三人目の同行者
フィノが、抱きかかえて来たアーダをユウの目の前で降ろすと、アーダは急に悪態をつき始めた。
「なんだよ。急に川に落としやがって。止めろって言ったじゃねえか」
それまでの静かさから考えると意外な程口が悪い。
驚いたユウはただ目を瞬かせる事しかできなかった。
アーダの口が悪いのは、出会った時の反応等からわかっていたつもりだが、フィノとルティナと一緒にほんわかした雰囲気を漂わせて戻って来たのを見た時に、もう落ち着いたのかと思っていたのだ。
だが、アーダは変わっていなかった。
見かけは、もうボロボロではないのだが、中身は変わっていないと言う事だろうか。
そんな事を考え固まってしまっていたユウの事などお構いなしにアーダは言葉を続けていく。
「あたしは別にこんな服なんかいらねえんだよ。どうせ、すぐに誰かに奪われるか、ボロボロにされるかだからな」
言っているうちに興奮して来たのか、手足をバタバタさせて主張している。
そんなアーダに、フィノは突然抱き付いた。
「………」
アーダが途端に大人しくなる。
ただしゃべらないだけではなく、態度まで突然穏やかになっている。
フィノの後ろでその様子を見ていたルティナがユウに説明してくれる。
「アーダは抱きしめられると大人しくなるみたいなんです。恐らく、今までに抱きしめられた経験があまり無かったのではないでしょうか。抱きしめてあげると落ち着くみたいなんですよ」
そう言われて、フィノに抱きしめられているアーダの顔を見てみると、その表情はどことなく嬉しそうな感じにも見えなくはない。
少なくとも怒っている訳ではない事は明らかだ。
ユウは、ルティナの手を引き、アーダを抱きしめているフィノの元へと近寄ると、ルティナも一緒に、三人を丸ごとギュッと抱きしめた。
「ユウ?」
「ユウ様?」
フィノもルティナも、初めは少し驚いた表情を見せていたものの、すぐに穏やかな表情となり大人しくユウのされるがままになっている。
アーダもフィノの腕に抱えられたまま、ユウに抱かれて大人しくしている。
ユウは三人の頭の上に自分の顔を持って行くと、まずはフィノとルティナに問いかけた。
「フィノ、ルティナ。俺、この子の事、置いて行けない。連れて行ってもいいかな?」
ここでアーダと別れたら、アーダはすぐにまたあの状態に戻ってしまうに違いない。
それは、アーダの努力だけではどうする事も出来ないだろう。
それがわかっていながら、アーダをここで放って行く事はユウにはできそうもなかったのだ。
「もちろん、何もいつまでもずっと一緒にいようって言っている訳じゃない。しばらく一緒に行動して、フィノやルティナから色々な事を学べば、アーダだって成長して、そのうち一人でも暮らせるようになる。そうすれば、その後は好きな様に生きていけばいい。だけど、それまでは一緒にいてあげたい、と思うんだけど、どうかな?」
フィノもルティナもアーダとの相性は決して悪くは無いだろう。それは考慮した上で、ユウはこの提案をしたつもりだ。
しかし、それでも、二人が何と言ってくるのかは、ユウは少し不安に思っていた。
だがフィノの受け取り方はユウの想像を超えていた。
「私は私がユウと一緒にいられるなら、他に何人女の人がいようと全然かまわないわ」
しかもその言い方は妙に明るい。
良く考えたらフィノはルティナの時にも同じような事を言っていたのだった。
「いや、そう言う事じゃなくて…」
話しの意図とは違う受け取り方をするフィノの言葉を、慌てて訂正しようとするユウ。
しかし、その言葉を途中で遮って、ルティナが割って入ってくる。
「私も同じです。そもそもフィノがいいと言っているのに、私がいやです、なんて言える訳がありませんしね。私もフィノのおかげでここに置いてもらえるようになったのですから…」
その言葉からルティナもフィノとあまり変わらない受け取り方をしている事がわかる。
「ちょっと、二人とも俺の言う事、良く聞いていた? 別に俺はこの子の事をどうこうしようと思っている訳じゃなくて…」
たまらずユウが言い訳しようとするのだが、その言葉も途中で遮られてしまう。
アーダが話しに入って来たからだ。
「あ、あたしは別に構わないぞ。どうせいずれは誰かに仕えさせられる事になるんだろうと思っていた訳だしな。殴られるよりよっぽどましだ」
その口調は相決して丁寧ではないのだが、表情は厳しい訳ではない。
「…アーダ?」
ユウだけではなく、フィノとルティナの視線もアーダに集まっている。
それに耐えられなくなったのか、アーダは三人の視線を避ける様にそっぽを向いた。
「何だよ。やっぱ嫌なんだな。どうせあたしはこの二人みたいに美人じゃないし、肌だってこんなにガサガサだしな。一緒にいたっていい事なんて何もねえよな…」
そんな風に言いつつも、アーダはフィノの腕から抜け出そうとするわけではない。
その姿は小さい子が拗ねている様にしか見えず、何とも言えず可愛らしい。
「そんな事ないよ。アーダは十分可愛いと思うよ。大体、アーダはまだ子供じゃないか、大人になるまでに色々な事を学んでいけば、充分いい女になれる素養はあると思うよ」
ユウがそうフォローをすると、アーダはユウの顔をちらと見た後、ぷいっと首をそむけてあさっての方向を向いてしまった。
ユウは、彼女達の受け取り方に関してはとりあえず後回しにする事にして、話をまとめることにした。
「なら、これからしばらくアーダも俺達と一緒に行動するって事でいいね」
「いいわよ」
「私もです」
フィノとルティナが即答する。
ユウを含めた三人の視線が再びアーダに集中する。
「…はい」
アーダはそんな視線を眩しそうに避けながら、アーダにしては丁寧な言い方で、小さく、しかしはっきりとそう言った。




