黒ねずみ
スケルトンはゆっくりだが確実にユウ達を取り囲んで行った。
動きは鈍いので一体なら充分に対応できる相手なのだが、倒してもすぐに復活して来るので性質が悪い。
戦いの中で、何とか一本骨を砕いても、その一本を抜きにした他の骨だけで立ち上がって来る。
数本程度なら骨が抜けても復活する事は出来るようだ。
それでも根気よく骨を砕いて行くしかない。
続ければ、いずれは撃退できるにちがいない。
そう言う意味では、こちら側にフィノ以外の三人が固まっていた事は救いとなる。
仮にユウが一人で囲まれていたとしら、多分太刀打ちできなかっただろうからだ。
三人だから、対応できているといえる。
だが、こちらには三人いると言っても、ルティナもサブの武器である短剣を使わずを得なくなっている為、戦力的には大分低下を余儀なくされている。
敵がここまで近づくと、当然弓は使えないので、そうせざるを得ないのだ。
相手の動きは遅いので、さすがに一気にやられてしまう事はないと思うが、戦っても戦ってもキリがない状況では、じりじりと圧されてくる可能性はある。
実際、フィノの方はともかくユウ達の方は段々スケルトンに取り囲まれてきている。
まだ後方は完全に囲まれていない為逃げ場はあるが、まわり込まれると苦しくなりそうだ。
フィノの方もこちらに合流するべく少しづつ近づきながらスケルトンを蹴散らしているものの、まだ合流はできていない。
群がるスケルトンに行方を阻まれ、進めなくなっている。
が、このまま二手に分かれていた方がいいのかもしれない。
合流すると余計に囲まれる心配がある為、そうなると状況が悪化する可能性があるからだ。
フィノもその事に気づいたのか、ある程度以上は近づいては来ずに、その場でスケルトンを一体ずつ排除する方向で動き始めている。
さすがのフィノも完全に囲まれてしまっては苦しくなると考えたのかもしれない。
フィノがフィノを取り囲むスケルトンを駆逐する間に、こちらもある程度スケルトンの数を減らす事が出来れば、その後は加速度的に倒す事が出来るはずだ。
ユウは自分の戦いに集中する事にした。
と言ってもフィノのように格好よくいく訳はないのだが、襲い来るスケルトンの身体を何とか崩し、それでばらけた骨を一本拾って砕くくらいの事ならできる。
もしくはそれが出来ない場合は、拾った一本を出来るだけ遠くへ投げ飛ばして、再生が少しでも遅くなる様にすると同時に、完全に囲まれてしまわないようにすればいい。
ユウと同様、ルティナとアーダもユウの後ろで戦ってはいるが、スケルトンの骨を完全に破壊する前に別のスケルトンに詰め寄られ、なかなか排除しきれないでいる。
この場にフィノが加わってくれれば、一気に片が付きそうにも思えるのだが、残念ながらフィノはまだ自分の周りに集まってくるスケルトンを相手にするのに精いっぱいで余裕はないようだ。
ならばやはりここは自分達で何とかしなければならない。
しかし、いくら攻撃に集中しても、スケルトンを再起不能にするのにはやはり時間がかかる。
アーダも頑張って骨を砕いてくれている様だが、再起不能レベルにまでするには至らず、次第に押され気味になっている。
現状、三人の中ではアーダが要になっているので、アーダが押されると厳しくなる。
一体をバラバラにする前に次の一体が襲って来たのでは、対応が間に合わない。
「このままではじり貧だ。一旦、後ろに走って逃げないか」
ユウは、一回引いて体勢を立て直す事を提案してみた。
が、ルティナもアーダもその案には賛成しなかった。
「そんな事をしてこのスケルトン達が皆、今単独で戦っているフィノの方へと向かって行ったら大変です。何とか現状を維持していれば、いずれフィノはあっちの奴をやっつけて、こっちに戻って来てくれると思いますから、それまでがんばって堪えていましょう」
「それに、後ろに走ろうにも、これだけ集まって来られちまったら、もうそう簡単には抜けられそうもねえしな。しばらくはあたし達だけで何とかするしかねえだろ」
確かに、フィノが戻って来るのを待つのは最も堅実な作戦と思われる。
だが、心配なのはこちらは大分押され気味だという事だ。
フィノが来るまで持ちこたえられるかどうかは微妙かもしれない。
そうこうしいるうちに、スケルトン達によるユウ達の包囲がほぼ完成した。
こうなるともう逃げるのは難しい。
このまま何とか時間をかせぐより仕方がない。
だが、よく観察すると、何本か骨を砕いた所為かスケルトンの動きが先程までよりも鈍くなっている事がわかる。
さすがに最初と同じ動きは出来ないようだ。
これならば、何とか持ちこたえる事ができるかもしれない。
もう少し持ちこたえる事が出来れば、更に楽になってくるはずなので、そこまで辛抱すれば大丈夫そうだ。
もうそろそろフィノの方が片付くと思うので、そうなれば後は時間の問題だろう。
そう思い、目の前のスケルトンを退ける事に集中しようとしたその時、更に一段、スケルトンの動きが遅くなった。
今までも決して機敏ではなかった動作が、もはやスローモーションになっている。
よく見ると、スケルトンの白い骨の身体のあちこちに黒い塊がたくさんくっついている。
その黒い塊はちょろちょろと素早く移動して、骨を齧っているようだ。
「うわっ、鼠っ、鼠がいます」
ルティナが少しだけ大きな声を上げた。
叫ぶのを何とか堪えたのは、ここで気を抜いたらスケルトンにやられてしまうと思ったからだろうか。
もしそうなら、そんな事は杞憂だった。
スケルトン達は鼠たちに齧られ、次々に動けなくなっていったからだ。
「何だコイツら、あたし達の味方なのか?」
「でも、鼠なんて一匹でも気味が悪いのに、こんなにたくさん集まってくると、何だか気持ち悪いです」
突然の出来事に戸惑うアーダとルティナの目の前でスケルトンの身体が崩れ落ちていく。
助かった、と思った次の瞬間、鼠たちは一斉にこちらを向いた。
その目は獲物を狙う獣の目にしか見えなかった。




