迷宮
三つ目の扉をくぐると、そこは扉の先は三方を巨大な壁に囲まれた、他には特に何もない殺風景な場所だった。
壁は見上げる程の高さがあり、明らかに普通の壁ではない事がわかる。
表面の異様に滑らかな、道具なしでは登る事などとてもできそうもないツルツルの壁だ。
その壁の一つに扉があり、四人はそこからここに出て来たのだ。
ちなみにその扉は今はもうそこには無い。
四人が扉を出た後、音もなく消えて無くなった。
圧迫感のある巨大な壁を見上げていくと、壁の先には青空が広がり、一部には日の光も届いている。
という事は、少なくともここは室内ではないようだ。
ユウがしばらくの間、その巨大な壁を見つめていると、ユウのすぐ隣に居たフィノが、突然、その壁に向かって走り出した。
フィノは勢いよく突進していくと、壁の寸前で彼女の持つポテンシャルを存分に発揮して跳びあがり、目の前の壁を蹴ってその壁を駆け上がっていった。
しかし、結構な高さまでは行ったものの、最後までは登れずに落ちてくる。
それは、何度試しても同じ結果になった。
フィノが出来ないものを他の人間が出来る訳がない。
この壁をよじ登って行く事は不可能だと考えた方がいいようだ。
とはいえ、四方を壁に囲まれている訳ではないので閉じ込められている訳ではない。
なので、唯一壁の無い開いた方向へと歩いて行く事はできる。
ユウは三人を促すようにしてそちらの方向へと歩き出した。
少し行くとT字路のような三方向に進める分岐点が現れた。
と言っても、左右に続く通路の両脇はやはり壁に囲まれていて、見た目はほとんど変わらない。
この状況、どうやらここは迷宮の様だ。
という事は、この迷宮を脱出する事が今回の目的だという事だろうか。
「さて、どっちに行こうかな?」
思わずそんな声が漏れてしまう。
ユウは三叉路の真ん中まで進み出て、左右に伸びる通路を見比べてみた。
しかし、どちらもほぼ同じ景色に見える。
どちらを向いても巨大な壁に挟まれた通路なのだから仕方がない。
「どっちに行っても同じだろ。どうせわからないんだから」
アーダが吐き捨てるように言ってくる。
随分と投げやりな言い方だが、ある意味正論だともいえる。
この状態では、カンだけを頼りにせざるを得ないというのが現状だろう。
「でも、もしかしたらここでの選択が後で大きく効いて来るかもしれないからな…」
ユウはまだ少し迷っていた。
「と言っても、違いは特に見られないみたいだし、悩んでも仕方がないんじゃないの?」
「迷っている内にどんどん時間が経ってしまいますしね」
が、フィノもルティナもアーダと似た様な考えらしい。
ユウとしても、必要以上に悩むつもりはなかった。
どのみち、この時点でわかる事などほとんど無いのだ。
どちらに進んでも、何らかの新しい情報が得られる事が期待できる。
「わかったよ。なら、ここはどっちに行くべきか、アーダに決めてもらおう。でもその前に…、ちょっと待ってて」
ユウはアーダに指示した後、突然の指名に戸惑いを見せるアーダをそこに残し、自らは三叉路に唯一立つ壁の前へと進み出た。
そして、腰のクリスタルの短剣を抜き、壁の表面に印しを付ける。
「なるほど、目印を残して行くのですね。そうすればもしここへ戻って来るような事があってもわかりますものね。私も、何か残して行った方がいいとは思っていました。この壁に傷がつけられるとは思っていませんでしたけど…」
「私もよ、ルティ。実はさっき、壁に剣を突き刺す事が出来れば、もっと上まで登って行けるんじゃないかと思って試してみたんだけど、刺さるどころか壁には傷一つつかなかったわ。だから…、びっくりした」
その話を聞いて、ユウは驚いて後ろを振り返った。
「えっ、そうなの? 簡単に印がつけられたけど…」
なので、ユウはこの壁がそんなに硬い物だとは思っていなかったのだ。
ユウの持つ短剣は強い日の光の中で見ても、淡い光を発している。
その短剣を改めてよく見てみても、刃先に傷などはついていない。
もちろん、欠けたりしている部分も見られない。
もしかしたら、この短剣には、その素材であるシャイニングクリスタルの特性意外に、何か特別な力が込められているのかもしれない。
そんな事を考えて、しばらく黙りこんでいたユウの顔をルティナが覗き込んでくる。
「そんなに考え込む事なんてないじゃないですか。印がつけられるのならその方がありがたい訳ですし」
反対側の隣ではフィノがユウの手を引っ張ってくる。
「そうそう、こんな所にじっとしていても、きっといい事なんて何もないもの。どっちでもいいから、早く前に進みましょうよ」
ユウはアーダの方を振り返って見た。
「どう? アーダ、どっちに進んだ方が良さそうかな?」
すると、アーダは迷わず壁際にいるユウ達から見て左側の通路を指差した。
スタート地点から見た場合、右折する方向の通路という事になる。
どういう意図で決めたのかはわからないが、というか、アーダの事だ、それこそ全くのカンなのかもしれないが、迷いのない決めっぷりは、何というか、とても気持ちがいい。
ユウはその判断に従う事にした。
「わかった。行こう」
アーダが頷き、先頭を歩き出す。
ユウもフィノとルティナの背中を押す様にしてアーダの後ろに付いて歩き出した。




