巨人達
「ありがとう。良く来てくれた、ユウ。本当に助かった」
もう何度目かわからない感謝の言葉をレダスは口にした。
あの後、互いに庇い合うユウ達三人の姿を見て、チュラとべティールも各々何か感じる事があったらしく、自然と喧嘩は収まった。
そのため、結果的にユウはレダスを助けた事になるのだが、レダスの立派な身体を見る度、他人に助けを求める前に自分でやれよ、とユウは言いたくなってくる。
レダスはそれほど立派な身体を持っているのだ。
女性の二人も筋肉質の美しい身体をしている。あの凄まじい攻撃はその美しい筋肉の賜物だ。だが、それにも増してレダスの肉体は立派で、筋肉の鎧を全身に纏っているかのように見える程、そう、レダスは女性の二人よりもさらに美しい筋肉を持っているのだ。ユウはレダスの身体と自分の身体を見比べる度、劣等感と戦わなければならなかった。
そんな立派な肉体を持ったレダスなら、どう見ても貧弱なユウに助けを求めなくとも、二人の喧嘩を止める事くらい簡単に出来そうなものだ。
「来てくれて本当にありがとう」
しかし、そんなレダスが何度も何度も感謝の言葉を発してくる事が、彼にとっては出来ない事であったという証しだ。レダスが心の底から感謝している事が伝わってくる。
「もういいよ。それより、これからは二人に喧嘩させないように注意してよ。街の近くであんな風に暴れられたら大騒ぎになっちゃうだろ」
「わかった。だが、あの二人も一応は人の来るような場所は避けて闘り合っていたとは思うんだがな…」
文字通りの大男が小さくなっているのだから面白い。
ユウは今、レダスの肩に乗って彼らの住んでいると言う里へ向かって移動している最中だ。
この森は背の高い杉のような真っ直ぐな幹の木の森なので、巨人の彼らが歩くのにも適している。
いくら小さくなっていても、がっしりとした体格のレダスの肩は、ユウが乗るには十分で、しかも乗ってみると意外に安定感があって乗り心地も悪くない。
骨太の男の顔がすぐ近くにあるというのは微妙だが、レダスがその外見には見あわず心優しい男の所為か、ユウはさほど嫌な感じはしなかった。
同様にフィノはチュラの肩に、ルティナはべティールの肩に乗せられていて、それぞれ会話を楽しんでいる。
あれだけ派手に戦った後だと言うのに、今はすっかり打ち解けている様子で、時折笑い声さえ聞こえてくる程だ。
しかも、フィノとルティナが間に入っている所為か、チュラとべティールも普通に会話が成り立っている。見ていなければこの二人があんな凄まじい喧嘩をしていたなんて信じられないだろう。
レダスは一人後ろを気にせずひたすら前だけ見て歩いている。
途中、珍しく低く伸びた枝の一つを少ししゃがんで通り過ぎる時、ユウの顔にも小さな枝が掛って来た。それを手で後ろへ押しやりながら、ユウが後ろを振り返ると、そんな彼女達の話し声がユウの耳に入って来る。
「なるほど、お前らが仲良くやれている事はわかった」
それまでフィノが何か話しをしていたのだろう、その言葉を受け、チュラが頷いている。
その横の恐らくは一緒に話を聞いていたであろうべティールも何やら納得した様子でいる。
「そうだな。という事は、あたしとチュラも、このままでもうまくやれる可能性があるっていう事になる訳だ」
「フィノの言う事が本当なら、私ももうべティールと戦わなくてよくなる」
「フィノだけではなく、ルティナだって同じことを言っているんだ。間違いないだろう」
チュラとべティールは共にどこか安堵した様子で話している。二人とも本音では戦いたくは無かったのかもしれない。
それをさらにフィノが後押しする。
「大丈夫、二人が心からレダスの役に立ちたいと思っているなら、レダスだってきっと二人の事を側に置いてくれると思うわ」
「そう…かな。でもお前ら、夜はどうしているんだ?」
チュラはフィノの言葉に嬉しそうに答えながらも、さらに突っ込んだ話をしている。
彼女達にとっては重要な話の様で、チュラだけではなくべティールも真剣にフィノの言葉に耳を傾けているのがわかる。
そんな二人に気づいているのかいないのか、フィノの調子は変わらない。
「もちろん夜は一緒に…」
フィノの言葉に、自分が今いる場所の事も忘れて、思わず一歩踏み出そうとしてしまったユウは、レダスの肩から落ちそうになり、慌ててレダスの首につかまった。
「どうかしたのか? ユウ」
レダスが、ユウの体を掴んでゆっくりと元の位置へと戻しながら聞いてくる。
「いや、なんでもない」
「後ろを気にしていた様だが…」
後ろではまだ、フィノとルティナが夜の様子を話している気配がある。
別にやましい事は、少なくともまだ何もしていないのだが、恥かしかった事も有り、ユウは咄嗟に誤魔化していた。
「い、いや、そんな事は無いよ。さっき木の枝がかかりそうになったから、それを避けただけさ」
レダスはそれを信じたようで、後ろを気にする様子は見られない。
「そうか、それは気が付かなかった。で、ユウは大丈夫なのか?」
むしろユウの事を気づかってくれている。
「ああ、何とか避ける事が出来たから、大丈夫だ。気にしなくていいよ」
「それならいいんだが…」
ユウの言葉に答えた後、レダスはまた前を向いた。
しかし、少し静かになると後ろの声が聞こえてきそうな感じがする。
なので、ユウは何とか話を続けようと試みた。
「しかし、森の中を歩くのでも、目線が違うと風景が違うものだね」
「そうかな。 俺にはいつもと変わらない森にしか見えないけどな、でも、そう言われればそうかもしれない」
唐突な話題なのだが、それにもかかわらずレダスは普通に応対してくれる。
後ろの話は気にならない様だ。
「この森の木々は背が高いから、俺達が暮らすには適しているんだ。無闇に人に見つかる事も無いしな」
レダスのこの言葉から、彼らが人から隠れている事が窺え、ユウはその事に引っ掛かった。
話しによるとルティナもこの近くまで来た事があるらしいのに、巨人の事は噂程度にしか知らなかった。それが彼らが隠れていた所為だというなら話は通る。
ユウはそれをストレートに聞いてみた。
「レダス達は人から隠れて暮らしているの?」
「まあ、人に見つかると色々と面倒な事が起こるからな。中には何故だかわからないんだがいきなり攻めてくる奴もいるし…。だから、実は後で頼もうと思っていたんだけど、俺達の事は街に帰っても黙っていて欲しいんだ」
「それは構わないけど、この辺って人の生活している場所からそんなに離れていないんじゃない? 見つからないの?」
ユウ達が言わなくても、位置的にもうすでにどこかから漏れていてもおかしくは無い。
レダスは寂しそうに俯いた。
「少し前まではそんなに心配する事は無かったんだけど、最近は変な輩に見つかる事が多くなってね。ユウ達の事は信じているから心配していないけど、俺達の事見つけておいて、下手な尾行でついて来て、後で仲間を引き連れて襲いに来るような事が二度ほど続いたもんだから、ちょっと気を付けなければいけないとは思っていたんだ」
「そう…なんだ…」
話の感じからすると、最近まではそんな事は無かったのだろうが、そんな事が起こる可能性があるというのなら、人を警戒してしまうというのもわからないではない。
けれどもユウ達の事は信じてくれているらしい。少し甘いような気もしないでもないが、そのおかげで信じてもらえるのならありがたい事だ。いくらフィノがいるとはいえ、本気になった彼等にはとてもかないそうもないので、助かったといえる。
ユウがしばし黙っていると、レダスはため息まじりに話しを続けた。
「でも人って変わっているよね、俺達は人を傷つけたらいけないと思って、人から距離を取っていると言うのに、わざわざ人の方から、しかも襲って来るなんてさ。あっ、心配しなくていいよ。もちろん君達の事は傷付けないように丁寧に扱うからね」
レダスは何気ないそぶりで言っているが、話の感じからすると結局彼等にさほどの痛手はなさそうな上に、彼らの事が人には未だ知られていない事実から、襲ってきた人達がどうなったのかは想像すると恐ろしい。
救いは彼等がユウ達を特別扱いしてくれている事だが、その原因となった喧嘩の仲裁も、本来ならレダスが自分でしていても少しもおかしくない事なのだ。
「そ、それはどうも…」
ユウはそう答えるのがやっとだった。




