毒沼めぐり
朝食を済ませた後、ユウ達一行は昨日のように四人でバールリッツの背中に跨り、バールリッツの住処を出た。
アーダの提案に従って、近場の毒沼をしらみつぶしに見て回ることにしたのだ。
バールリッツの話によると、湖の東側には地中から毒が湧き出している場所がいくつもあるらしいのだが、ラビアローナが目印として残したのだとすると、水溜り程度の小さなものを目印にする可能性は小さいだろうと考え、沼レベルの大きさのものを優先して回る事にする。
だが、二か所ほどそんな毒沼を見て回っても、目的の毒沼は見つからなかった。
二か所ともアーダの記憶している毒とは見かけや匂いが微妙に違うようなのだ。
二つ目の毒沼を後にして三つ目の毒沼へと向かう途中、フィノが誰にともなくつぶやいた。
「でもなんでラビアローナは毒沼なんかに行こうと思ったのかな。いくら毒は効かないって言ったって、わざわざそんな所へ行っても美味しいものがある訳でも無いでしょうに…」
バールリッツの背中は大きく、四人乗ってもまだ少し余裕がある。
だが、四人は前からアーダ、ルティナ、フィノ、ユウの順に、後ろの者が前の者のお腹に手を回し、間を詰めて跨っている為、その声は比較的届きやすい。
特に直前に位置していたルティナにはそれはしっかり聞き取れた。
「確かに。普通なら毒がある場所を知っていても、そこには近寄らないはずですものね。もしかしてユニコーンは毒を食べる事もできるのでしょうか」
それにはアーダが反応する。
「いや、さすがに毒は食べないんじゃないか? 仮に何か汚染された食べ物があったとして、どうしても食べたければ、浄化してから食べればいいわけだし…」
ユウも話に加わって言う。
「けど、ラビアローナがわざわざ手掛かりになる様に毒を残して行ったのだとしたら、少なくともそこへ行く何かしらの理由はあったんじゃないかな。もしかしたら、何か急に切迫した理由ができたのかもしれないし…」
それを聞いたバールリッツはぶるぶるっと体を大きく震わせた。
慌てて謝り、宥めるユウ。
「ごめんごめん、脅かすつもりはなかったんだ。けど、別に危険な事とかじゃなくても、例えば誰かに会いに行く約束が出来たとか、何か天変地異の前触れを見つけたとか、なんていう事があってもおかしくは無いんじゃないかな?」
『…断言する事までは出来ないが、そういう事もたぶん無かったと思う』
バールリッツがユウに念の声でそう答えたちょうどそのタイミングで、ルティナが大きな声を上げた。
「あっ!」
ルティナにはバールリッツの念声は届いていないはずなので、ルティナのこの反応はバールリッツの言葉に対応した訳ではないのだろうが、バールリッツはその声に驚き、体をビクッと震わせた。
ユウはそのバールリッツの背中を叩いて落ち着かせてやりながら、ルティナに聞いた。
「どうしたルティナ、何か見つけたのか?」
ルティナがユウを振り返る。
「そういう訳ではないのですが、一つ思い出した事があるのです」
「何を?」
「実は、これも巨人の書庫にあった本に書かれていた事なのですが、ユニコーンは稀にその頭の角が生え代わる事があるのだそうです。抜け落ちた角はそのまま使っても加工して使っても、優秀な武器として使えるという事で、その加工方法などについても記されていたりしたのですが、その本の中に、角が落ちたユニコーンは狙い目だ、とかいう記述があったような気がするのです。それがもし事実なのだとすると…」
ルティナがそこまで言ったタイミングで、今度はバールリッツが声を上げる。
『そうかっ! そういう事かっ!』
その声に驚かされたユウが文句を言う。
「おいおい、急に大きな声を出すなよ、バールリッツ」
それを聞き、ユウがバールリッツと何か話しをしている事を察したフィノはルティナの話を止めた。
ユウはフィノ達がわかりやすいようにワザと言葉に出してバールリッツに問いかける。
「何かわかったのか?」
すると、バールリッツは突然歩みを止め、首を高く持ち上げて、ある方向を遠く窺うような仕草をしながら言った。
『ああ、ラビアローナに何があったのか、やっとわかった。そして、それによって何処に行ったのかもほぼ見当がついたと言っていい』
「ラビアローナのいる場所がわかったって言う事?」
『正確には行ってみないとわからないが、たぶん間違いないと思う。嬢ちゃんの言う通り、ラビアローナの角が生え代わる時期が来たんだ。我々は角が落ちると、力もぐんと落ちてしまう。角は数日で生えて来るから、圧倒的に力が落ちる期間は短いのだが、それでも、その間に襲われれば、普段なら瞬殺できるような輩にさえ、襲われたらひとたまりもないだろう』
「なら、早く行かないと。それはどっちなんだ?」
『この近くの毒沼の中に一つだけ、毒沼の中心に小さな島のある沼がある。そこならば、大抵の獣は近づけない。何しろ周りは毒に囲まれているのだからな。ラビアローナはそこに避難しているはずだ。…行くぞ!』
バールリッツはそう言って、今まで向かっていた方向とは別の方向に向かって勢いよく走り出した。
ユウが指示して全員で身体を前倒しにしてバールリッツの背中にしがみつく。
気が付くと周りの風景は凄まじい速さで後ろに流れている。
ユウは皆が振り落とされない様気を配りながら、自らも必死の形相でバールリッツの背中に貼り付くより仕方なかった。




