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大降下

島の端から勢いよく飛び出したクリアムは、すぐに島の側面に糸を飛ばした。

そうやって島にくっつく事によって、落ちる速度を抑えるとともに、落ちる方向を調整する。


そこから更に糸を伸ばして下りて行ければ、どんな所でも下りる事が出来そうにも思えるのだが、クリアムもさすがにそんなに長くは糸を伸ばせない。

それに、ぐずぐずしていてこのまま島に引っ張られてしまっては、針山からどんどん離れてしまい、落ちた時に糸を飛ばせる場所が無くなってしまう。

なのでクリアムは方向を定めた後、一旦糸を切断した。


そこから針山の山頂までは、糸を飛ばせる場所がない為、落ちるに任せるより仕方がない。

重力に引かれ、地面がぐんぐん近づいて来る。


見ると、ルティナは目を固く瞑り、強烈な加速度に必死に耐えている。

ユウは、繋いでいたルティナの手を少し強く握ってあげた。

すると、それに応じるようにルして、ルティナも強く握り返してくる。


ルティナの上ではフィノがきちんと目を開けて、落ち行く先を見極めている。

頭を抑えつけられるような格好になっている為、アーダの顔は見えないが、特別、鼓動が高鳴っている様子も見られない事から、アーダもフィノ同様、落ち着いているものと思われる。


クリアムは可能な限り身体を開き、出来るだけ速度を落とそうと努めている。

が、それでも、落下の速度は抑えきれない。


そうこうしている間に、あっという間に針山の山頂の高さを通り過ぎた。

ほぼ時を同じくして、クリアムが針山に向かって糸を飛ばす。


糸は確実に針山を捉え、と同時に皆の身体に大きなGが襲いかかった。

糸で全身をぐるぐる巻きにされているので飛ばされる事はないのだが、激しい衝撃に一瞬意識が飛びそうになる。


しかもその衝撃は一回だけ終わらなかった。

同様の衝撃が何度も起こり、その都度その衝撃を耐えなければならなくなる。

これは、クリアムが何度も糸を飛ばし直しているが故に起こった現象の様だ。

あの高さから落ちた四人を受け止めるには、クリアムの糸の強度は足りていない為、何度も糸を飛ばして徐々に速度を落とすより方法がないのだ。


そんなクリアムの必死の努力が実を結び、針山の尖った部分を通り過ぎ、只の巨大な壁にしか見えない針山の下の部分も半分程下った頃になって、ようやく落ちる速度が落ちて来た。

こうなると、糸を発するクリアムの動作にもずいぶんと余裕が出来てくる。


身体に掛るGも随分と軽くなってきた。

と、クリアムは、突然、壁とは反対側に糸を飛ばした。

その辺りはもう森になっている。

その森の方向に糸を飛ばしたのだ。


そして、更にその木々を何本か渡りながら、ゆっくりと森の中へと着地する。

後で聞いた話だが、壁から離れたのは壁に激突するリスクを避ける為だという事らしい。


クリアムは無事に着地する事が出来た事を確認すると、すぐに糸を外し四人を開放した。

そして皆が無事な事を確認した後、クリアムは崩れるようにその場に倒れ込んだ。

恐らくは自分ひとりならここまで消耗する事もなかったのかもしれないが、四人を背負っている事で、その負荷は何倍にも膨れ上がっていたものと思われる。

それでも無事に四人を送り届けてくれたのだ。


「ありがとう、クリアム。おかげで無事に神域との境界を超える事が出来た、助かったよ」

ユウが声をかけると、クリアムは僅かに顔をあげ、ユウを、そしてアーダを見た。


アーダがクリアムの言葉を通訳してくれる。

「自分一人ではとてもあの島には渡れなかった。だからここへ来れたのは君達のおかげだ。感謝するのは私の方だ、だってさ」


「でも、疲れただろう。フラフラじゃないか」

クリアムは頑張って立ち上がろうとしているものの、足がふらついて立ち上がる事が出来ないでいる。


アーダはクリアムの前へと回り込んだ。

「さすがにちょっと疲れたみたいだが、少し休めば回復するから大丈夫、だそうだ」


ユウは小さく頷いた。

「で、これからクリアムはどうするつもりだ。 俺達はカノンを目指して行くつもりだけど、一緒に来るか?」


それを聞いたクリアムはすぐに頭を振った。

アーダが通訳してくれる。

「クリアムがここに来ようと思ったのは、行きたい場所があるからなんだそうだ。だからあたし達と同行できるのはここまでだって言っている。感謝はしているけど、一緒に行くのは無理だって」


「別に無理に一緒に行く事はないから、それならそれで構わないけど、アーダはちょっと寂しいんじゃない? 話も分かるみたいだし、随分と仲良くなったみたいだしさ」

「確かに仲良くなったとは思うけど、だからと言って常に一緒に行動する必要はないだろ。もしかしたらまた会う事だってあるかもしれないしな」

「それはまあ、そうだけど…」


ユウはもしかしたらアーダはクリアムと離れるのを嫌がるのではないかと少し危惧して聞いてみたのだが、アーダの反応は意外にあっさりしたものだった。

けどまあ、クリアムと一緒に行くなどと言われても困るのも確かなので、ごねられなくてよかったという事になるのだろう。


「で、どうする? クリアムは自分の事は大丈夫だから置いて行っていいと言っているけど、そうするか?」

アーダが普通に話しを進めてくる。

ユウは慌てて思考を戻した。


「い、いや、もうすぐ日が暮れそうだから、今日はここで休む事にしよう。下りる時に見た感じだと、近くに街は無いようだったしね。尤も、ここに街が有るのかどうかはわからないけど…。クリアムだって朝まで一緒にいるくらいはかまわないだろう? 真っ暗になる夜間に無理に移動する事もないだろうし」


アーダがクリアムの目をちらと見る。

「クリアムもそれならいいってさ」

「なら、決まりだな」


どのみちルティナがまだ回復していないので、すぐに動くのは無理だという事情もある。

ルティナは、一連の落下の衝撃に耐えきれなかったようなのだ。

ユウはクリアムの事はアーダに任せ、自分はルティナとルティナを介抱しているフィノの所へ近づいて行った。

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