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移動開始

ユウが鞘の中に短剣を収めると、その瞬間、島全体が一回ガクンと大きく揺れた。

そして、足元の奥深くから、何やら野太い音がし始め、微かに振動の様なものまで感じられるようになる。

どうやら島が動き始めたらしい。


「一旦上に戻ろうか。アーダが心配するかもしれないし」

ユウは二人に声をかけた。

そもそも、この部屋の中には、短剣以外の物は何も置かれていない。

部屋には入口が一つしかなく、先に進む通路も無いようなので、戻るより仕方のない状況だ。


「わかったわ」

「アーダが降りて来た時に、誰もいなかったら不安に思っちゃいますものね」


ユウはクリスタルの短剣を収めた鞘を手にしたまま部屋を出ると、少々急いで階段を登り始めた。

足元の振動は特別大きくはならないものの、かといってなくなる事もないようだった。

ユウにとっては、先程までの様な無音よりはまだマシなのだが、この状況は不気味といえない事もない。

ユウは知らず先を急いでいた。


階段を登りきり扉を出ると、アーダが丁度階段を降りて来る所だった。

「島が動きだしたぞ。上手くすれば目論み通りあの針山を越えるかもしれないらしい。いつでも下りれるように、準備しておいてくれってよ」


「準備って言ったって、何を…」

ユウはアーダに返事をする途中で言葉を止めた。

ユウ達が登ってきた階段のある扉の横に、先程までは無かったはずの別の扉がある事に気が付いたからだ。


「この扉、ついさっきまでなかった…よな」

「無かった…と、思います。少なくとも気が付きませんでした」

「いいえ、確かに無かったわ」

首を傾げるルティナを尻目に、フィノがその扉に近づいて行く。


そして、フィノは躊躇なくその扉を開けた。

扉の向こうは、今度は階段ではなく普通の通路になっていた。

窓などの無い暗い通路が、真っ直ぐ続いている。

階段の時と同様、やはり仄かな光はあるのだが、通路の先まで見通す事は出来ない。


「どうしよう」

こういう場合、順当に考えれば行くべきなのかもしれないが、島が動き出したという現状では、アーダの言う様に下りる準備をしておいた方がいいというのも理解できる。

だが、この先に何か宝のようなものが眠っている事だって考えられない事もない。


「時間が無いなら、私がパパッと行って様子を見て来ようか?」

ユウの迷いを察したのか、フィノがそんな提案をしてくれる。

「せっかくここまで来たのですから、少しくらい寄り道をしても罰は当たらないのではないでしょうか」

ルティナも興味がある様だ。


と、その通路の前にアーダが物凄い速さで割り込んできて、そこで大きく両手を広げた。

「ちょっと待ってくれ」

見ると、アーダはクリアムの背中に乗っている。

アーダが素早く移動できたのは、クリアムに跨っていたからだという事らしい。

アーダはクリアムの背中をポンポンと叩き、宥めている。


「コイツが言う事には、下に下りるのにも都合のいい場所というものがあるらしいんだ。あたし達四人を連れて下りるとなると、なおさらその場所が重要になるらしい。あたしらの重さまで支えなくてはならなくなる訳だからな、なるべく高い位置にいる時から糸を飛ばして支えたいのだそうだ。その為には糸を取りつかせる場所が必要だ。そして、針山の側面ならその目的に合致する。だから、山を越えた直後が下りるのに打って付けのタイミングなんだそうだ。そこを逃すと、次はいつそのタイミングが来るかわからないらしい。だから、逃したくないんだとよ」


「すぐにもどって来るから大丈夫よ。そんなに時間はかけないわ」

フィノはまだ通路の先を睨みつけている。

確かに、そこには何かが存在するという予兆のような物がある。


しかし、ユウは、今まさにアーダを振り切って走り出しかねない状況だったフィノの手を掴んで引き止めた。

「この通路の先に興味をそそられるのは事実だけど、この島に来た目的はそこへ行く事ではないからさ、ここはクリアムの意見を優先させようか。クリアムの力を借りなければ俺達はここから下りられない訳だし」


ユウのこの言葉で、フィノは切り替えた様だった。

「…わかったわ。なら、早く行きましょう。で、何処に行けばいいの?」

すぐに振り向き出口を探す。


アーダが更に言ってくる。

「こうなったら、私達がこの島に上陸した場所まで戻るのが一番手っ取り早いんじゃないか。他の場所だと迷う可能性もあるようだし」


「わかった。そうしよう」

確かに、下りるのにどうせ島の端まで行かなければならないのなら、一度行った場所の方が迷いにくい。

迷ったが故にタイミングを逃したのでは意味がない。


ユウはすっぱり先に進む事を諦めると、フィノと、そしてルティナの手も引き、二人を促す様にして、この城の出口に向かって走り出した。

そんな三人をクリアムに乗ったアーダが追い越して行く。


「先に行って準備しておくから、なるべく早く来てくれよな」

そして、外に出ると、一気に加速し消えて行った。


少し遅れてユウも古城の外に出る。

「えっと、どっちから来たんだっけ?」


「こっちよ。ついて来て」

一瞬迷ったユウに対し、フィノは全く迷っていない。


「早く行きましょう。置いて行かれたら大変です」

ルティナも道はわかっているらしい。


ユウは先を行くフィノとルティナに煽られながら、ふと後ろを振り返り、今出て来たばかりの城の方を振り返って見た。

城の外見にも、もしかしたら何か変化が起こったかもしれないと思って見てみた訳なのだが、特に変わった点は見当たらないようだった。

が、城は何故かとても寂しげに見える。


そんな風に思う気持ちを振り切って、ユウはもう一度しっかり前に向き直った。

そして、藪を突っ切ると、森の中へと突入して行った。

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