分かれ道
通路を先へと進んで行くと、その先もまた分岐になっていた。
そうやって幾つもの分岐を通り過ぎると、次第に自分達がどちらの方向に進んでいるのか分からなくなってくる。
とはいえ、要所要所でユウが刻んだ印は、今の所一度も見ていないので、先頭を任せたアーダのカンはある意味冴えわたっているとも言えなくはない。
そもそも行き止まりに行き当たる事がないのだ。
ひとつ前の分岐も、アーダは迷う事無く右折を選択し、今はしばらく続く真っ直ぐな通路を歩いている。
ここもやはり行き止まりではないようだ。
「凄いね、アーダ。全然行き止まりに行き当たらないじゃない。もしかしてこのまま出口まで行けちゃったりして」
フィノがかけた言葉に、アーダが小さく首を振る。
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ、あたしとしてはちっとも前に進んでいる気がしねえんだよな」
「どういう事?」
「まあ、こんな場所だから当たり前の事なのかもしれねえけど、ずっと同じところを歩いているような気がしてさ。行き止まりに行き当たった方がまだ少し変化があるだろ。その方がきっと違う場所を歩いているっていう実感が湧いてくる様な気もするし…」
アーダはそう言いながら大きな動作で周囲を見回している。
「そんな事はないと思いますよ」
そこへルティナが口を挟んでくる。
ルティナはアーダの顔を覗き込むと、アーダが頭に疑問符を浮かべているような表情をしているのを気付いて先を続けた。
「なぜなら、行き止まりもたくさん行き当たれば、同じ景色に思えてくるはずだからです」
「どういう事だ?」
「私達は今まで、敢えて言うなら最初のスタート地点を除けば、一度も行き止まりに行き当たっていません。だから、仮に今行き止まりに行き当たれば、多少なりとも景色に変化は感じるでしょうし、目印にもなるでしょう。でも、それが十回、二十回と続くようになると…」
「わかった、わかった。ルティナの言う通りだよ」
アーダはようやくルティナの言いたい事が理解できたようで、苦笑いと共に強引にルティナの話を断ち切った。
が、ルティナは構わず言葉を続けている。
「私は、確実に前に進んでいると思いますよ。それが証拠に、ユウ様のつけた印を私は一度見見ていませんしね。もし、同じところをぐるぐる回っているのなら、印のある所を通っているはずです。結構注意して見ているつもりですから、見逃しとかもないはずですよ」
実際、ユウのつけた印は、ユウも見つけていなかった。
分岐ごとに進んだ方向に矢印を刻んでいるのだが、既にその矢印のある分岐にはまだ行き当たっていない。
という事は、ルティナの言う通り、確実に前に進んでいるという事になる。
だが、それならば逆に不安に思える事もある。
それが事実なら、この迷宮は恐ろしく広い範囲に及んでいるのではないかと推測できるからだ。
もしくは、時間が経つと壁の傷は消えてしまうようになっている、という意地悪な仕掛けのある迷宮だという事も考えられない事ではない。
これが神の仕業ならば、そのくらいの事はあったとしてもおかしくないのかもしれない。
だが、
「俺もアーダのカンは冴えていると思うよ、少なくとも今の所はね。俺達は多分順調に進む事が出来ているんじゃないかな」
ルティナではないが、ユウも歩いていて遠回りをしているような感覚は無かった。
確かに風景に変化はないが、そもそも迷路はこんなものなのだ。
特徴的な風景が現れる事などほとんど無いに違いない。
「まあ、ここは暑い訳でも寒い訳でもねえからな、ユウさえ一緒なら順調だろうがそうでなかろうが、正直どっちでもいいんだけどな」
言いながらアーダは突然その歩を止めた。
そこはとある十字路の真ん中だった。
これまで通ってきた十字路と何ら変わりのない普通の十字路にみえるが、アーダは左右を見回して明らかに迷っているように見える。
「ん? 何か見つけでもしたのか?」
「いや、そう言う訳じゃないんだけどな、この十字路は右に行くかまっすぐ行くか微妙なんだよな、どっちに行ってもいいような気がしなくってさ」
「そうなのか? でもそれなら逆にどっちに行ってもいいんじゃないか? ここまで順調に来れただけでもめっけものなんだ。何かあったとしても戻ってくれば問題ないし、むしろ何もない方がおかしいような気もするしね」
「ユウがそれで良ければ、あたしはそれで構わないんだけどな」
アーダはもう一度辺りを見回すと、今度はすぐに行き先を決めた。
「こっちに行こう」
そしてすぐにそちらに向かって歩き出す。
アーダが選んだのは右折だった。
アーダは一人とっとと歩きだし、少し進んだところで歩みを止めた。
ユウがついて来ていない事に気が付いて止まったのだ。
ユウは急いで交差点の角の一つに目印を残すと、すぐにアーダの後ろを追いかけた。




