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大穴の底

穴の底は意外に大きな空間になっていた。

壁面の一部が大きく窪んでいて、そこを含めれば小さな部屋くらいの大きさはありそうに思える。

その窪みの一角にフィノは倒れ伏していた。


「フィノ、大丈夫か?」

ユウは穴の底へと降りていきながら、下に向かって声をかけた。

先程までのやり取りからすると、それほど深刻な状況とは思えないものの、それでもあのフィノが倒れたままの状態でいるというのは、何らかのアクシデントがあった事が推測できる。

でなければ、フィノならば、こんな穴などもうとっくに出ているはずだからだ。


「来てくれたのね、ユウ。…嬉しい」

ユウが来た事がわかると、フィノは横穴の中からぎこちない仕草で何とか上体を引っ張りだし、それからゆっくりと身体を起こしてユウの方へと身体を向けた。

が、立ち上がる事まではしてこない。

両足を前に投げ出し座っているような格好で、ユウが降りてくるのを待っている。


「怪我…しているのか?」

立ち上がる事が出来ないのだとすると、怪我をしている事が考えられる。

しかし、フィノは少しはにかんだような笑顔でそれを否定した。

「ち、違うの。足がしびれて立ち上がれないだけ。怪我をした訳じゃないから、少し待てば動く事が出来るようになると思うわ」


ユウはある程度降りた所で穴の底へと飛び降り、急いでフィノの側へと駆け寄った。

フィノが腕だけでユウに抱き付いて来る。


「大丈夫なの?」

「うん、足は痺れているだけだから大丈夫。でも、1人きりでいるのは不安だったから、ユウの声が聞こえた時は嬉しかった。けど、ちょっと慌て過ぎたのかな、こんな穴に落ちちゃうなんて…。だけど、こんな所に穴があるなんてずるくない? 一歩動いただけなのよ、私」


「一歩?」

「そう、ユウの声が聞こえたから、そっちの方に行こうと思って動き出したら、落ちちゃって。落ちている途中で穴なんだって気が付いたんだけど、気付くのがちょっと遅かったみたいで、うまく着地しきれなかったみたい」


だとすると、足はひどい事になっていてもおかしく無い様な気がするが、フィノの足は少なくとも見かけ上は折れたりしている様子はない。

恐らく本人が言っている通り、痺れているだけなのだろう。

ユウは激しく抱き付いて来るフィノにしばらくの間身を任せておいてから、ゆっくりと身体を離していった。


「立てそう?」

「痺れはもうだいぶ収まって来ているから、何とか立つくらいならできそうみたい。でも、登って行くのはまだ無理かな、力が入らないから」

言いつつ立ち上がろうとするフィノの腕を、ユウは優しく引く事で止めさせた。


「急がなくていいよ。ルティナもアーダも近くにはいないみたいだし、だとすると、リスティのルティナの家に行くしかない事になるから、少しくらい時間がかかっても大差はないだろうしね」

「二人の声は聞こえないの?」


ユウはもう一度ルティナとアーダに向かって声を飛ばしてみた。

しかし、ふたりからの返事はやはり返って来ない。


「ダメみたいだ。二人ともかなり離れた場所にいるみたいだね」

「変な所に飛ばされていなければいいけど…」

二人の事を心配し、フィノが顔を曇らせる。


確かに、二人の事も心配ではあるのだが、二人なら其々一人でも動く事は出来るはずなので、ユウはそういう面での心配は必要ないと思っていた。

それぞれ初めて会った時よりも逞しくなってもいる事も事実だし、とりあえずどこかの街に行き着く事が出来れば、後は何とかリスティへとたどり着いてくれる事だろう。


「そう考えると、すぐにフィノと合流できたのは良かったかも。こんな所に長い間1人きりでいるのは、フィノには辛かったんじゃないか?」

「…うん。ユウの声が聞こえていたから大丈夫だったけど、そうでなかったら、ちょっと不安だったかも。ありがとう、ユウ。すぐに来てくれて」

「いや、そもそもあの時俺が手を離さなければこんな事にはならなかったはずなんだ。もっと慎重に動くべきだったと反省しているよ。そうすれば、ルティナやアーダともはぐれる事は無かっただろうしね」


あの時、ルティナやアーダとも手を繋いでいるか、少なくともすぐに手をつなげるくらいに近づいていれば、もしかしたら今の様にばらばらにはならないで済んでいたのかもしれない。

多少離れたくらいなら、念の声で交信できる分こうして合流できる可能性は高かった訳なので、なおさら後悔してしまう。


と、フィノが突然動き出した。

まだ上手く動けないでいるらしいふらつく足で、ゆっくり立ち上がると、ユウの降りてきた小さな出っ張りのたくさん付いている壁面に向かって歩いて行こうとする。


「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。こうなってしまった以上、二人の事は二人に任せるしかない訳だから。俺達は出来る範囲でなるべく早くルティナの家まで行けばいい」

「でもさ、なるべく早くルティナの家に着いておいた方がいいのは確かでしょう?」


「いや、下手に急いで登って行く最中に落ちて怪我をしたりしたら返って時間がかかってしまう可能性だってあるだろ。そんな事になるよりはしっかり回復させた方がいい」

ユウは言いながらフィノの身体を抱きしめた。

それに合わせてフィノが体重を預けてくる。

やはりまだうまく足に力が入らないようだ。


「俺がここにいれば、少しくらいこの穴の中に閉じ込められている状態でも大丈夫だろう?」

「それはまあそうだけど…」


ユウはフィノに肩を貸す格好で登り口まで移動すると、そこにフィノを座らせて、自らもその隣に腰を下ろした。

そして、フィノの肩に手を回し、フィノの事を落ち着かせるようにその肩をポンポンと優しく叩いてやると、フィノも登るのを諦めた様で、ユウの肩にその頭を預けて来た。

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