三度目のバーランド邸
その後、フィノの足が回復すると、リスティにあるバーランド家の館までは、特にトラブルなどなくすぐにたどり着く事が出来た。
ユウとフィノが飛ばされた先は、リスティの街の南西に当たる場所だったようで、しかも幸いにして街道から近い場所だったらしく、すぐに街道に出る事が出来、その後間もなく通りかかった馬車に乗せて貰う事が出来た為、リスティの街まではあっという間に着く事が出来たのだ。
あまりなじみのない西街区で降ろされる事になった為、館を探すのにはやや時間がかかる事となってしまったが、それでもルティナやアーダよりは早く館に着く事が出来た様だった。
館の敷地に入ると、バーランドの家の様相は少しばかり変わっていた。
以前の館は活気というものが全く無く、どこへいっても静かでうら寂しさを感じたものだったのに比べて、今は活気があるとまでは言わないものの、館を訪ねてくる見知らぬ者達もちらほら見かけられるようにはなっているようで、雰囲気がだいぶ明るくなっている。
館の中も掃除がきちんと行き届くようになったらしく、部屋へと続く廊下の調度品なども以前よりも心なしか輝いて見える。
何より変わったと思うのは、そんな廊下を先導してくれているのがこの館の使用人だという事だ。
前に来た時は使用人を雇うだけの余裕は無かったはずなので、大きな変化に感じられる。
この使用人はその所作が板についている事からして、以前やむなく解雇した者を雇い直した人なのかもしれないが、だとすればそれくらいの事が出来る収入が得られるようになっているという事だろうから、良かったと言えるだろう。
ユウとフィノを先導してきた使用人は、二人の事を恐らくは商談などをするのであろう客間の様な部屋へと案内し、そこで待つ様にと丁寧な仕草で告げると軽く会釈し下がって行った。
この部屋は、以前来た時には手入れが出来ず使っていなかったエリアにある。
調度品の数などは依然として少ないものの、それでも以前よりはずいぶんと華やかに飾られているようだ。
そんな綺麗に整えられた部屋の中で待っていると、少ししてトントンとノックの音がして、入口のドアがゆっくり開いた。
扉を開けて入ってきたのはラインラだった。
ラインラはそこで待っているのがユウだとは分かっていなかったらしく、ユウの顔を見た途端、大きな声を上げた。
「まあ! 誰かと思えばユウさんじゃ無いですか!」
「お久しぶりです、ラインラさん」
ラインラは小走りにユウの元へと駆け寄ると、ユウの差し出した手を握り握手を交わした。
そして、隣に居たフィノの方へと視線を移していく。
「フィノさんも、お元気でしたか?」
「はい。ラインラさんもお元気そうでなによりです」
フィノとの握手も追えたラインラは、しかし、まだ辺りを見回している。
ルティナの姿を探しているのだ。
「すみません、ルティナとは事情があって今はちょっと別行動になってしまっていまして…」
「えっ?」
ユウの説明に、ラインラの顔が明らかに曇ったのがわかる。
ユウは慌てて付け足した。
「でも心配はいりません、ここで落ち合う事になっていますから。ここに来たのはそれが理由なのです。なので、申し訳ありませんが、ルティナとアーダが合流するまでの間、しばらくここで待たせてもらえませんか?」
ユウのこの話を聞き、ラインラはルティナがアーダと一緒に別行動をとっているものと解釈した様だった。
特別に不安に思う様子もなく、ユウに笑みを向けてくる。
「そういうことなら、大歓迎です。二人が来るまでの間、ゆっくりして行ってください」
「ありがとうございます」
ユウはこの件については、とりあえずこのまま流してしまう事にした。
ルティナが何処に飛ばされてしまったのかについては、わからないと言うのが本当の所なのだが、そんな事を言ってもラインラを始めこの館の人達に余計な心配をさせるだけなので、黙っていた方がいいと思ったのだ。
なかなか戻って来ない様な状況にでもなれば、さすがに説明しなければならなくなるかもしれないが、少なくともそんな状態になるまでは言わない方がいいだろう。
ラインラは、ユウとフィノをそこに有ったソファのようなフカフカの椅子に座らせるのではなく、たった今入って来たばかりの扉の方へと導いた。
「あなた方の事を良く知らなかった侍女が、この部屋に通したのだと思いますが、実は、この部屋は商談の為の部屋なのです。別のお部屋に移りましょう。といっても、唐突だったので準備が整うまでの間は家族用のスペースでお待ちいただく事になってしまいますが、よろしいですか?」
「もちろん、構いません」
「夫や子供達がちょくちょく出入りする事になるかもしれませんが…」
「はい。アテルやラビアとも会いたいですし、フィルスさんとも話をしたいので大歓迎です」
それだけの余裕が出来て来たという事なのかもしれないが、いまさら立派な部屋を用意され、畏まった待遇を取られてもどう対応していいのか戸惑ってしまうだけなので、移動するのはユウにとっても有難い話といえた。
ラインラもそれをわかっているからこそ、部屋を変えようとしているのだろう。
「では、行きましょう」
ラインラはユウとフィノを促す様にして歩き始めた。
ラインラに導かれるままについて行くと、案内されたのは、以前に来た時にも居間として使わせて貰っていた家族の為の部屋だった。




