふらしながら歩いていた。
そこで、ユウは一旦リスティの街まで戻る事を決めた。
当のアーダはまだ難色を示しているのだが、せっかくの槍も使えなければ意味が無い為、アーダが持ちやすいくらいの長さに加工するつもりでいる。
あの後、ユウ達四人はバールリッツの教えてくれたとおりに毒沼を越えた。
そして、その先の川岸に五、六人が乗る事の出来る程度の小さな船を見つけると、その船で川を下り、湖に出て、バールリッツの言うとおりに北へは向かわずまっすぐ南下し、無事にバールリッツと初めて会ったあの草原にたどり着いた。
そこから先は、湖の東側は通り抜け出来ないものと考えると、北に抜ける為には街道沿いに西の街を回って行くのが距離的には最短のルートという事になる。
しかし、長い槍を持ったアーダは明らかに歩きずらそうにしている上に、その槍を他の者に預ける事を嫌がっている事もあり、このままでは時間がかかりすぎると考え、リスティまで戻る事にしたのだ。
湖の西にあるというカーンバーという街は小さな街で、加工職人などいないか、いてもユニコーンの角を加工する事など期待できないだろう、とルティナから聞いた事も判断材料になっている。
だが、リスティに戻ってもそれができる程の腕を持った加工職人がいる保証はない、と言うことだった。
にもかかわらず、ユウがリスティに戻る事を決めたのは、一方で馬を調達しようという考えがあった為だ。
これから先ずっと陸路を行くのなら、馬ならば荷物も載せられるし、かかる時間もずっと短縮できる。
戻る事で少々時間をロスしても、それを取り返す事も十分可能だと判断した。
それに、その事とは別にユウはあの後のバーランド家の状況についても気になっていた。
バーランド家の人々には何も言わずに来てしまった訳だし、これからさらに遠くへ行くであろう事を考えれば、これからはそう簡単には戻って来れなくなりそうなので、ルティナの為にも挨拶がてら少し話をして行った方が良いだろうと思ったのだ。
ということで、総合的に判断し、リスティの街まで戻るのが良いと判断した訳だ。
そして今、一行は街道をリスティに向かって歩いている。
街道上は足下も整備され、決して歩きづらい訳ではないはずなのだが、アーダは相変わらず長い槍に手を焼いて歩きづらそうにしている。
ユウはそんなアーダの隣に並んで、話しかけた。
「アーダ、持ちにくいのなら、街まで俺が持って行ってあげるよ。大丈夫、取らないから安心して」
切迫した状況ではないと思っているとはいえ、それでもユウはなるべく早く先に進みたいと思っている。
なので、ただでさえ歩くのが早くないアーダの、さらに遅くなる原因となっている長い槍をユウが持つことで、少しは早く進めるだろうと考えたのだ。
だが、アーダは槍を渡そうとはしなかった。
「ダメ。これはあたしが持っていたいの」
すかさずフィノが割って入る。
「なら、こうやって持つのはどうお?」
言うなりフィノは軽くジャンプして、槍の上から三分の一くらいの場所を掴んで先端を引き倒す様にして槍先を下ろさせた。
少々強引なやり方だが、フィノに悪意がある訳ではない。
アーダの方もそんな風に乱暴にされながらも槍は手放していない。
結果、フィノとアーダで槍を前後で支える格好になっている。
フィノの顔には笑顔が見える。この体勢こそフィノの狙いだったのだ。
「これなら、アーダも槍を手放さなくていいし、ちょっと前後に長くなって歩かなければならないけど、ペースを合わせれば、さっきまでよりは早く歩けるはずよ」
なんだか電車ごっこをしているみたいで少し恥ずかしいという欠点はあるのだが、アーダが一人で持った時と比べれば、遥かに安定しているし、少なくともそれまでよりは速く歩く事はできそうだ。
「アーダ、これでどうかな?」
ユウが聞くと、アーダは少し迷ってから答えた。
「…うん、いいよ」
自分が迷惑をかけていた事をアーダも恐らく理解していたのだろう。
少し残念そうにしながらも、アーダは力強く頷いた。
妥協点を見出した、という所だろうか。
とはいえ、速度的にはこれでだいぶマシになりそうだ。
「じゃあ、行こう」
ユウが槍を挟んでフィノの隣に並びかける。
それを見たルティナはアーダの隣へ進み、控えめに槍を握った。
こうして二人ずつ前後に別れてラビアローナの槍を掴んだ四人は、息を合わせて今までよりも少し早い速度でリスティに向かって歩き出した。




