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巻き込まれ

フィノが新たに狙った部位は巨人の脚だった。

脚にダメージを負わせることで、倒す事までは出来ないまでも態勢を崩す事が出来れば、嫌でも気が付いてもらえるだろうと考えたのだ。


ターゲットは髪を結った方の女性。先程フィノの蹴りを拳ではね返した相手だ。

フィノとしては若干、意趣返しの意味も兼ねている。

だが、脚にダメージを与えると言っても、そこへ蹴りを入れるのは、実はそう簡単な事ではない。彼女達は激しく動いていて、しかも頻繁に蹴りも繰り出している為、狙いが定まらないからだ。


とはいえ他のどの部位を狙っても当てずらい事に変わりはない。頭を狙おうが腹を狙おうが楽に当てる事の出来る部位など見当たらない。

ならば当たった時の効果が大きそうな場所を狙うと言うのも悪くない判断だ。

しかもフィノは人間離れした運動神経を持っている。うまく当てる事が出来れば喧嘩を止める足掛かりくらいにはなるだろう。


髪を結った女がショートヘアの女に蹴りを入れるタイミングで、フィノは思いっきり飛び上がると、髪を結った女の脚を下から蹴り上げた。

それによって髪を結った女の蹴りの軌道が変わり、ショートヘアの女の胸を直撃、髪を結った女も予想外の衝撃にふらついて、二人の間に大きな空間が出来る。

フィノの思惑通りだ。


すぐにその空間へと入り込み、さらに視界に入りやすくなるよう大きく飛びあがる。

これで、フィノに気が付いた巨人が一時的にでも拳を収めてくれれば成功だ。

その間に、喧嘩を止めるよう注意する事が出来る。

それでいきなり喧嘩が収まるとは思っていないが、話し合いに入る事が出来れば、仲裁が成功する可能性は高まる。というより、話が出来なければ仲裁は出来ない。


しかし、二人とも喧嘩を止めようとはしなかった。

「チェラ、あんた助っ人を用意しているなんて、汚いわね」

「それはこっちのセリフ。べディールこそ、そのちっこいのを何処に隠していたのさ」

言いながら二人の間にいるフィノに襲いかかる。


フィノはその優れた運動神経を駆使して避け捲るが、さすがに余裕はない。

少し間違えば、超弩級の攻撃がフィノを直撃してしまってもおかしくない。


 ヒュン、ヒュン。

その時、ルティナが援護の弓を二発連続で放った。


弓はそれぞれ二人の巨人の顔の直前を横切り、その所為で、二人の動きが僅かに止まる。

その間にフィノは二人の間から抜け出す事に成功した。


「止めろ! 喧嘩は良くない。話し合おう」

そのフィノとは反対側にユウは近づいた。

二人の巨人を見上げるようにして、何とか話し合いに持ちこもうとする。


だが、

「これは貴様の差し金か」

「黒幕はあんたね」

二人の怒りはユウへと向けられる。必然的に攻撃先がユウへと切り替わる事になる。


だが、ユウにはフィノ程の運動神経は無い。

それでもいち早く逃げ始めた為、何とか初撃は躱せたが、フィノのように逃げ続ける事など出来る訳はない。


 ヒュン

ユウに殴りかかるショートヘアの女の拳の軌道の先をルティナの放った矢が襲った。


女は寸前で拳を止め、そのおかげでユウは命拾いし、と同時に丘の向こう側へ向かって走り出す。

とりあえず、その先に見える森の中に逃げ込もうと考えたのだ。

だが森まではまだかなり距離がある。

簡単な距離ではない。


今度は髪を結った女の蹴りがユウの背中めがけて繰り出される。

その脚に横からフィノが体ごとぶつかりその蹴りの軌道を逸らした。

その結果、蹴りは後ろからユウの脇腹を掠めたものの、ユウはほとんどダメージを受けないで済ます事が出来た。

が、女はその状態から流れるように回し蹴りの態勢に入っている。


 ヒュン

そこでまたしてもルティナの矢。

繰り出す脚とユウとの僅かな隙間を矢が通りすぎる。

女は反射的に脚を引き、おかげでユウは蹴りを食らわずにすんだ。


「くそっ、何だこいつ。頭きた!」

髪を結った女の目つきが一段と険しくなる。


その横をショートヘアの女が通り抜ける。

「ははは、ないだいチュラ、そんなのろまな男に蹴りも当てられないのかい? そんなんじゃあレダスには釣り合わないんじゃないの?」


そして、チュラの返事など聞かずにユウに掴みかかる。

組み伏せて、確実に仕留めようという魂胆だ。


ショートヘアの女の手がユウの背中に掛ろうかと言う寸前で、またしてもフィノがその手に蹴りかかる。

今度は女もそれは想定内だったようで、不敵な笑みを浮かべつつ、体を一回転させると、反対側の手でユウを掴んだ。


しかし…。

「痛っ!」

その手に矢が命中、女は反射的にユウを離した。


「ええいっ、鬱陶しい」

女は手首に刺さった矢を無造作に引き抜き、血の流れ出る傷口を一瞥した後、抜き取った矢を後方へと放り投げた。

その横をチュラと呼ばれた髪を結った女が一言残して駆けていく。

「偉そうな事を言って、あんたの方が情けないんじゃない、べティール。やっぱりあんたにレダスは釣り合わないみたいね」

その言葉でショートヘアの女がべティールと言う名前とわかる。


ユウは森と草原の境にある灌木地帯に到達していた。

が、すぐにチュラが追いついて、間髪入れずに殴りかかってくる。


「ちょ、待ってくれよ」

ユウは灌木を利用しうまく避けるが、灌木ごと殴り倒して来るのであまり役に立たない。

それでも今は何とか逃げる事に成功したが、とても話が出来る状態では無い。


「ちょろちょろちょろちょろしやがって!」

チュラはユウに跳び蹴りを喰らわすべく勢いよく飛びかかってくる。

それをその場にしゃがみこみ何とか躱すユウ。

その頭のギリギリ上をチュラの蹴りが通り過ぎていく。


チュラは少し先の灌木に蹴りを食らわせ、灌木を瓦礫に変えている。

あの蹴りをまともに喰らった事を考えると、生きた心地がしない。


チュラが瓦礫の中から出て来る前にユウは反対側に逃げようと動きかけ、結局動けなかった。

そこにはべティールが立っていて、ユウの事を見下ろしていたのだ。


「もう逃がさない」

両側は灌木、後ろにチュラ。もはや灌木を乗り越えていくくらいしか逃げ場は見当たらない。

目の前のべティールは既にユウを殴るべく振りかぶっている。


だが、その拳が振り下ろされる事は無かった。

ルティナがべティールの背中に体当たりをかました所為だ。

ルティナはフィノのような人間離れした運動神経を持っている訳ではない。しかし、その渾身の体当たりは、べティールの意表を突く事に成功していた。


「貴様、どこから現れやがった」

ユウの事を追いかけながら矢を放ってきたルティナだったが、灌木が邪魔で狙いがつけられなくなると、弓を放って走っていた。

非力なルティナが巨人相手に出来る事は少ないはずなのだが、それについては何の考えも無い。

ただ、ルティナはじっとしている事だけは出来なかった。そして、ユウが巨人に殴られそうになっている場面に出くわし、夢中で体当たりをしてしまったのだった。


べティールの背中に起こった事をユウは知らない。

ユウは、べティールの隙を利用し、まだ完全には瓦礫の中から抜け出せていないチュラの脇を抜けて森へと逃げ込む算段をする。

そして一歩踏み出したところで、それが甘い考えであったことに気付いた。


チュラが周りの瓦礫ごと蹴り飛ばしてきたのだ。

さすがに蹴りの精度は低く、蹴り自体がユウに当たる事は無かったが、瓦礫がユウを直撃する勢いで飛んでくる。


その瓦礫はフィノが蹴り飛ばし、ユウに当たる事を防いだのだが、その反動でフィノはユウから離れてしまう。その間にチュラはユウの目の前に来ていた。

そして上から拳を放つ。


そこへフィノがなんとか飛び込んで、ユウを後ろへ放ると共に自分も後ろへ飛ぼうとするが、フィノはチュラの拳を躱し切れなかった。

派手に回転しながらユウを飛び越し、べティールの前へ。そこには、べティールに軽く首根っこを掴まれ放り投げられていたルティナもいた。

二人とも、もうほぼ動けない。


ユウはその二人を庇って覆いかぶさった。

「この二人には手を出すな!」

そのくらいしかできる事がなかったのだ。


すると、今度はルティナがユウを遮って、ユウとフィノの前に立とうとする。

「ユウ様は私が守ります」


打撲の痛みに耐えながらフィノも負けじと二人の前へと出ようとする。

「いいえ、あなた方の相手は私よ」


庇い合う三人を見てチュラとべティールは動きを止めた。

しばらく目を瞬かせた後、お互いに顔を見合わせる。


その時には二人の戦意はきれいに無くなっていた。

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