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バーランド家の現状

その部屋ではアテルとラビアが各々自由な姿勢で身体を休めていた。

初めて会った時にはユウに噛みついて来たアテルだが、今回はユウの顔を見るなり抱き付いて来る程の歓迎ぶりを見せてきた。


二人ともルティナがこの場にいない事に少々の戸惑いがある様ではあったのだが、ユウがルティナとはここで合流する事になっていると伝えると、それ以降はその事についてはあまり深くは追求してくる事なく、フィノが二人に話しかけたのをきっかけに、別の話題で盛り上がり始めた。

以前に来た時に、二人ともフィノとはだいぶ打ち解けていたようなので、話しに入りやすかったのだろう。

フィノは二人に両脇から抱えられるようにして、ソファーのある一角へと連れていかれている。


ユウもその話しの輪の中に入れてもらおうかと思い、その後を追おうとしたのだが、そう思った矢先に入口の扉が開き、フィルスが部屋に入って来た為、そちらの方へと向きを変えた。

そしてフィルスと握手を交わす。


「フィルスさん。お世話になっています」

「いいえ、お世話になっているのは私の方です。ユウさんのおかげでバーランド家は救われました」

「…という事は、あれは上手くいっているということですね」

「はい。ユウさんのおかげです」


あれと言うのは、ユウの見つけた石炭をビスクを介して売るという商売の事だ。

これによってバーランド家に一定の収入が入る事を見込めると思っていたのだが、どうやらそれが上手くいっているとみていいらしい。

館の様子やラインラの対応から、ある程度予想できていた事とはいえ、実際にフィルスの口からそう聞くと安心する。

フィルスの表情も以前よりも随分と明るくなっているようだ。


「いいえ、私は何もしていませんよ」

ユウはフィルスの言葉に右手を軽く左右に振ってそう応じた。

実際、ユウは炭鉱の位置とそれを取り扱う商人である所のビスクを紹介しただけで、自分では特に何もしていない。

なので、上手くいっていると言うのであれば、それはビスクの力による所が大きいのだろう。

誠実に対応してくれている事が窺える。


「いえ、炭鉱の事もそうですが、ビスクさんを紹介してくれた事も有難く思っています。彼には色々とご迷惑をおかけしていますからね」

「迷惑?」


迷惑、というからには、何かアクシデントでもあったのだろうか。

ユウがそう思い首をひねっていると、フィルスが説明してくれる。


「実は、石炭を売って得たお金の大半はビスクさんに預かってもらっていまして、そのお金を元手に別の商売をさせてもらっているのです」

「どういう事です?」


「いえね、ビスクさんが石炭を上手にさばいてくれていまして、そのおかげで予想以上にお金が入ってきているのです」

「…でも、あまり儲かりすぎるようだとまた王様に目を付けられてしまうのではないですか?」


「はい。なので交渉の末、生活に必要な分以外のお金は概ねビスクさんに預かってもらう事にしたのです。そしてそのお金を元手にビスクさんに別の商売をやってもらう。もちろん、その商いに失敗した場合には損をする可能性はあるのですが、どのみち目立たないようにする為にはお金は有っても下手な使い方は出来ない訳ですし、ビスクさんにとってもそのお金が新たな商いの為の元手になるという事で、そうさせてもらう事になったのです」


なんだかビスクにとっては非常においしい話になっている、というかおいしすぎる話になているような気がしてユウが少し不安に思っていると、それが顔に出たのか、フィルスが察して言ってくる。


「儲けについては、その商いに投資した金額に応じた割合で受け取る事になっていますから、商いに失敗しない限りは、こちらも損をしない仕組みになっていますので心配はいりません。尤も、いくら儲かってもその利益のほとんど全ては次の商いの原資になるだけなので、どのみちあまり贅沢な暮らしは出来ないのですが…」


まあ、ビスクは預かっているお金を猫ババする様な男ではないので、その点については心配はしなくていいだろう。

商売に成功する事で、目立ってしまう事についてはやや心配ではあるのだが…。


「なるほど、確かに今は手元にいくらお金があっても碌に使う事は出来ないのでしょうから、いい方法なのかもしれませんね。商売に失敗した場合は、損をする場合もあるのかもしれませんけど…」

「その場合でも、こう言ってはなんですが、そのお金は元々この家に置いておけなかったものだった訳ですし、問題は有りませんよ」


「そうですか。まあ確かに、ビスクとの間にきちんとした契約が交わされているのなら大丈夫なのでしょう」

考えてみると、いくらお金を手元に残して置きたくないからと言って、商売についてはド素人のフィルスが何か商売を企画するのよりは、全てビスクに任せた方が上手くいく可能性が高い事は間違いない。

もしかしたらこれは、そういう事も考えた上でビスクが提案してきたシステムなのかもしれない。


と、その時、コンコンと部屋の扉をノックする乾いた音がして、その音に反応したフィルスが少しだけ扉を開け、頭だけ出して扉の外とやり取りすると、

「すみません、お客様がいらっしゃったようなので、私は一旦失礼させて頂きます。そんな理由であまり贅沢なもてなしは出来ませんが、ゆっくりして行ってください」

そんな風に言って、フィルスは慌ただしく部屋から出て行った。

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