再びの神域
島の端ではアーダとクリアムが既に待ち構えていた。
アーダが三人の姿を見つけ、大きく手を掲げ三人を招くような動作で煽ってくる。
「もうすぐ、完全に針山を抜けるらしい。その時が一番のチャンスなのだそうだ。皆、急いで来てくれ」
見た感じ、島の前半分は既に針山地帯を抜け神域に入っているものと思われる。
が、アーダ達のいる場所は、進行方向から考えて最後尾に当たる場所になる為、まだ神域には入っていない。
恐らくは、この島の中で一番最後に針山を越える事となるものと思われる。
これは確かにギリギリだったと言えそうだ。
さすがに、寄り道をしていたら間に合わなかった可能性が高い。
その場合、島が次に何か背の高いものの側を通る時まで、ここで足止めを喰らう事となる訳で、どれだけ待たされるかわからない状況になる所だった。
ユウが、アーダに招かれるままに近づいて行くと、アーダはユウの背負っていた盾を外し、自分の背中に括り付けてから、ユウにクリアムの背中の左側にしがみつくよう促した。
同様に、反対側の背中にルティナを導く。
こうすると、クリアムは背中にユウとルティナを並べて背負うような格好になる。
通常ならかなり苦しいこの格好も、クリアムが糸で補助してくれているおかげで、少なくとも乗っている方としては、さほど辛くはなっていない。
この状態で、充分しがみついて行けそうだ。
そして、その上からアーダとフィノがユウとルティナに覆いかぶさるようにして掴まり、更に全員を糸でぐるぐる巻きにして、完全に固定する。
そうしないと、落下の際のGに耐えられないようなのだ。
この状態は、さすがにクリアムもかなり動きづらそうだ。
が、来る時の様に手や足に掴まられるよりはまだマシだという事らしい。
準備が整ったのを確認し、アーダが声を掛けてくる。
「針山の端が見えて来たら、ここから跳び下りるらしい。皆、振り落とされない様しっかりクリアムに掴まっていてくれ」
「わかった」
が、そうは言ったものの、実はユウにはもうほとんどできる事は無くなっていた。
糸とアーダにがっちり掴まれ、動けなくなっていたからだ。
クリアムはひたすら下を見つめ、飛び降りるタイミングを計っている。
ユウもクリアムの肩越しに下の様子を窺って見た。
遥か下に、無数の点となった針山が見えている。
ユウは、この島が、針山の上のギリギリの所を移動しているものと勝手に思っていたので、驚いた。
こんなに高い所を飛んでいるのだと思うと、恐怖心も湧き上がってくる。
こんな時、遠くを眺める事が出来れば、まだ恐怖心を誤魔化す事も出来るのだろうが、クリアムの背中に沿うようにきつく括り付けられている状態のユウには、遠くを眺める事すら難しい状況だ。
なので、ユウは覚悟を決めた。
これでも島の高度はまだ低いはずなのだ。
そうでなければ、クリアムは下りる判断が出来ないはず。
クリアムが下りようとしている事がその証拠だ。
ふと横を見てみると、ルティナが言葉を失っている。
遠くの景色を見ていた時は随分と楽しそうにしていたルティナだが、この高さから飛び降りるとなるとさすがに恐ろしくなったのだろう。
ユウはルティナに手を差し伸べた。
「ルティナ、捕まって。怖かったら目をつぶっていていいよ。俺が手を掴んでいれば安心できるだろ」
ルティナは小さく頷くと、ユウの手を取り、そしてしっかり握り締めた。
その上からフィノが手を重ねてくる。
「なら、私も」
「あたしもだ」
アーダはユウに腕を絡めている。
そう表現すると、少しばかり艶めかしく感じられるかもしれないが、実際は羽交い絞めに近い状況だ。
が、何かあった場合に逸れづらい事も事実なので、ユウはされるがままになっておく事にした。
クリアムはずっと緊張状態にあるのか、しばらく下を向いたまま、固まって動かないでいる。
眼下に広がる剣山の峰々は、ゆっくり後方へと動いて行っている。
その速度は一定で、しばらくの間変わっていない。
少しして、やや離れた場所に木々の緑が見える様になってきた。
こんもりとした緑に埋め尽くされた湾の様な場所だ。
という事は、針山の神域側は一直線になっている訳ではないという事になる。
クリアムは、小さく身を屈め、飛び降りる準備に入った。
ルティナの緊張が、繋いだ手を通して伝わってくる。
直後、ついにその時がやってきた。
ユウ達の真下の位置に、それまでずっと続いていた幾何学模様が突然無くなり、代わりにもこもこした緑の絨毯が見えて来たのだ。
もこもこしているように思えるのは、そこに生える木の高さが違う為だ。
クリアムが、更に大きく身を屈める。
そして次の瞬間、クリアムは迷うことなく思いっきり空中へと飛び出していた。




