再出発
その日の夕刻、ルティナの見込み通りにルティナとアーダはユウとフィノに合流した。
涼風達とはリスティの入口近くで別れたらしく、屋敷には徒歩での到着だった。
彼等は街には入る事なく、来た方向とは別の方向へと去って行ったらしい。
バーランド家にルティナが到着すると、それを待ち構えていたラビアとアテルは喜び、その夜のバーランド家はちょっとしたパーティとなった。
ラビアはそこでルティナに指輪を手渡した。
指輪は、朝市で買ったおもちゃの指輪だったのだが、屋台での朝食の後、ラビアのたってのお願いで、購入する事にしたものだ。
ルティナはそれを喜び、以降、その指輪を身に付けている。
そして、そのパーティが終わると、その夜は久々に四人で一緒に就寝した。
と言っても、ルティナとアーダはかなり疲れていた様で、ベッドの上に雑魚寝をするような格好になってしまった訳なのだが、用意してくれた部屋のベッドが大きなモノだった為、誰かが弾かれる様な事もなく、皆でかたまって眠る事が出来た。
久々にユウと一緒に眠る事で、二人とも心から安心する事が出来たのか、ルティナとアーダは特にぐっすり眠っている様だった。
そして翌日、朝早くにユウ達一行はバーランドの屋敷を出た。
折角ルティナが戻ってきたのに、すぐに行く必要もないのではないか、という考えもない事もなかったのだが、借り物とはいえ目的の『珠』が手に入ったという現状では、いつまでも留まっている訳にはいかないし、この世界に来て以降、ずっと助けを求めているあの声に、あの時は随分と近づく事が出来たはずで、それならば、とにかくもう一度あそこへ行って、何としてでもその先に進まなければならない、という思いが強かったのだ。
もちろんこれはフィルスとラインラに断った上での行動でもある。
早朝に出る事にしたのは、ラビアとアテルが起きる前に屋敷を出る、などという事ではなく、その時間に、リスティの郊外で待ち合わせをしていたからだ。
待ち合わせの場所に着くと、約束の相手はもうそこで待っていた。
『お持ちしていました、ユウさん。またお会いできてうれしいです』
そう言って頭を下げてきたのは涼風だ。
春風と秋風、それともう一頭、知らない若い馬もいる。
昨晩、ユウは涼風にもう一度連絡を取り、ある場所まで送ってもらうようお願いした。
涼風は二つ返事で承諾し、こうして人数分の馬を用意しておいてくれたのだ。
『昨日はルティナとアーダを街まで連れて来てくれてありがとう。それと、面倒な事を急に頼んでしまって、申し訳ない』
ユウがお礼を言うと、涼風は嬉しそうに体を震わせた。
『いいえ、このくらいの事ならお安い御用です。でも本当にいいのですか? もっと先まで送って行ってもいいのですよ』
『いや、北の湖の畔まで行ってくれればそれでいいよ。それ以上先まで行ったら戻って来るのが大変だし、そこから先は、他のヤツに頼んであるしね』
『遠慮ならしないでくださいね』
『大丈夫、遠慮なんかしていないから。そんな心配はしなくていいよ』
遠慮どころか、あまり先まで送ってもらうとなると、迷惑をかける事になってしまう。
前回は、魔獣だらけの二段の丘のその先で、乗っていた馬を放さざるを得なくなってしまった訳で、今回はそれと同じ轍は踏みたくなかったのだ。
ふと見ると、フィノが春風に、ルティナが秋風に寄り添って、彼等の頭を撫でている。
ルティナも、昨日は涼風と春風には会っているのだろうが、秋風に会うのは久しぶりのはずなので嬉しそうだ。
春風も秋風も、久しぶりのはずなのに二人にすっかり懐いている。
そこから少し離れた場所に、アーダと一頭の若い馬がそれぞれポツンと立っていた。
ふたりともお互いを気にしている様だが、他の二組の様には親しくなれないでいる様だ。
それはそうだ。
お互いに初対面なのだろうから、そうなるのも仕方がない。
ユウが彼等のいる方向を見ているのを見て、涼風が教えてくれる。
『そこにいるのがユウさんに助けてもらったあの時に生まれた馬です。まだまだ未熟で人を乗せるのにも慣れていませんが、乗せるのは四人だという事でしたので、私が二人乗せるのよりはいいのではないかと思って連れてきました。そうだ、ユウさん、この子にも名前を付けて頂けませんか? この子の命を助けてくれたユウさんに名前を付けてもらえると、この子も私も嬉しいのですが…』
『いいの?』
『ぜひ、お願いします』
そう言われて改めてその馬を見てみると、その馬は確かに他の馬より若い馬である事がわかる。
温厚な性格なのか、興奮したような様子もなく、常におとなしくしているようだ。
ユウは少し考えてから、決めた。
『それなら、『凪』なんてどうかな?』
これは、既に名づけた三頭が風にちなんだ名前だった為、そこから思いついた名前だ。
大人しい馬というイメージにも合致する。
『ぜひ、呼んであげてくださいませんか』
涼風に促され、ユウはアーダと微妙な距離感で佇んでいる若馬へと近づいた。
「凪、アーダの事、よろしく頼むな」
言いつつ首筋を撫でてやると、凪は小さく嘶いて、それに応じた。
そしてアーダとの距離を自ら動いて縮めると、アーダの身体に自分の顔を押し付けた。




