分断
祭壇に近づくにつれ、ユウは自分の腰の辺りから光を感じるようになってきた。
その光に導かれるように視線を落とすと、巾着の中の「珠」が強い光を発しているのがわかる。
迷路でアーダが行先を決める時に参考にしたというあの光が強くなっているらしい。
ここに来てすぐの時には良く目を凝らさなければ見えなかった光が、ここではしっかり見えている。
その直線的な光のラインは、祭壇の正面にある小さく凹んだ部分に当たり、まるでその部分に吸収されていくかのようにスーッと消えて無くなっている。
ユウはその祭壇の前まで駆け寄ると、巾着から「珠」を取り出し、光の導くままに「珠」をその部分に近づけた。
と、「珠」がさらに強く眩いばかりの光を放ち始める。
そして、ユウが動かすまでもなく「珠」が自ら動くようにして、祭壇の正面の窪みの部分に嵌り光と共に吸い込まれ、消えて行った。
直後、足元がガタガタと震え出す。
地震のような揺れだがそうではない。
ユウのいる神殿前の広間に続く階段からその下のフィノ達が戦っている大広間にかけての地面が割れているのだ。
その辺りの地面が真っ二つに引き裂かれ、次第に左右に広がっていく。
とても深い亀裂の様で、覗きこんでも亀裂の底はよく見えない。
ユウはふらつく足で、何とかそちらの方向を振り返ってみた。
ユウのいる神殿前の広間は無事だが、階段から先は真っ二つに割れ、もう既に大きく広がってしまっている。
ユウから見てその左側の半分にフィノと黒犬が、右側の半分にルティナ、アーダと白犬が、其々別れ取り残されている。
亀裂は見る見る広がって、ユウのいる神殿前の広間の両端の部分にギリギリ階段が接する位置にまで広がった所で、ようやく止まった。
これだけ広がってしまっては、少なくともそう簡単には左右の広間を行き来できない。
つまり、これで左右に分かれてしまったもの同士の連携は事実上不可能になってしまったという事だ。
正直、これはユウ達にとって有利な状況と言っていい。
事実、フィノなどは黒犬を圧倒し始めている。
アーダとルティナのコンビも押し気味に進める事が出来ている様に見える。
少し前までは互角か、ともすると少し押され気味に見えたのが今は逆になっているのは、犬達の動きが悪くなっているからだ。
地面が二つに割れて以降、彼等は明らかに動きが鈍くなった。
考えられる事と言えば、犬達が連携してユウに向けて紐のようなものを撃ったことだろうか。
あれ以降動きが鈍くなったように思えるのだ。
あんな事が出来るのなら、他にもあれを撃つチャンスはあったはずなのに、それをしなかったのはデメリットがある為だったと考えれば、こうなった事も納得できない事ではない。
もしそうであるならば、この状況を生かさない手はない。
フィノは一人で何とかできそうなので、ここはアーダとルティナの応援に動くべきだろう。
ユウはそう考えて二人に向かって声をかけた。
「アーダ、ルティナ、今応援に行くからな」
が、それに対しては否定的な意見が返ってくる。
「いや、いい。こっちはルティナと二人で何とかする」
「私達がそっちに向かいますので、ユウ様はそこで待っていてください」
ふたり揃って、ユウが来るのを拒否している。
確かに、先程までとは違って、今の白犬なら二人だけでも対応できているようにも見える。
黒犬との連携も出来なくなっている訳なので、急に窮地に陥る心配もなさそうだ。
ならばフィノの方へと加勢に行こうかと思い、そちらの方を見てみると、フィノはもう既に黒犬を崖際まで追い込んでいて、とても加勢が必要な状況とは思えない。
下手に動いて足手まといになってしまっては本末転倒になってしまうし、ここはルティナの言う通り、大人しくこの場で待っているのが得策なのかもしれない。
そう思い直して、ユウは「珠」を埋め込んだ祭壇の先、神殿の建物のある方へと向き直った。
この先、神殿に入る為の前準備をしておこうと考えたのだ。
フィノ達の戦いの様子も気になるが、ただ戦いを見守っていても、どのみち援軍に行くには距離がある訳で、あまり助けになるとは思えない。
状況はどちらも有利に進めている様だし、彼らが追いついて来た時にすぐに先に進める様にしておくに越したことはないという事だ。
神殿の建物は改めて見ると見上げる程の大きさがある。
柱や壁にユウにはなんだかよくわからない、不思議な模様がたくさん彫られていて、この建物の豪華さと共に迫力をも演出している。
この建物の地下が、最終目的地になるはずだ。
神殿の入口はユウの真正面、祭壇から真っ直ぐ行った所に見えている。
もしかしたら他にも別の入口はあるのかもしれないが、正面玄関に当たる入口は恐らくはそこだ。
だがそこには見るからに分厚い扉がついていてぴったりと閉じられている。
とても重そうな扉なので、無理やり開けるとなるとかなり難儀な事になりそうだ。
ユウは祭壇の前まで戻って来た所で、意識を念声に集中させてみた。
が、依然として念声は全く聞こえてこない。
これだけ近くに来ているのに、声が聞こえてこないのは、声の主が今は声を発していないのか、それとも他に移動させられたのか。
だが迷っていても仕方がない。
どのみちせっかくここまで来たのだから、行って確認するしかないのだ。
ユウは更に神殿に近づこうと思い、祭壇の後ろ側へと回り込んだ。
すると、まるでそれを見計らったかのように、神殿の扉がゆっくりと開き始めた。




