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沐浴

ユウの買い物はすぐに終わった。

と言うよりも終わらせたと言った方が正解かもしれない。

とにかく一番近くの店に入り、そこで全てすませたからだ。


入ったのは街道沿いの武器屋だった。

街の外で狩りをする者の為の補充用の武器を中心に、性能の割に価格はそれなりの、ちょっと見には怪しい、普通ならあまり入りたくはないような武器屋だ。

だが、街に入って最初に見つけた店がその武器屋だったのでユウはそこに入ったのだ。


考えてみれば、アーダ一人だけ女の子っぽい格好をしていても、返って目立ってしまいそうだし、フィノもルティナも革鎧を身に付けていても充分女性っぽい。

なので、とりあえず一番安い女性用の皮鎧を身に付けさせ、その上で必要ならもっと良いものに変えるなり、もっと普通の女性らしい服なりを買ってやればいい、と考えたのだ。


結局、ルティナについて来てもらった事はほとんど意味が無くなってしまった訳なのだが、ルティナは特に文句を言う事もなく、少ない選択肢の中で、少しでも可愛く見えるものをアーダの為に選んであげていた。

そして、フィノとの約束通り、早々にフィノとアーダの待つ草地まで戻って来たのだが、戻ってみると、なんと、そこには誰もいなかった。


ルティナが辺りを見回し、言ってくる。

「何処へ行ってしまったのでしょうか?」


「何かに襲われたとか、って言う訳でもなさそうだしな…」

ユウも周囲をぐるっと見回してみたが、どこにも争った形跡はない。

何か異変が起こったのなら、フィノが何らかの痕跡を残していてもおかしくないのだが、そんなモノも何もない。

次第に不安なってきたユウがフィノに念声で呼びかけてみようかと考え始めたその時に、遠くから誰かの声が聞こえてきた。


「…ちょ、ちょっと。待ちなさいって」

「うるせえ、止めろっ」

「もうっ、洗っておかないと、後で化膿して来たりするんだから」

「こんなもん、なんともねえ」


そして何やら水の音。

どうやら、近くに小川か何かが流れているらしい。

そこでフィノがアーダの身体を洗おうとしているようなのだ。

それがわかってユウはだいぶホッとした。


ルティナもそうと気づいたようで、声のする方に向かって小走りに駆けて行く。

「ユウ様はそこで待っていてください。私もフィノを手伝ってアーダの事を綺麗にしてきますから。その後、この服を着せて連れてきますね」

そう言い残し、フィノとアーダの声のする草地の先の森の中へと入って行った。


ユウは最初その後を追おうとしたのだが、着替えをするのなら、行かない方がいいと思い直して森の手前で立ち止まった。

アーダの声が大きくなる。

「あたしはこれでいいんだよ。放っておいてくれ」


と、思ったら、何故か急に静かになった。

フィノとルティナが何やら話しているのがわかるが、声のトーンも落ち着いたため、良くは聞き取れない。

だが、どうやら危険な事は無さそうだ。


ユウは一人、最初に作った囲いの所まで戻り、そこで三人が戻って来るのを待っていることにした。

ところが、しばらく待っても、三人はなかなか戻って来ない。

とはいえ、何を話しているのかまではわからないが、ちょくちょく三人の声が聞こえてくる為、さほど心配する必要もない。

ユウは、逆にその声に魅かれて近づいてくる輩が無いよう、そこで見張りながら待つ事にした。

そして、ユウの感覚ではかなりの時間をそうして過ごした頃、三人はようやく戻ってきた。


「ごめんなさい。ちょっと遅くなってしまいました」

真っ先にそう言って謝って来たのはルティナだった。


その後ろにはフィノもいる。

「おかえり、ユウ。約束を守って早く帰って来てくれたんだってルティから聞いたわ。ありがとう」

そんな風に明るく言ってくるフィノの腕にはアーダが抱きかかえられている。


「いや、そんな事は…」

ユウはそこまで言った所で、アーダの姿が目に入って固まった。

アーダは全身を洗われ、だいぶ女の子らしくなっていたのだ。

服も、ついさっき買ってきた皮鎧に着替えている。決してランクの高くない安物の皮鎧のはずなのだが、意外に可愛らしく見えるのは、ルティナが所々にさりげなく装飾品を付けていたりする所為だろうか。


とはいえ、アーダはフィノやルティナ程の美人ではない。

その容姿は、他人より優れているとはいえないものだ。

肌の色がくすんだ紫色で、しかも荒れているのか全体的に肌質がガサガサに見える所為も有るのかもしれないが、その見かけは普通か、もしかしたらそこまでもいっていないかもしれない。

それでも川で身体を洗った所為で、だいぶ清潔感は感じられるようになっているし、その幼さからか可愛らしさも感じられる。

臭い匂いももうしない。


アーダはフィノに抱かれ、ルティナに頭を撫でられて、恥かしそうにしている。

ユウは、彼女たちの周りに柔らかな風が流れているのを感じ、幸せな気持ちになった。

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