念声(こえ)
ユウはその念声が誰のものかわかるまで、少し時間がかかってしまった。
その間にも、涼風は繰り返し声を飛ばしている。
『ユウ…、この念声は聞こえ…んか?』
『…ユウさん、聞こえ…ら返事を下さい』
その声色は特別慌てている様でもないが、一定の周期で休みなく続けている事から、何とか連絡をつけたがっている事が伝わってくる。
所々聞き取れない所もある事から、声の届くギリギリの所にいるのだろう。
次第に聞き取れるようになってきているようなので、徐々に近づいてきているものと思われる。
ユウは、なにはともあれ返事をする事にした。
『久しぶりだな、涼風。元気だったか?』
すると、涼風の声は途端に明るくなった。
『ユウさん、良かった。無事なのですね』
『無事? ああ、俺は元気だよ』
『よかった…』
涼風が本気で安心している事が伝わってくる。
だが、ユウには涼風にそんなに心配されるような事をした覚えはない。
『どうした、何かあったのか? 随分と連絡を取りたがっていたように思えるけど』
ユウの言葉に、涼風は声のトーンを戻して落ち着いた調子で言った。
『はい。今、私の背中の上にはルティナさんがいます』
唐突な報告にユウが思わず聞き返す。
『え?ルティナがいるの?』
『そうなんです。偶然見かけて、困っていた様なので、たまたま近くにいた春風を呼んで、今、リスティに向かっている途中です』
『春風を…呼んだ?』
『すみません、距離がちょっと有ったので私一人で二人乗せるのは不安があったもので…』
『っていう事はもしかして…』
『はい、春風にはルティナさんのお友達の立派な槍をお持ちの方を運んでもらっています』
という事は、つまり、アーダも一緒にいるという事だ。
『助かった。二人の事は俺も気になっていたんだ。ありがとう』
『いえいえ、お役にたてたのなら私も嬉しいです。それより、ユウさんはルティナさんともこうして話が出来るのですよね』
『ああ』
『なら、声を掛けてあげてください。ルティナさんもアーダさん?とかおっしゃるお友達も、何度もユウ様に念声を飛ばしていたようですから』
『そうなんだ…』
『ルティナさんが、なかなか念声がユウさんに届かないで困っている様子は、ずっと近くで見ていました。ここの所、その間隔がだいぶ開いてきているようでしたけどね。で、私が代わりにやってみようと思ったという訳です』
恐らく、彼らが今よりももっとリスティから離れた場所にいた時には、ルティナもアーダもユウに向けて念声を発していた、という事なのだろう。
その様子を見ていた涼風が、疲れてあまり念声を飛ばさなくなってきた二人に代わって、同じ事をやってみたという訳だ。
それを今回、たまたまユウがキャッチした。
『なるほど。わかった、こっちから念声を掛けてみる事にするよ。教えてくれて、それと、二人を運んでくれて、ありがとう』
ユウの言葉に、涼風は「どういたしまして」と言って静かになった。
その事を確認し、早速、ルティナに念声を飛ばしてみる。
『ルティナ、聞こえるか?』
返事はすぐに返ってきた。
『ユウ様! 無事だったのですね。…良かった』
ルティナの安堵が伝わってくる。
『ルティナも、元気そうで良かった』
『はい。アーダさんも一緒です』
『涼風から聞いたよ。二人とも無事で何よりだ』
『涼風…さん?』
『そう、二人が疲れている様だからって、代りに念声を飛ばしてくれたんだ。ついさっき、それが届いた。涼風の事、労わってやって欲しい』
『そうなんですか。わかりました。後でお礼を言っておきます』
ルティナはそう言うと、少し静かになった。
涼風の背中か首筋でも叩いてやっているのかもしれない。
と思っていた所に、アーダの念声が届いて来る。
『ユウ。無事でよかった。フィノも無事か?』
『ああ、あの時、フィノとは手を繋いでいたからか、離れないで済んだみたいなんだ』
『そうか。なら、こっちと同じだな。…で、そっちはもうリスティに着いたのか?』
『着いたよ。アーダの方こそどうなんだ。あとどれくらいでリスティまで来れそうなんだ?』
ずっと気になっていた事だったので、話の流れに乗って聞いてみたのだが、アーダはそれには答えず、しばらく沈黙の時が続いた。
何も言って来ない事を不審に思い、ユウが更に念声を掛けようとすると、
『リスティに着くのは恐らく夕刻頃になると思います』
返事はルティナから返ってきた。
アーダはルティナに質問を回していたのだ。
考えてみれば、当然だ。
アーダにはリスティまでの距離感などわからないに違いない。
対して、ずっとリスティに住んでいたルティナの見立てなら、大きな狂いはないはずだ。
『わかった。俺達はルティナの家でお世話になっているから、慌てないでゆっくり戻って来ていいからな』
『待っていてくださいね』
ルティナが念を押す様に言ってくる。
先に行かれる事を心配している様だ。
『もちろん。二人と合流するまでは動くつもりはないから、安心してゆっくり返って来ていいよ』
『わかりました』
ルティナは随分と安心したようだった。
少しして、アーダの声が届いて来る。
『あたし達の事を置いて行きやがったら許さねえからな』
ルティナからどう聞いたのかはわからないが、随分と怒ったような口調だ。
『だから、絶対に待っているって』
『ならいいけどさ』
アーダもユウの声を直接聞いて納得したようだった。
ユウが更に念を押しておこうかと考えていると、それを言う前にアーダが言葉を重ねてくる。
『人通りが増えて来たから、一旦会話はここまでにしようってさ。近づいたらまた連絡するから、その時はよろしく』
アーダはそれだけ言うと、返事は聞かずに一方的に念話を打ち切った。




