連携
ユウが前に進み出たのは、もう一度交渉する為だった。
しかし、黒犬は待ってはくれなかった。
それを戦闘開始の合図と思ったのか、早々にユウ目がけて襲い掛かってくる。
しかもそのスピードは先程の攻撃よりも更に早い。
一瞬でユウの目の前に黒犬の開けた大きな口が迫る。
ユウはその攻撃から逃げずに持っていた短剣を黒犬に向かって真っ直ぐ突き出した。
が、黒犬は僅かに顔を動かしてその短剣をあっさり躱す。
そしてそのままユウに喰らいつくべく首を伸ばすが、そこにはフィノの剣が待っていた。
急いで口を閉じ、フィノの剣を牙で受ける。
だが、今度の一撃はフィノの全力の一撃だ。
牙が剣によって斬り裂かれる事は無かったが、その分その衝撃は黒犬の躰が受ける事になる。
黒犬は大きく飛ばされ、あっという間にユウの目の前からいなくなった。
それをすぐさまフィノが追撃していく。
が、その隙を待っていたかのように、今度は白犬が飛びかかってくる。
その攻撃を、アーダの槍が白犬の牙を、ユウの短剣が白犬の爪を其々を弾いて何とか防いだ。
そこへルティナが矢を射かけ、白犬に引かざるを得なくさせる。
白犬が引いた所で何とか一息つけると思ったら、すぐさま今度はまた黒犬が襲いくる。
黒犬はユウの目の前でフィノに弾き飛ばされた後、弾き飛ばされたその先でフィノと再び合まみえ、そこでもフィノに弾き飛ばされて、ユウの所へ戻ってきたのだ。
それに反応したユウが短剣を振るが、黒犬はその軌跡を見切っていて、ギリギリ躱して喰いかかる。
この攻撃にはさすがのフィノでも間に合わない。
しかし、今度はそこにルティナの矢が待っていた。
たて続けに二本の矢がユウの首のすぐ脇を通り抜け、その先の黒犬の目に向かって飛んで行く。
黒犬はその矢を避ける為に、一瞬躰を大きくのけ反らせた。
直後、すぐに持ち直して再びユウに襲い掛かろうとした様だったのだが、その時には、ユウはだいぶ冷静になれていた。
躰が起き上がった事でむき出しになった黒犬の足の前にまで、逆に踏み込み斬り掛っていく。
だが、通常なら間違いなくヒットしたはずのユウにしてはなかなかの一撃も、残念ながら前足の爪に弾かれ当たらなかった。
しかし、それで十分だった。
この間に戻ってきたフィノが黒犬に斬り掛り、黒犬に再び大きく下がらざるを得なくさせる。
そのままフィノと黒犬は戦いに突入し、ユウからは徐々に離れていった。
だが、ユウにはその様子をゆっくり見ている余裕は無かった。
気が付くと今度は白犬の牙が目の前に有ったからだ。
すぐに短剣で対応しようとするも、ユウが動く前にユウと白犬の間にアーダの槍が割って入る。
更に、ルティナの矢が追い打ちをかけ、白犬は一歩、二歩と大きく飛んで引き下がった。
「ふう、次から次に…、恐ろしい程に見事な連携だよな」
「何を感心しているのですか、ユウ様。まだ、安心してはいけません。また来ます」
言っているそばから、相対していたはずのフィノの隙をついて、黒犬がユウに向かって来る。
それをルティナが矢で迎え撃つも、黒犬は軽い動作で躱してしまう。
だが、ルティナも決して負けてはいない。
間髪入れずに次の矢を放っている。
ユウは、黒犬の方を向いたまま、黒犬が向かって来るのとは反対側を思いきり薙いだ。
いつの間にかすぐそこまで迫っていた白犬がその軌跡をギリギリ避けて引き下がる。
そして、そこでそのまま後ろから追いついてきたアーダとの戦いに入った。
「助かったよ、フィノ。ありがとう」
ユウはフィノに声をかけた。
が、フィノはユウの方をちらと見ただけで、黒犬との戦いに集中している。
実は、ユウが白犬を退ける事が出来たのは、フィノがその存在を教えてくれたからだった。
フィノは、白犬がユウに近づいて来ている事を目の動きで知らせた後、黒犬に斬り掛っていったのだ。
もし教えてもらっていなければ、ユウは白犬に食われてしまっていたかもしれない。
なのでありがとうと言ったのだが、フィノに応じている余裕はないようだ。
黒犬は、いや白犬も、ちょっとした隙を縫っては見事な連携で度々ユウの事を襲って来る。
ユウの事を通したくないからという事も有るのだろうが、ユウを狙っている間、フィノやアーダが一瞬フリーになっていても、それには構う様子はない。
まるで、この四人の中では一番通してはいけないのがユウだとでも言うかの様に…、だ。
何としてでもユウを先に行かせたくないらしい。
だとするならば、ユウとしては余計に先に進むべきだろう。
「ルティナ、黒犬はフィノが引き付けてくれそうだから、ルティナはアーダと連携して白犬をこっちに来させないようにしておいて。その間に、俺が先に行く」
「ユウ様一人では危険です。私も…」
「いや、フィノはともかく、アーダは多分一人だと厳しい。だから、ルティナが助けてあげて欲しいんだ」
ルティナは、短く思考を巡らせたものの、すぐに切り替え頷いた。
「…わかりました。ならば後ろの事は私達に任せてください。ユウ様が後ろを気にせず行けるようにしてみせます」
そして言い終わるや否やさっそく矢を放っている。
その矢は白犬の鼻先を掠り、やや押され気味だったアーダはそれで一気に盛り返した。
「頼んだよ」
ユウはルティナに一言そう残すと、一人神殿に向かって走り出した。




