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思わぬ再会

結局、ビスクは金貨三枚という大金で、セブークの皮を引き取って行った。


ユウは、そんな大金では公正な取引とは思えない、と言って値付けのやり直しを求めたのだが、実際それ以上の値段で売るのだからと押し切られた。

この値で仕入れても、上手く売ればユウに申し訳ないくらいの利益が得られると言うのだ。

もっとも、可能性は低いらしいのだが、思いもかけずセブークがたくさん獲れたりして、供給が需要を上回った場合は、その値では売れない可能性もあるらしい。

通常は考慮に入れるべきその部分のマージンを考えない事が、ビスクのユウ達に対する御礼なのだそうだ。

余程の事が無い限りは損をしない、というビスクの言葉を信じ、ユウはその値でビスクに売ることにした。


その場でお金を渡し、品物を受け取ると、ビスクはすぐに帰って行った。

ビスクのこの街での取引きは既に終わっていたようで、今日中には、この街を出たいのだそうだ。

別れ際に、前回と同様、オランカの街に来た時には店に寄ってくれ、と言い残し、ビスクは去って行った。


「良かったですねユウ様、あの店で売らなくて。これでしばらくはお金の心配はいりませんよ」

ビスクの姿が見えなくなると、ルティナが後ろからそっと囁いた。

街中では周りの目がある為、ルティナは常に一歩下がっている。

ユウはルティナを自分とフィノの間に挟み、目立たない様にしてから返事を返した。

「こんなに貰わなくても良かったんだけどね。だけど、これでラーブルの村の村長さんにお金を返す事が出来そうだから良かったよ」


「ラーブル?」

「私とユウが初めて寄った村よ、ルティ。何も持っていなかった私達に、村長さんが金貨を一枚渡してくれたの。それが無かったら、宿にも泊まる事が出来なかったし、もしかしたらルティを助ける事だって出来なかったかもしれないわ」


お金が無ければこの街に来るまでにもっと時間が掛ったかもしれないし、それに、闘技会の参加費も払えなかったはずなので、少なくとも優勝する事でルティナを助けると言う手は使えなかったに違いない。

ルティナはその場合の事を考えたのか、身震いし、ユウの腕に抱き付こうとして自制して、ユウの服の裾を掴んだ。

「そ、そうなんですか。そ、それなら、私も感謝しなければなりませんね」


ユウは、何気ないそぶりで、ルティナの背中を軽く擦ってやってから話しを元に戻した。

「まあ、それはそれとして、村長さんはくれるって言ってたけど、俺はやっぱりお金は返した方がいいと思うんだ」


「でも、どうやって? ラーブルの村まで戻るつもりなの?」

フィノが無邪気に聞いて来る。

ユウはルティナの姿を隠す様にフィノを自分の近くへと引き寄せつつ、軽く頭を撫でてやった。

「いや、さすがにそれは出来ないから、とりあえず返す分だけ取っておこうと思ってる。機会があればいつでも返せるようにしておくつもり」


「うん、それがいいかも」

フィノは笑顔でそう答えた。

いつもそうだがフィノの笑顔はユウに元気を与えてくれる。

ユウは自然と足取りが軽くなるのを感じていた。


しかし、そうして束の間何も考えずに歩いていた所為で、ユウは宿へと戻る為には右に折れるべき曲がり角をいつの間にか通り過ぎてしまっていた。

少しして、ユウがその事に気が付いた時、それと時を同じくしてルティナが声をあげた。

「あっ」


振り向くとルティナは一歩手前で立ち止まっている。

「ごめん、道を間違えてしまったみたいだ」

ユウはルティナもそれに気が付いて声をあげたのかと思い謝ったのだが、どうやらそうではなかったらしく、ルティナの視線はユウとフィノ越しに真っ直ぐ遠くを見つめたまま動かない。


「どうしたの? ルティ」

フィノがルティナの顔を覗き込む。


「か、義母さん…」

「えっ」

「なに?」

ルティナを挟んで両脇に位置していたユウとフィナが、ルティナの視線の先を追う様にして同時に振り返る。


その先は、何軒かの店が並ぶ少し賑やかな場所になっていた。

通りを数人の男女が往来しているのが見て取れる。

しかし、貴族と思しき外見の者は一人も見受けられない。

もちろん、馬車などが止まっている訳でもない。


「ルティ、どこ?」

フィノにもどの人がそうなのかわからなかったのだろう、ルティナに聞いている。

ルティナの義母と言う事は、バーランド夫人と言う事だ。

バーランド家は困窮していると言う話は聞いたが、ルティナを売る事で貴族の地位は守れたとも聞いている。

だが、ユウの視界に貴族と思しき人影はない。


その時、道路のほぼ真ん中にいた一人の女性がこちらを向いた。

その女性は痩せていて、表情にも精気が無い。

着ている物も他の人と変わらない決して豪華では無いものを身に付けている。


しかし、よく見ると彼女の立ち居振る舞いは他の者とは一線を画していた。

背筋をピンと伸ばし、身体を揺らす事なく動くその姿は、庶民のものではない。

恐らく、彼女がルティナの義母さんなのだろう。


その女性が、一瞬ユウと目を合わせ、その後ユウから視線を外したと思うと、そこで固まった。

ユウの位置からその女性までの距離はまだかなりあったのだが、そんなユウにも彼女の目からあふれ出るものが、はっきりと見て取れた。

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