別れの余韻
その夜はクリアムの周りに皆でかたまって眠り、翌朝、四人はクリアムと別れ、壁沿いを西に向かって歩き始めた。
クリアムは森の中を突っ切って行くという事で、そこで別れる事になったのだ。
実は、ユウ達もクリアムと一緒に同じ方向に行くという選択肢もない事はなかった。
というのは、朝までの間にユウには何度か例の念声が聞こえたのだが、その念声の方向がクリアムの行こうとする方向と合致していたからだ。
しかし、以前来た時の経験から、念声の主のいる方向についてはわかっていたし、其処へ行く為の近道も教えてもらって知っていたので、近道を選択する事にしたのだ。
壁沿いに行けば迷う事なくその場所に着く事はわかっていたし、そこまでの距離も、もうそんなに遠くはない所まで来ている事も予想出来ていたので、そっちの方が早いだろうと判断した訳だ。
進むべき道筋がわかっている事で随分と心強く思える、という事もある。
壁沿いは、森との間に若干の隙間があり、そこが天然の道の様になっていて歩きやすくなっている。
二、三人程度なら横に並んで歩く事のできるくらいの幅なら充分にある。
なので、ここは二列になって行く事にした。
そして今、ユウの横にはルティナが並んで歩いている。
そのルティナがユウの顔を覗き込むようにして聞いてきくる。
「念声は今も聞こえているのですか?」
「いや、今は聞こえない」
夜の間は何度か聞こえたあの念声も、今は全く聞こえていない。
ユウの頭の中は、朝の森の中同様とても穏やかな状態だ。
「他の声も聞こえませんか?」
「そう言えばそうだね。念声らしい念声は聞こえて来ないな」
考えてみれば、前回は、神域に入った途端に幾つか声が届いて来た訳で、その時と比べると今回は随分と静かな気がしてくる。
定期的に例の念声だけは届いて来るが、他の念声は今の所聞こえて来ていない。
「何か気になる事でもあるの?」
「いえ、そういう訳ではないのですけど…」
「ん?」
ふと見ると、ルティナは後ろを振り返っている。
その視線の先を追いかけて見るが、特に何もないようだ。
「…何でもありません」
ルティナはユウの視線を感じると、小さくそう言い、前に向き直った。
「ひょっとして、まだ回復しきれてないとか」
一晩寝た事でだいぶ回復したとはいえ、ルティナが昨日、大分消耗していた事も間違いない。
そのダメージがまだ残っていたとしてもおかしくはないのではないか、とユウは思ったのだが、ルティナはそれを強い口調で否定してきた。
「そんな事は有りません。大丈夫です」
そして、少し前を行くフィノとアーダの所へ小走りに駆けて行く。
入れ替わるようにして、アーダがユウの横まで降りてくる。
「なんだなんだ。ルティナに、何かひどい事でも言ったのか?」
「ひどい誤解だな。そんな事、言う訳がないだろう」
「…まあ、それもそうか…。けど、じゃあなんでルティナは駆けて来たんだ?」
アーダは、ルティナが後ろを振り返っていたのを見ていたのか、その辺りを含め周囲をざっと見まわした。
が、そこには特に何がある訳でもない。
ユウはそんなアーダの姿を見て思いついた事があった。
「そういえば、俺にはクリアムの念声って聞こえなかったけど、アーダにはクリアムの念声が届いていたのか?」
アーダは首をかしげている。
「念声? いや、そんなものは聞こえなかったぞ。アイツの場合、ただ、目を見ていると、何となく思っている事が伝わって来る気がするんだ。だから、あたしの通訳は多分にあたしの憶測が混じっていると思うんだが、否定されなかった所を見ると、ほぼ合っていたんだと思うぞ」
「なるほどね。…でも、助かったよ、アーダがクリアムと通じてくれて」
「別に特別に通じていたとは思っていないけどな。でもまあ、ヤツは、何ていうか、うん、友達だな」
「なら、良かったじゃないか。友達が出来て」
「アイツがどう思っているのかは、分からないけどな」
アーダはその出自から、友達というものにほとんど縁が無かった。
なので、例えそれが獣であったにしても、友達だと思える存在が出来て嬉しかったに違いない。
今も何か思い出しているのか、その表情はアーダにしては珍しく柔らかだ。
「クリアムも一緒に来れればよかったのだけどな」
ユウが何となく思った事を口にすると、アーダは少し表情を固くした。
「いや、クリアムには何かしっかりした目的がある様だった。それが何かはわからなかったが、少なくともその目的が達成できるまでは、他の事は考えられないに違いない」
「確かに、それは俺も感じたよ。残念だけど仕方がないよな」
「ユウにはあたしもフィノもルティナもいるんだ。これ以上仲間が増えなくてもいいんじゃないか? 寂しいのならあたしが慰めてやるよ」
そんな風に言いながら、アーダが腕を絡めてくる。
ユウにはそんなつもりはなかったのだが、まあ、これはこれで悪くない。
何か察したのか、前を行く二人が一瞬後ろを振り返り、二人の様子を確認した。
が、一言言ってすぐに前へと向き直る。
「順番だからね」
アーダは軽く手を挙げそれに応えた。
ユウはアーダに腕を絡められ、二の腕に柔らかな感触を味わいながら、ゆっくりと前を行く二人に付いて行った。




