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ラインラ

「義母さん!」

がまんが出来なくなったのだろう、ルティナがユウとフィノの間を抜けて、その女性目がけて走り出そうとする。


しかし、ユウはその肩を掴んで引き止めた。

別に感動の再会に水を差そうと言う訳ではない。

この場所は人通りがあるので、悪目立ちする事を避けたかったのだ。


もう数日が経過したとはいえ、この街では闘技会の賞品となったルティナは有名人だ。

奴隷として引き取られていった事を皆が知っている。

バーランド家の人間と親密にしている様子を見られるのは、あまり得策とは思えない。

それを面白く思わない輩に知れれば、ルティナよりもむしろ実家のバーランド家が更なる不幸に見舞われないとも限らない。


しかし、ルティナのお義母さんは、引き止められたルティナを見て、絶望的な表情となった。

奴隷となったルティナが、そのご主人様であるユウに力づくで従わされている様に映ったのだ。


「ルティナ…」

お義母さんはルティナに駆け寄ろうとし、それを自制している。


幸いな事に、周りの人達はまだ誰もルティナの事に気が付いていないように見える。

ユウはフィノと共にルティナを後ろに押しやると、やはりフィノと共に後ろ手にルティナの手を握って、お義母さんに向かって歩き出した。


近づくにつれ、お義母さんの表情に戸惑いの色が広がるのがわかる。

ルティナに近づき抱きしめたいものの、ご主人様の許しがなければそうする事さえできない、そう思って我慢しているのだ。


ルティナも自然ユウとフィノの手をきつく握りしめている。

ユウはそんなルティナの手を優しく握り返しながら、ゆっくりとその女性に近づいて行った。

そしてその流れで声をかける。

「初めまして。ユウと言います」


お義母さんは少し戸惑った様子がうかがえたものの、すぐに姿勢を正して答えてきた。

「わ、わざわざの、ご、ご挨拶、あ、ありがとうございます。私の名前はラインラ、フィルス・バーランドの妻でございます」

近くで見るラインラはユウが予想していた以上に若かった。

疲れた表情が見かけの年齢を高く見せてはいるものの、肌にはハリがあるし、ルティナの母親くらいの年齢ならあってもおかしくない皺なども全く見られない。

ルティナの親父さんは若い後妻をもらったと言う事なのだろう。


ユウがラインラの顔をじっと見つめているのを見て、フィノが我慢できずにユウの横腹を突っついた。

「ユウ、いつまでもここにいたら目立っちゃうんじゃないの?」

見ると、通行人の何人かが怪訝な顔でこちらの方を窺いながら通り過ぎて行くのがわかる。

まだ、露骨にこちらを見てくる者はいないが、ここに長くいればじきにそういう者も増えてくるだろう事は想像できる。


「そ、そうだった。ラインラさん、どこか静かな場所に移動しませんか。そこで少しお話ししましょう」

その言葉とその時のユウの物腰で、ラインラはユウ達が悪い人間ではない事を察したようだった。

ユウを探る様な表情が消えている。


「は、はい。わかりました。ですが、私にはこの辺りで思いつく場所はありません。もしよろしければ、我が屋敷まで来ていただく事は出来ませんでしょうか。満足なもてなしは出来ないかもしれませんが、出来る限りの事はさせて頂きます」


「いや、別にもてなしとかはしなくて構いません。ゆっくり話さえできればいいのです」

ラインラは聡明な女性のようだった。

貴族の地位を追われる事は避けられたとはいえ、没落した自らの御屋敷に客人を招く事は出来るだけ避けたいはずなのに、あえてそういう申し出をしてきたのは、ユウ達の意図をわかっての事だ。

だからルティナが自由に振る舞っても差し支えの無い場所を、指定してきたのだ。

その事はユウにも伝わっていた。


「少し距離があるのですが、構いませんか?」

「構いません。とにかく早く移動してしまいましょう」


「わかりました。……。ついて来てください」

ラインラはそう言うと、もうルティナの方は見ず、歩き出した。

下手に親しくすると、周りに奇異の目で見られる事がわかっているので、わざとそうしているのだ。

ユウとフィノが盾となりルティナを目立たない様にして歩いている事もラインラを安心させている。


ラインラはルティナを気遣う様にゆっくりと歩き、リスティの街の城門を抜けて古くからの市街地へと入る所で、持っていた袋からフードの付いた布製の雨合羽の様な服を取り出し、ユウに渡して来た。

ユウはそれをルティナに着せてフードを被らせた。


城門を抜けた辺りは、人通りも多く、また、貴族に近しいものも多い為ルティナと顔見知りの者も多い。しかも、闘技会や闘技会の賞品の話で盛り上がっている者もたくさんいる。

その中をユウはフィノと一緒にルティナの事をうまく隠しながらラインラの後をついて行った。


無事に繁華街を通り抜け、貴族のエリアに入ると、一気に人通りが少なくなった。

とはいえ、ルティナの顔を知っている人ばかりのエリアなので気を抜く事は出来ない。

しかし、幸い誰ともすれ違う事は無く、バーランド家の屋敷の前に着く事が出来た。

それは、通りから壁越しに見た限りはかなり立派なお屋敷だった。


「こちらへ、……、どうぞ」

ラインラは門の前で、何故か申し訳なさそうな弱々しい笑みを漏らし、ユウ達を屋敷の中へと誘った。

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