再会
約束の湖の畔には、その日のうちに着く事が出来た。
湖に出るだけならもっと早くに着いていたのだが、約束の場所は湖の北側だった為大回りが必要で、それなりに時間がかかってしまったのだ。
湖の北側に人の住む村は存在しない。
正確に言えば更に北に行けば小人の村が1つあるのだが、湖の近辺には人の気配などほとんど無い静かで寂しい森が広がっている。
そんな森の湖沿いの一画に小さく開けた土地があった。
そこは背の高い木などの生えていない草だけが生えている場所で、その為、比較的視界が開けている。
そこが約束の場所なのだ。
ユウがそこへ近づいて行くと、それにタイミングを合わせるように、正面の森から二つの大きな影が現れた。
その姿を見た途端、涼風達が歩を止める。
警戒態勢に入ったらしい。
『ユウさん、あれ…』
『大丈夫、警戒しなくていいよ。彼等も俺達の仲間だから』
言いつつ、背中を優しく叩いてやるのだが、涼風はまだ警戒している。
春風、秋風、それに凪も同様だ。
無理もない。
そこに居たのは、自分達よりも二回り以上も体の大きなユニコーンだったのだから。
その内の一頭は、遠目で見ても長く鋭い立派な角を備えている。
涼風達が、恐ろしく思わない訳がない。
「大丈夫、彼等は襲ってきたりしない。意外に優しいヤツなんだ」
ユウは涼風の子供達にも聞こえるよう、わざと口に出して涼風を宥めた。
と、その言葉に返事が返ってくる。
『意外にっていうのはどういう意味だ。俺は馬なんか襲ったりしねえぞ。って、何なら一回襲って見てもいいけどな』
冗談なのはわかっているが、たとえ冗談でも襲うふりなどされた日には、涼風達はパニックになってしまう。
なので、そうならないようユウが言葉を探していると、少し遅れてラビアローナが諌めてくれる。
『そんな事をしたら怒りますよ、バールリッツ。大人しくしていてください。それでなくともあなたの身体は大きいのですから』
その声でバールリッツは静かになった。
『………』
助かった。
相変わらず、バールリッツはラビアローナに敵わないようだ。
そのラビアローナの方へと視線を移してみると、彼女の額には短剣程度の小さな角が生えているのが見て取れる。
新しい角が生えたのだ。
生え代わりの不安定な時期は無事に過ぎたという事だろう。
ユウは不安げな涼風を宥めながら、何とかバールリッツのすぐ隣にまで涼風を進めた。
そして、涼風の背中の上で立ち上がり、バールリッツの大きな背中に飛び移ってよじ登る。
同様にフィノがユウの後ろに乗ろうとすると、バールリッツはそれをわざと邪魔して登れない様にし、フィノを地面に落ちるよう仕向けた。
女好きのバールリッツだ。
フィノに悪さをする為にわざとやったに違いない。
案の定、バールリッツは長い舌でフィノを舐め回すべく、舌を伸ばしてフィノに迫っていくのだが、フィノはあっさりそれを掻い潜り、うまく躱してユウの後ろへ跳び乗ってくる。
バールリッツの背中の上に道具を使わずに跳び乗る事など、フィノ以外にはできない芸当なのだが、逆を言えば、フィノにとってはそれくらいは苦もなく出来る行為だともいえる。
バールリッツの出したちょっかいは、失敗に終わったという事だ。
しかし、バールリッツはめげる事なく次のターゲットを求めて辺りを見回し始めた。
だが、その対象であるルティナとアーダは、この間にラビアローナの背中の上に収まっている。
バールリッツは小さく舌打ちした。
「ちっ」
その姿を横目で見ながら、ユウはこの一連のやりとりの間、ずっと固まっていた涼風に声を掛けた。
「涼風、ここまで送ってくれてありがとう。春風も秋風も凪も皆ありがとな、助かったよ」
涼風は、ユウがユニコーンと対等に渡り合っている事がわかり、驚くと同時に安堵した様だった。
他の三頭の馬達を促すようにして、四頭で集まり纏まっていく。
『ユニコーンの知り合いがいるなんて、ユウさんはやっぱりすごい人だったのですね。でもわかりました。この先はユニコーンさん達に送ってもらうのですね。それなら私達も安心して戻る事が出来ます』
どうやら涼風はこれから先のユウ達の旅を心配してくれていたらしい。
その旅にユニコーンが同行する事を知り、安心したようだ。
『この後、すぐに日が暮れて暗くなってくると思うけど、大丈夫?』
『適当な所で休んでから帰りますから、心配いりません。いつもの事でもありますしね。それより、ユウさん、ユウさんの方こそ、早く行ってください。早く行った方がいいのでしょう?』
涼風は気を使ってくれているようだ。
ユウはそれに甘える事にした。
『ありがとう。まだ日が沈むまでには少しあるみたいだからね、そうさせてもらう事にするよ。涼風達も気を付けて帰ってね』
『ユウさん達こそ、気を付けて』
涼風はそう言うと、他の三頭の馬を促す様にして走り始めた。
「ありがとう、春風」
「秋風も、元気でね」
「凪も、ありがとな」
フィノ達三人の声に見送られ、四頭の馬は同時に大きく尻尾を振った。
そしてその後一気に速度を増して駆けて行く。
彼らの姿はすぐに森に隠れて見えなくなった。




