浄化の光
振り返ると鼠はユウ達の後方から次々と押し寄せてきていた。
何がトリガーだったのかはわからないが、何処からか大量投入されたかのようだ。
その内のアーダの正面にいた一匹がアーダに向かって飛びかかる。
アーダはそれを一突きで退けた。
容易に屠る事が出来たように見えるが、屠ったのはたくさんいる内の一匹にしか過ぎない。
鼠はまだまだ無数にいる。
しかもその鼠はあのスケルトンの骨を噛み砕くほど凶暴なヤツだ。
一匹一匹なら造作もない相手でも、これだけまとまるとさすがに対応しきれそうもない。
だが、鼠に待ってくれるつもりはなさそうだ。
ユウの所にも既に先頭の一匹が飛びかかって来ている。
その一匹をユウは短剣で薙ぎ退けた。
が、すぐに別の鼠が襲いかかって来る。
それも何とか叩き落とす事に成功するが、その後は一度に何匹もの鼠が襲って来て、その全てには対応できなくなる。
そして何匹かの鼠がついにユウの身体にとり付いた。
途端に激しい痛みに襲われる。
鼠が身体のあちこちに齧りついたのだ。
「くそっ。痛いじゃないか、何すんだこの野郎っ」
言いつつ、身体を激しく揺すると、鼠たちは比較的簡単に剥がれおちていく。
この程度で落ちてくれるのなら、まだ少しは戦い様がある。
スケルトン達がなすすべもなくやられてしまったのは、彼らが素早く動く事が出来なかった為なのかもしれない。
その所為で、ユウの様にとり付いた鼠を振り落とす事が出来なかったという事は充分に考えられる。
とはいえ、この鼠の数は半端な数ではない。
振り払っても振り払ってもすぐに別の鼠が取りついて来る。
簡単に振り落とす事が出来るとはいえ、それを何度も繰り返していると体力の消耗が激しくなる。
その影響が最も顕著に表れたのがルティナだった。
沢山の鼠にとり付かれ、それをなかなか振り払えなくなってきている。
動きが鈍ってきているのだ。
三人の中では一番動けているアーダが、時折、ルティナにとり付いた鼠を振り払う手伝いをしてくれてはいるのだが、それもそろそろ限界に近づいている様で、アーダのその動きにも次第に余裕はなくなってきている。
ユウも自らにとり付いた鼠を振り払うのが段々間に合わなくなってきた。
しかし、そうやって鼠たちを振り払ううちに、ユウは自分にとり付いてくる鼠達の位置に偏りがある事に気が付いた。
鼠はユウの腰を中心とした左半身の一部には寄って来ていないのだ。
ユウは鼠達を振り払いながら、左手で腰の辺りを探ってみた。
その手が何か硬い物に触れる。
ユウは、それが何だかすぐに分かった。
腰にぶら下げ持っていた巾着袋だ。
その中には例の「珠」が入っている。
ルティナの父フィルスから借りたあの「珠」だ。
その巾着袋を見てみると、巾着袋は薄っすらと青白く光っているように見える。
「剣」や「盾」を近づけた時の光とは少し違う青白い光が巾着袋の布越しに漏れ出ている。
ユウは素早くその巾着袋の中に手を突っ込むと、掴んだ「珠」を巾着袋から引っ張り出して頭上に掲げた。
途端に鼠たちの動きが止まる。
何かその光に怯える様に、皆一斉にその光の方を見た状態で固まってしまっている。
この間に身体のあちこちにとりついていた鼠たちを振り落とし、そして、皆に声をかける。
「みんな、俺の近くに集まって。こいつら、この光が苦手みたいだ」
実際、鼠達からは先程までのような強い殺気は感じられなくなっていた。
とはいえ引き下がる様子はないので安心する事は出来ないが、この光を嫌っている事は確かなようだ。
アーダがルティナの身体を抱きかかえるようにして、ユウの近くに寄ってくる。
「ユウ、ルティナを頼む。結構あちこち齧られているみたいだ」
見ると、ルティナの腕や足には鼠に齧られた痕があり、その何か所かからは血が滴り落ちている。
だいぶ苦戦していた様だ。
「大丈夫か、ルティナ」
「なんとか。もう少しあのままだったら鼠たちに飲み込まれていたかもしれませんけど…」
ルティナは腕や足以外も全身ボロボロで、倒れ込むようにしてユウに体重を預けてくる。
その身体をユウは支えて受け止めた。
が、その為に掲げていた手を戻した所為で「珠」がルティナの陰に入り、光の照らす範囲に死角が出来た。
途端にその死角にいた鼠達の動きが活発になる。
やはり「珠」の発するこの光には鼠の動きを止める力があるらしい。
再び動き出した鼠達に、アーダが槍の雨を降らせて黙らせる。
アーダは、鼠の襲ってくる方向が限られている状態なら、十分に対応できるという事の様だ。
アーダが対応してくれているその間に、ユウはルティナの体を起こし、再び「珠」を頭上に掲げた。
と、すぐに鼠達の動きが止まる。
その隙を狙って、今度はアーダがこちらから仕掛けていく。
少し離れた場所では、フィノも鼠達と戦ってくれている。
フィノは元々、鼠達に押し負けていた訳ではなかったので、光の影響で動きが鈍くなれば、余裕で排除する事が出来るようだ。
フィノは自分の周囲の鼠を撃退すると、ようやくユウの隣にたどり着いた。
「やっと合流できたわ。こいつら数が多すぎ、やっつけてもやっつけてもキリが無いんだもの」
フィノがこうして戻ったという事は、ユウ達三人のいる場所を迂回するようにしてフィノの元へ向かった鼠はそのほとんどがフィノに葬られたという事になる。
後はユウ達の前にいる鼠達という事になる訳だが、彼等はある程度戻った所でこちらの様子を窺っていて、それ以上は引いて行く様子は見られない。
一定の距離を保ちそこで山のように積み重なって、こちらに隙が出来るのを待っている。
先程の様に光が弱まれば、また一斉に襲い掛かってくるつもりなのだろう。
これでは下手に動けない。
だが、この状況を打破しなければ先に進めない事も間違いない。
ユウは「珠」を持つ左手を頭上に高く掲げたまま、必死に思考を巡らせた。




