旅商人との再会
フィノが目をさまし、朝食を済ませると、ユウは二人を伴い街中へと繰り出した。
レダスに貰った大蛇セブークの皮を売る為だ。
レダスに貰ったセブークの皮は、レダスが言うには革鎧の素材としても優秀らしいので、自前でそれを拵えてもいいのだが、革鎧は今身に付けているもので不満は無いし、どのみち自分で加工ができる訳でもないので、売ってお金にしようと言う事になったのだ。
少しでも手持ちを増やしておきたいと言う気持ちも有るし、皮をそのまま持っていてもはっきり言って邪魔だと言う事も有る。
しかし、持ちこんだ店では二束三文にしかならないと言われてしまった。
今までに前例のない獲物の為、値を付ける基準が無い事に加えて、革鎧に仕立てるには強度が不足していると言うのだ。
試しに端を少し千切ってみたら簡単に千切れてしまった。
それではユウも高値で引き取ってくれとは言い難い。
とはいえ、せっかくのレダスのプレゼントをただ同然で手放すのも癪なので、とりあえず売るのは止める事にして、店を出る。
「何だかがっかりだな。レダスの話だとかなり価値のあるモノだって言う事だったのに…」
ユウはレダスがそう言っていた事も有り、無理してまで売る事は止めたのだ。
彼が嘘を言っているとは思えないので、少なくとも彼等にとっては価値のある物であるのは間違いない。
もっとも、巨人にとって価値のある物が人間にとっても価値があるとは限らないのだが…。
とはいえ、ただ同然の値段では売る気にはならないので、しばらくは持っているしかない。
「まあ、いいじゃない。もしかしたら調理したら美味しく食べられるのかもしれないし」
フィノはそんな風にあまり現実的とは言えない事を言い出している。
獲物によっては皮も食用にされる事も有るようなのだが、このセブークの皮の見た目は、なめして鎧にするならともかく、とても食欲の湧く様な代物では無い。
ユウはその言葉は軽く受け流す事にし、手にした巻物を背中に背負い上げようとして、上手くできずに地面に落とした。
「でもこれ結構邪魔だぞ」
そして照れ隠しにそんな風に言ってごまかした。
実際、セブークの皮は大きめの巻物くらいの大きさはあるものの、そこまで持ち歩くのに困る様な代物ではない。
それを見たフィノが巻物に手を伸ばしてくる。
「平気平気。そんなの私が持つから心配しなくていいわ、貸して、ユウ」
そう言うと、手にした巻物を勢いよく自分の背中へと背負い上げた。
だが、その時、巻物が何かに当たった。
「痛っ」
たまたまフィノの後ろを通りかかった男に当たってしまったのだ。
その男は頭を押さえて蹲っている。
「だ、大丈夫ですか?」
「ご、ごめんなさい」
ユウとフィノはその男の顔を覗き込んだ。
ルティナは後ろでおろおろしている。
男は、最初焦点の合わない目をしていたが、すぐに意識を取り戻し、頭を振って立ち上がり、そして、ユウの顔を見て、表情を変えた。
「あ、あなたは、ユウさんじゃないですか、フィノさん、フィノさんもいる。私です、ビスクですよ、狼に襲われていた所をお二人に助けて頂いた…。お二人は、まだこの街にいたのですね。服が変わっていたので気が付きませんでしたよ」
そう言われてみれば、ユウもこの男には見覚えがあった。この町に来るときに馬車の荷室に乗せてくれたあの商人だ。
「あ、ああ、あなたは、俺達の事をここまで運んでくれた…」
「そうです。ビスクです。おかげさまで、あの後、無事だった積荷は全部売れました。しかも、タイミングが良かったようで高値でさばけましてね。みんなあなた方のおかげです、今度こそちゃんとした御礼をさせてください」
ビスクはさかんに感謝の言葉を口にしてくる。
狼の群れに襲われていた所をフィノが助けた事を言っているのだ。
しかし御礼は既にしてもらったもので十分だ。
しかも今に限ってはフィノに殴られた被害者でもある。
「いや、御礼なんていいですよ。っていうか、あの時お金をもらいましたし。それより、頭、大丈夫ですか? かなりまともに当たったような気がするけど」
「私の事なら大丈夫です、掠っただけですから。それにしても相変わらずフィノさんは凄いですね、こんなものを振り回すなんて…、ん?」
ビスクは頭を軽く叩いて大丈夫な事をアピールしてから、その流れでフィノの方へと視線を移し、そこでフィノの手にしている物を見て固まった。
「どうかしたんですか?」
「どうかしたって…、それはこっちのセリフですよ。それ、セブークの皮じゃないですか。どうしたんですかそんなモノ」
ビスクは目を丸くしている。
ユウもビスクがセブークの事を知っていた事に驚いていた。たった今、店の主人に前例のない獲物だと言われたばかりなのだ。
「知っているんですか?」
ユウが聞くと、ビスクは勢い込んで言ってくる。
「もちろんです。南方のある国では貴重な素材として珍重されているものですよ。何しろセブークを倒すなんてそう簡単には出来ませんからね」
「今、そこの店で売ろうとしたんだけど、ここでは店の客も含めて誰も知らなかったけど…」
「そうかもしれませんね。この辺りではあれはほとんど見かけませんし、見かけても倒すのは無理でしょう。しかも、その皮は特殊な加工をしなければ使えない。その方法は私も知りませんが、加工をすれば恐ろしく強靭になると言われています」
「そうなんだ…」
ビスクは商売であちこちを回っていると言っていたので、恐らくはその取引先のどこかで見た事があるのだろう。
ビスクの顔はいつになく真剣なものになっている。
「それ、売るつもりなんですか? もしそうなら、私に売ってくれませんか。あの時と違って今は手持ちが充分ありますから、高値で買い取る事が出来ますので、あの時の御礼の意味も含めて、出来るだけ色を付けさせてもらいますよ」
ビスクはすっかり商人の顔になっていた。




