ルティナと涼風
バールリッツの全速はユウの想像をはるかに超えたものだった。
周りの風景があっという間に後ろに流れ消えて行く。
障害物などの碌にない広大な草原地帯では、速度感覚がマヒしてもおかしくないものだと思うのだが、うねる丘や所々に存在する巨大な岩亀などが、ものすごいスピードで後ろに消えて行くのを見ると、バールリッツの凄まじさを感じずにはいられない。
これでは、生半可な獣では、襲ってくるどころか、下手をするとその存在にすら気が付かない可能性だってある。
が、振り返るとラビアローナもしっかり後ろに続いていた。
ラビアローナもまたユニコーンだという事だ。
ユウは掴んだルティナの手を強く引っ張り、ユウの腰に回させた。
そうする事により今までよりも身体が密着するようになる。
ルティナと一体化する事で、風の抵抗をなるべく小さくするという意図ではあったのだが、そうなると必然的にユウの背中にルティナの胸が強く押しつけられる事になってしまう。
しかも、ユウの意図を察したルティナが、風の抵抗をよりなくそうと、今までにはない程密着してくる。
ユウはその感触に、思わず身体を起こしてしまいそうになり、ルティナに強引に引き戻された。
「ユウ様、起き上がってはいけません。飛ばされてしまいます」
「ご、ごめん、そうだった。助かったよ、ありがとう」
ルティナのおかげで何とか体勢を整え直したユウだったが、ルティナは背中に密着したままだ。
ユウがそうする様に促した訳だし、そもそも現状そうする事が一番風の抵抗を受け流しやすい訳なので、無下にはする事が出来ない。
しかし、どうしても気になってしまう。
「ルティナ、ごめんな。苦しいだろう?」
「何がですか?」
「その…、胸が…」
ユウのお腹に回したルティナの手が小さく動いたのがわかる。
しかし、ルティナはその手を放すような事はせず、逆により強く抱きしめて来た。
「この間まで離ればなれになっていたのですから、このくらいはいいのではないですか? 必用な事でもありますし…」
そんな風に言われてしまうと、ユウとしても何も言えなくなってしまう。
ルティナはアーダとリスティに戻るに当たって、主導的な役割を果たしてきたと聞いている。
考えて見れば当たり前だ。
アーダはリスティ以外の場所の事など、全く知らなかったのだから。
「ルティナは、アーダの事、連れて来てくれたんだよな、ありがとう。アーダも感謝していたよ」
仮にアーダが一人きりで飛ばされていたとしたら、未だに合流できていなかったかもしれない。
ヘタをしたら今頃は残りの三人で、アーダを探しに出なければならない事態になっていたかもしれなかったのだ。
「いえ、私の方こそアーダがいてくれて助かりました。アーダは接近戦に強いですからね、助けて貰っちゃいました」
何やら少々不穏な内容の話が混じっていた様な気がしないでもないが、ユウは今はそれには触れないでおくことにした。
軽く流して先を続ける事にする。
「けど、涼風達に乗せてもらう事になったのも、ルティナががんばったからだろう? そのおかげで、俺もその後涼風達に送ってもらおうっていう発想になった訳だし、本当、助かったよ」
「ユウ様にそう言っていただければ、私としては嬉しいです」
言いつつ、ルティナは小さく体を揺すった。
ちょっとしたテレからくる反応なのかもしれないが、そうすると余計に背中の感触が気になる状況になってしまう。
ユウはその感触をなるべく忘れるよう(なかなかできないのだが…)話に集中する為に、ずっと気になっていた事を聞いてみる事にした。
「ルティナはどうやって涼風の事を捕まえたの? 簡単にできる事じゃあ無いよね」
ルティナの声がユウの耳のすぐ後ろから返ってくる。
「涼風と会えたのは本当に偶然だったのです。迷い込んだ森の中で、たまたま涼風を見かけて…、涼風の事は一目見てすぐに分かりました。涼風も私の事がわかったみたいで近づいて来てくれて。あの時はなかなか知っている場所に出る事出来ず、本当に困っていたので、私の方で一方的にまくし立てて頼み込んでしまったのですが、彼等なら言えばわかってもらえると思っていましたし、実際、涼風は私の頼みを聞いて春風を呼んできてくれました。それで、私達は彼らに分乗して来る事が出来たのです」
「なるほど、そういう事だったのか…」
涼風なら、ルティナの言葉を理解できても不思議ではない。
ルティナがは一方的にまくし立てた様な事を言っているが、きちんと伝わるように論理的な話し方をしたのだろう。
涼風と直接話をした時に、あまり詳しく話をしていないのにもかかわらず、しっかり伝わっている感じがあったのは、恐らくはルティナの話を涼風がしっかり理解していたからだ。
「涼風は本当に頭のいい馬ですよね。あの時、涼風と会っていなければ、私達はまだあの森で迷ったままだったかもしれません。それもこれもユウ様と涼風の間に信頼関係があったからこそです。それがあったからこそ、私の話も聞いてもらえたのだと思います。だから、ユウ様のおかげでもあるのです」
ルティナはそう言うと、更にユウに体重を預けて来た。
ルティナの言う、ユウのおかげ、というのは少々こじつけっぽいが、ルティナにこんな風に甘えられるのは、もちろん嫌な訳がない。
が、背中の感触から意識をそらせる事には、失敗している。
それでもユウは、その事をルティナに悟られない様、出来るだけ平静を装って、只黙って前方を見つめるよう心掛けた。




