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ルティナの姉

結局、特に誰に引き止められる事もなく、ユウ達は夜にはリスティの街に到着することができた。

街道を歩いている時にはほとんど人とすれ違う事が無かった上に、街に近づいた頃には日がだいぶ傾いていた事も有り、畑から農具を引き上げてくる農民達がたくさんいて目立たずに済んだようなのだ。


さすがにスラム地区を抜ける時とバーランド家のある貴族たちの住むエリアに入った辺りからはユウも少し緊張したのだが、スラム地区も時間的にまだ表通りに出て暴れるような輩のいない時間帯だったし、貴族のエリアでも危惧していたような好奇の目で見られる事もなく、バーランド家の屋敷の前まで無事にたどり着く事が出来た。


屋敷の前は相変わらず静かなものだった。

ユウは勝手知ったるバーランド家の屋敷という事も有り、勝手に門をくぐって敷地の中へと歩を進めた。

そして、ルティナを先頭に屋敷の玄関を自分達で開けて、恐らくは屋敷の奥にいるであろうこの家の住人に向かって大きな声で呼びかけようとした所で、後ろから鋭い声に呼び止められた。


「あなた達、何者です? ここはバーランド家の敷地の中です。市井の者が案内も無く勝手に入って良い場所ではありませんよ」

振り返ると、そこには絵に描いたような貴族の娘の格好をした、ユウ達の見て来たバーランド家の人々とは明らかに身なりの違うたおやかな容姿の美しい女性が立っていた。

初めて会った時の着飾ったルティナに良く似ているが、ルティナよりも女性的な柔らかなラインが際立っている事も有り、随分と大人びた雰囲気を醸し出している。


「す、すみません。先日まで自分の家のように使わせてもらっていたので、つい。そうですよね、門の外で家の者を呼ぶべきでした」

ユニコーンの角をはじめ、その所有者であるアーダにしても、ルティナにしても、目立つ存在(もの)がたくさんあったため、ユウとしては早く人目に付かない場所に逃れたいという気持ちが強く、それ故勝手に屋敷の敷地に入ってしまったのだ。

バーランド家の面々とはもうすっかり仲良くなったと自負していた事もある。


それにしても、この優しい表情でありながら、どこか有無を言わせぬ佇まいを持つ女性は誰なのだろうか。

その雰囲気に押され、思わず謝ってしまったユウだったが、改めて考えると、この屋敷の住人ならユウにはわかるはずなのだ。

仮に以前ここに泊まっていた時に屋敷にいる全員を紹介されていなかったとしても、目の前にいるような美人を見逃すはずもない。


そんな事を考え頭を捻っているユウの後ろから、一行の先頭を歩いていた為既に玄関の中へと入りかけていたルティナが顔をのぞかせ、と同時に大きな声を上げた。

「レーティ姉さん!」


「姉さん?」

その声にユウが振り返った時には、ルティナはもうそこにはいなかった。

あっという間にユウの脇をすり抜け、その女性の元へと駆け寄っている。


レーティと呼ばれたその女性の方も、先程までの警戒心むき出しのピリピリした雰囲気とは打って変わった笑顔で、ルティナを迎えるべく大きく手を広げている。

ほどなく二人は抱き合い、ルティナはレーティの豊かな胸に顔を埋め、レーティはそんなルティナの頭をポンポンと軽く叩くようにして撫でた。


改めて見てみると、確かにレーティの顔はルティナとよく似ている。

レーティはルティナよりも一回り短い髪を綺麗に編み込んでいる為、そんなおしゃれは何もしていないルティナとは一見すると随分と異なって見えるのだが、よく見ると顔の造りはそっくりだ。


レーティは、そうやってしばらくルティナの事を抱きしめていたが、少しして周りの状況に気づいたようで、ユウに向かって頭を下げてきた。

「知らなかった事とはいえ、恩人に無礼な口のきき方をしてしまい、申し訳ありませんでした」


そして、ユウの目をしっかり見つめてくる。

「あなたがユウさんですね。父からルティナとバーランド家を救っていただいたのだと聞いています。本当にありがとうございました」


初対面の美人にそんな風に言われると、なんだかこそばゆくなってくる。

「いや、そんなに大層な事をした訳ではないですから…」


少し照れながら謙遜するユウの言葉を押しのけるようにしてルティナが口を挟んでくる。

「そう、そうなの。姉さん、ユウ様が私と、バーランド家の事も助けてくれたのよ」


レーティはそれを聞いて再びユウに頭を下げた。

「本当にありがとうございます。私もまさか実家がこのような状況になっていようとは思っても見なかったもので…。せめてもっと早く連絡してもらえれば…」


そしてそう言ってから、ユウからそっと顔を背けた。

レーティの心情はユウにも察することができる。

しかし、ユウにはレーティとはあえて連絡を取らなかったのであろうフィルスの気持ちも理解できた。


「お父さんは多分レーティさんの事を巻き込みたくなかったんだと思いますよ。バーランド家は集中的に狙われていたようですから、その矛先をレーティさんの方にまで広げられるのを恐れたのでしょう。尤も、まだその状況は解決したわけではないのかもしれないのですけどね」


「でも、以前のような贅沢まではとても無理だと思うけど、それでもユウ様のおかげで最悪の状況からは抜け出せそうなの。だから、姉さんは心配しなくて大丈夫、巻き込まれないうちに帰った方がいいわ」

ルティナはそう付け加えた。

ルティナもレーティにまで理不尽な仕打ちが及ぶような事にはなって欲しくないと思っているのだ。


「そんな所で何をやっているんだ」

その時、突然後ろから声が掛けられた。

振り返ると、そこにいたのはフィルスだった。


フィルスは、突然の訪問者と言ってもいいユウやルティナにさして驚いた様子も見せず、ただ淡々と言葉を続けた。

「何の話をするにしろ、ここは話をするのに相応しい場所ではない。皆、とにかく中に入りなさい。話しなら部屋の中でするべきでしょう」


それに異論のある者がいる訳も無く、皆、とりあえず屋敷の中へと入る事にした。

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