時空の扉
ツォーナが見つけたという「時空の扉」は、ユウ達が元いた枝からかなり登った所にあるようだった。
ツォーナはユウ達が追いついて来るのを時折振り返って待ちながら、上へ上へと枝を渡ってどんどん登って行っている。
ユウはツォーナを見失わない様注意してツォーナの後を追って登りながら、この間を利用し、フィノ達三人にもツォーナから聞いた事を伝えておく事にした。
そしてその説明がちょうど終わりをむかえた頃、ツォーナはとある枝の上で完全に止まり、ユウ達が登って来るのを待っていた。
ユウ達がそこに追いつくと、ツォーナはこの後一人づつ自分がするのと同じ事をしてくるようにと伝え、それが終わると、崖側に向かって伸びる枝の上を周囲の枝をうまく利用し枝の端まで進んで、
『ここから崖に向かって思いっきり跳びます』
と、一言残し、その枝の上から飛び降りた。
三人の目が説明を求めるようにユウの目を見つめてくる。
「どうやらあそこから飛び降りないといけないみたいだ」
ユウが言うと、ルティナはすぐに言ってきた。
「あんな所から飛ぶのなんて、私には無理です」
それはユウも感じていた事だった。
ユウ達が今いるこの場所は、もう既に周囲の木々を遥か下に見る高さにある。
そんな高い場所から飛び降りるなんて、そう簡単にできるものではない。
というか、無理だ。
なのでしばらく動けずにいると、ユウの頭にツォーナの不安げな声が届いてくる。
『どうしました? 来ないのですか?』
ツォーナの発した念の声だ。
自分の後に誰も付いて来ないので、心配になったようなのだ。
見ると、ルティナは首を左右に振りながら震えている。
『そうは言っても、我々は普通の人間なんで、こんな高い所から飛び降りるなんて出来ないよ』
ユウはツォーナに抗議した。
ツォーナは見かけは自分達とそんなに変わる訳ではないのだが、それでもやっぱり精霊だ。
空を飛ぶ事は出来ないとは言っていたが、随分と身軽な事は確かなようだし、もしかしたら落ちても死ぬ事はないのかもしれない。
だが、普通の人間は、こんな高い所から落ちたら、確実に死んでしまう。
『大丈夫です。あなた方の力でも充分に届きますから。信じてください』
ツォーナが落ち着いた様子で促してくる。
そこに悪意は感じられない。
ユウはツォーナを信じる事にした。
ツォーナが嘘をつく理由などないと思ったのだ。
『わかった。やってみるよ』
ユウはツォーナにそう返事をし、それから三人にもその事を伝えた。
すると、フィノは自分が先に行くと言い、実際にそうするべく行動を起こそうとした。
しかし、ユウがそんなフィノの手を掴み、怖がっているルティナを助ける役割を兼ねたしんがりをフィノに頼むと言うと、フィノはそれを納得して了承した。
そして、そんなフィノと入れ替わるようにして先頭の位置に立ったユウは、崖に向かって真っ直ぐ伸びる枝の上を、周囲の枝をうまく使いながら、恐る恐るゆっくり進んで行った。
足元の枝は周囲の枝と比べればそれでもまだ太い方だとは思うのだが、とはいえ、ユウの体重がかかるとかなりしなってくる。
なので、感覚的にはかなり恐ろしく感じるのだが、この枝はかなり頑丈に出来ている様で、しなりはしても折れる様な事はなさそうだった。
周囲の枝を掴むなどしてバランスを取りさえすれば、かなり先まで行けそうだ。
そんな風にして枝の端の方まで来ると、少し下にツォーナの姿が見えてきた。
大きく手を振り、そこにいる事をアピールしている。
ツォーナがいるのは、ユウの今いる枝から3メートルくらい下にある崖の途中に少しだけ突き出たテーブル状の出っ張りの上だ。
飛び降りるのはどうやらそこまででいいらしい。
ユウが今いる辺りの枝は、少し下の枝よりも大きく張り出しているらしく、ここからそのテーブルまでの間に邪魔になるような枝は一本もない。
なので、充分行き着く事が出来そうだ。
しかし、思ったよりも距離が無いようなのは良かったが、それでもそこはかなりの高所である事も間違いない。
一歩間違えば転落してしまう事だって充分に起こり得る。
ユウは慎重に枝先へと進み、もうこれ以上枝の上を進むのは無理だと判断した所で、そこから思いっきり跳ぶべく身構えた。
その途端、ツォーナの声が届いて来る。
『もう一歩前まで進んでください。大丈夫、その枝はあなた方の体重くらいでは決して折れませんから』
ユウはその声に頷くと、言われた通りにもう一歩前へと進み出た。
そして、そこで今度こそ足元の枝を蹴り、思いっきり前に跳んだ。
直後、少しの落下の感覚があり、気が付くとユウはツォーナの隣に立っていた。
不思議な事に降り立った時の衝撃もほとんど感じなかった。
『本当だ。全然大丈夫だったよ』
しっかりと飛び移れたことを確認し、ユウはツォーナの顔を見た。
ツォーナが微笑みを返してくれる。
そして何か言おうとしたのだろうか、少し口を開きかけた所でそれを止め、機敏な動作で上を見上げた。
その視線の先の空中にはアーダが既に飛んでいる。
アーダはそのまま何事もなかったかのようにユウの隣に着地した。
「何だ、全然問題ねえじゃねえか」
「アーダ、早すぎるだろ。まだ俺が降りたばかりだぞ」
ユウが軽く文句を言うと、アーダはおもむろにユウに近づき、そのままユウに抱き付いて来た。
あまりに唐突な行為に少々面食らったユウが何も言えなくなってしまっていると、アーダが構わず言ってくる。
「フィノからユウの事を任されたのさ。だからすぐに降りて来たんだが、そんなに心配する事は無かったみたいだな」
「それはそうだけど…、何で抱き付いて来るんだ?」
「まあ、これはあたしが助けたっていう体で…」
だがそれは、客観的に見てとても助けている様には見えないものだった。
と、突然、上から悲鳴が聞こえてきた。
「きゃーーーーー」
ユウが慌ててその声のする方向を見上げた次の瞬間、例の枝の先からルティナを抱きかかえた状態のフィノが勢いよく飛び出してきた。
フィノはルティナの悲鳴を気にする様子もなく、狙い澄ましたようにユウのすぐ隣へと降り立つと、その場にルティナを降ろし、無言のままつかつかとユウに近づいて来て、ユウからアーダを引き剥がした。
何はともあれ、このようにして全員が無事にツォーナの元まで移動する事が出来たのだった。




