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近道

ツォーナが落ち着くのを待って、ユウはツォーナに神の山カノンに行く方法について聞いてみた。

ツォーナは、今までの話から少なくとも何回かは主を迎えに行くという目的でカノンの入口くらいまでは行っているはずで、という事は、カノンが何処にあるのか知っているはずだと思ったのだ。


ツォーナはそれを意外にあっさり教えてくれた。

『実は、ここからならカノンの入口までは簡単に行く事が出来ます。すぐ近くにカノンの入口に通じる「時空の扉」を見つけましたからね。これを使えば入口まではあっという間です。けれど、これを見つけるのには結構苦労したのですよ。見つけ出すまでにだいぶ時間がかかっちゃいました』


余程大変だったのだろう、ツォーナが苦労をアピールしているのがわかる。

しかしそれ以前に、ツォーナのこの話の中にはユウにとって意味の分からない単語が含まれていた。


『ごめん、「時空の扉」って何?』

なので、聞いてみると、ツォーナは聞かれる事を想定していたのか、すぐにその質問に答えてくれた。


『「時空の扉」と言うのは、遠く離れた神域内の二つの場所を繋ぐ扉の事です。神域内のあちこちに設けられているのですが、カノンの入口に通じるものは見つかっていませんでした。昔から噂は有ったのですが、実物はなかなか見つからず、見つけたのはつい先日の事です。尤も、私が知らなかっただけで、既に知っていたモノもいたのかもしれないのですけどね』


なるほど。

という事は、「時空の扉」というのは恐らくはワープポイントの様なものなのだろうと推測することができる。

そんな便利なものがあるというなら有難い。


『それなら、その「時空の扉」とやらがある場所を教えて欲しいんだけど…』

ユウが頼むと、ツォーナは真顔になり、少し強い口調で言い返してきた。

『あなた方は、そこへ行って一体何をしようというのです? 行っても中へは入れませんよ』


ツォーナには、ユウ達が自分の代わりにラビエの所へ行こうとしていると勘違いしている節がある。

なので、誤解されない様、ここはしっかり言っておかなければならない。

『いや、申し訳ないんだけど、ツォーナの主様を助けようって言う訳じゃあないんだ。実はついさっき、ツォーナとは別の誰かの声が聞こえたんだ。その声の主は神殿の地下にいるみたいだから、何とか神殿まで行く事が出来ないかと思ってさ』


ツォーナの反応は早かった。

『無理です。私達の様な眷属なら主である神の承認さえあればカノンの地に入れますが、あなた方は人間ですよね? 人間はカノンの地には入る事は出来ません。どうしても入りたいと言うのなら、神器を揃える必要があるはずです』


『神器?』

『ええ、私にはその神器がどういうモノかはわかりませんが、確か、そういう話だったと思います。しかも、神器を持たない人がカノンに入ろうとした場合、逆にどこか遠くへ、…噂では人のたくさん住んでいる街の近くだと言われていますが…、飛ばされてしまうという話もあります。もうここへは戻って来れないかもしれません』


確かに、もしそんな事になれば、せっかくここまで来たのが無駄になり、また一から出直さなければならなくなる為、かなり面倒くさい事になる。

しかし、声の主を助ける為には、どのみち行かなければならない事も間違いない。


『でも、それでも、行きたいんだ。っていうか、行かなければならないって思ってる。実を言うと、その声はずっと前から聞こえていて、俺達はその声を追いかけてここまで来たんだ。だから、ここまで来て何もせずに引き返す訳にはいかない』

仮にツォーナがその時空の扉とやらの在り処を教えてくれなかったとしても、ユウはきっと今まで通り声の主の気配を辿って行く事だろう。

その為にここまできた訳だし、何よりも今もその声の主が困っているのなら、可能な限り助けてあげたいとも思っている。

この声はユウとフィノをこの世界に導いた声でもあるので、その思いは一層強い。


そんな決意が伝わったのか、ツォーナはもう余計な事は言わなかった。

『わかりました。あなた達には私も助けてもらった訳ですし、私がその「時空の扉」の前まで案内してあげます。扉の先はすぐにカノンの入口です。入口を入ると、カノンに通されるか、弾かれて外へ飛ばされるかどちらかなので覚悟をしてから入るようにしてください。私達眷属の場合、飛ばされると言っても神域内のどこかなので、さほど遠くまで飛ばされる訳ではないのですが、あなた方人間はどこに飛ばされてしまうかわかりません。ですから、くれぐれも覚悟をしてから入ってくださいね』


ツォーナはユウに暗に考え直すよう勧めているようだった。

しかし、ここまで来て、先に進む事を止めるつもりはユウにはなかった。


ツォーナはゆっくりとユウの頭から自分の頭を離し、今までずっと支えていたフィノの手を優しく除けて自分だけの力で枝の上に立ち、上の枝を見上げた。

そしてユウに向かって短く、

『ついて来て』

と一言言うと、予備動作もなしに一つ上の枝の上へと軽々と飛び移った。


フィノとは違う優雅な跳び方にフィノが思わず声を漏らす。

「すごい」


「皆、あの娘の後について行って。案内してもらう事になったから」

ユウはすぐにユウの様子を見守っていた三人に指示を伝えた。


と同時に、上に対しても少しクレームをつけておく。

『ちょっと待ってよ。俺達にはそんな登り方はできないんだから』


すると、今まさに更に上へと登って行こうとしていたツォーナは、その場でその動作を止めた。

そして、そこでユウ達が登って来るのを待つ事にしたようだった。

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