斑の紐
ユウが神殿に向かって走るのを見て、二匹の犬達は明らかに動揺し始めた。
目の前の戦いよりもユウの行方を気にしていて、ユウが行くのを阻む事を優先したがっているのがわかる。
が、それがわかるという事は、次の動きが読みやすくなるという事でもある。
自然、フィノとアーダの攻撃も相手のいい所に当たり始める。
犬達の攻撃を防ぐ事にあまり意識を割かずに済むようになったからだ。
特にフィノは黒犬の動きを完全に読んで、黒犬を圧倒し始めている。
黒犬は焦れば焦る程フィノに押され、結果、ユウに近づけない。
一方、白犬の方はアーダとルティナの攻撃を躱しつつ、徐々にユウの方へと近づいて来ている。
ルティナの矢の何本かは白犬に命中しているのだが、白犬はそんな事には構わず真っ直ぐユウを追いかけてくる。
アーダも白犬の動きを邪魔しているのだが、その作業も追いつかない。
「悪い、ユウ、そっちに行った。一撃だけ凌いでくれ」
アーダの切羽詰まった声が聞こえ、ユウは神殿へと昇る階段の途中で振り返った。
振り向くと白犬はもうすぐそこまで迫っている。
背中に三本ほどルティナの矢が突き刺さっているが、そんなものなどものともせず、ユウを目指して突進してくる。
そしてその勢いのまま大きくジャンプして、ユウを一飲みにするくらいの迫力で大きく口を開け、階段の中程で振り向き立ち止まったユウに襲い掛かった。
それは、今までとは少しレベルの違う、自分を守る事を後回しにした自爆覚悟の体当たりの攻撃だったのだが、大きく飛んだが為に、普段は見えない腹の部分が僅かに露わになってしまっていた。
そこをルティナが弓で狙う。
ルティナの放った矢は、他と比べて体毛が薄くなっている腹の部分に見事に命中。
急所である心臓こそ外れたものの、それでも白犬の受けたダメージはそれなりに大きなものとなった。
柔らかな腹の部分に矢が当たったのだから当然だ。
白犬は、激しい痛みに躰をくの字に曲げて一瞬きつく目を瞑った。
が、その躰はもう既にユウに向けて飛んでいる。
その軌道を変える事は出来ない。
こんなほとんど無防備な状態なら、ユウでも充分対応できる。
ユウは飛んでくる白犬に向けて急いで構え、短剣を振るタイミングを見計らった。
そして、充分引き付けてから斬りかかる。
ユウの振った短剣は白犬の首に突き刺さる…、はずが、寸前の所で白犬の鋭い爪に弾かれ未遂に終わった。
が、それで充分だった。
この間に、追いついて来たアーダが白犬に斬り掛ったからだ。
しかし、白犬はアーダのこの攻撃を何とか避けきり、元いた階段下へと飛んで逃れた。
すぐにアーダが追撃する。
白犬はそれでもまだユウを狙うのを諦めていなかったようで、下りてくるアーダの槍の射程外を素早く回り込もうと試みたようだったのだが、そちらへ向かって動こうとしたその時、踏み出そうとしたその脚の先に、ルティナの矢が突き刺さるのを見て、そちらに進むのを諦めた。
そして狙いをアーダに変更し、アーダとの接近戦へと突入していく。
ユウを排除するには、その前にアーダを排除しなければならないと考えを変えたようだ。
「ユウ様、今のうちです、早く!」
ユウの耳にルティナの大きな声が届いてくる。
確かに、今が上に行くには絶好のチャンスだ。
ユウはすぐに神殿へと続く階段を再び駆け上がり始めた。
そして、もう少しで階段を登りきると言う所まで来たその時、
ウォォォォーーーン
白犬が突然大きく吠えた。
と同時に、大きく引いてアーダから少し距離を取る。
同様に黒犬もフィノから飛び退き距離を取った。
明らかに何か企んでいるかのようなその行動に、フィノとアーダもすぐに追い打ちをかけるべく動き出す。
だが、二人が犬達の居る場所に届く前に、二頭の犬は同時に口を大きく広げると、白犬の口からは白い、黒犬の口からは黒い紐状の物を矢のような速さで射出した。
二本の紐は途中でぶつかり絡み合い斑の紐となって向きを変え、ユウの背中を目指して飛んでいく。
「ユウ、横よ、横に避けて!」
フィノの助言に従って、ユウはすぐさま左に飛んだ。
が、まるでその行動を予知していたかのように斑の紐の軌道も左にずれる。
このままの軌道で飛べばユウに命中してしまいそうだ。
そう思ったその時、ルティナの放った矢が飛んでいる斑の紐の先端を斜めにかすめる様にして通り過ぎた。
直後、その矢は斑の紐に絡みつかれて失速し、その場にポトリと落下する。
どうやらあの紐には接触したものを拘束する特性があるようだ。
だが、ユウを狙ったその攻撃はルティナの矢によって防がれた。
矢が雁字搦めに締め付けられている所を見ると、この攻撃をユウが喰らっていたら、間違いなく動けなくなっていたものと思われる。
「ナイスだ、ルティナ。良くやった」
言いつつアーダが白犬に突きかかる。
ほぼ同時にフィノも黒犬に斬りかかっている。
二匹の犬は二人のこの攻撃もギリギリのところで避け切る事に成功したようだったが、二人に距離を詰められてしまった事で、もう一度紐を放つ余裕まではなくなっている。
ユウは、この間に階段を登り切ると、神殿までの距離の丁度中程あたりに建つ祭壇目がけて走り出した。




