見えない捕縛
メリン達には一旦ユウから頭を離してもらい、ユウはフィノ達に今まで聞いた内容を伝える事にした。
だが、折角ここまで盗み聞きの出来ない方法で話して来たものを、ここで普通に話しをしてしまっては台無しにしてしまう可能性がある。
という事で、ユウは三人の身体を引き寄せ、メリン達としていたのと同様、頭と頭をくっつけて、念の声を使って伝える事にした。
こうする事で効果があるのかどうかは、正確にはわからないのだが、少なくとも普通に会話をするよりは盗み聞きを防止できそうだし、同じ念の声を使うにしても、メリン達としていたのと同じ頭と頭をくっつけるやり方をした方が、その声も皆で共有でき、意思疎通がしやすくなりそうだと思ったのだ。
普通、人は念の声で意思疎通する事は出来ないので、そんな事をしなくても盗み聞きをされる心配などないのかもしれないのだが、盗み聞きを警戒するメリン達の事も考慮して、念を入れた格好だ。
メリン達妖精と違って、人間がしかも三人も頭を付けるというのはかなり窮屈な状態になってしまうのだが、そこは誰も文句を言う者は無く、逆に皆その窮屈な体勢を楽しんでいるようだった。
そんな状況の中で、ユウはメリン達から聞いた話を三人に話した。
フィノが早速聞いて来る。
『で、ユウはそのキウルとかいう神様の事を探すつもりなの?』
『いや、今の所、そこまでは考えていないのだけど…』
ユウはその質問にハッとする思いだった。
今までは助けを求める声を追いかけ、その声の主を助ける事でここまで来たが、この件はそれとはだいぶ異なっている。
そもそも、そんな事など、メリン達から頼まれてさえいないのだ。
『でも、もし今次の声が聞こえていないのなら、聞こえて来るまでの間、探してあげてもいいのではないですか?』
『そうすれば、もう少しここの事が分かるかもしれないしな』
対して、ルティナとアーダは随分と乗り気のように見える。
確かに、とりあえず今回の声の主である三人は助ける事に成功した訳なので、次の声か、もしくはずっと追いかけてきたあの声がまた聞こえるようになるまでの間なら、この話に付き合ってあげてもいいのかもしれない。
などと、思った所でユウは思い出した。
メリン達の声が聞こえる直前にも別の声が届いていた事を。
あの時は、その声よりもメリン達の居る位置の方が近かったので、その所為でそっちの声は聞こえなくなった、という様に理解していた。
だとするならば、その声の主はあの後どうなったのだろう。
メリン達の件が片付いた今なら、そちらの声が届いて来てもいいのではないだろうか。
『どうかしたのですか?』
黙り込んでしまったユウの事を訝しんだルティナが心配して聞いて来る。
他の二人もユウの様子の変化に気が付いたようだった。
ユウの返事を待っているようだ。
『…いや、思い出したんだけど、ここに来てすぐの頃、今回のメリン達の声を聞く直前に、少しだけ別の声が聞こえた事があったんだ。その声は、凄くはっきり聞こえていたから、ここからそう遠くない場所から聞こえて来ていたはずだと思うんだけど…』
フィノがすぐに反応する。
『ああ、だからあの時ユウの反応が少しおかしかったのね』
フィノの言うあの時というのは、ユウがその声を聞いたまさにその時の事だろう。
そのすぐ後にメリン達の声を聞いたので、ユウは一瞬、声を探る方向が定まらなかった覚えがあるのだ。
そんな僅かな躊躇についてもフィノは感じ取ってくれていたという事の様だ。
『そうなんだ。けど、今はその声が聞こえていない。メリン達を助け出すのには成功したはずだから、もう聞こえて来てもよさそうなのに…』
今までの経験から、追いかけてきた声の主を助けると次の声が聞こえてくるようになる。
ユウはユウの頭の中に届いて来る声について、そのように理解していた。
だとすると、もうとっくにその声が聞こえるようになっていてもおかしくない。
『もしかして、そちらの方は自力で解決した、とは考えられませんか?』
ルティナが冷静に聞いて来る。
『その可能性もない事はないのかもしれないけど、そんな気はあんまりしないんだよな』
別に根拠がある訳ではないのだが、ユウはそんな気がして仕方がないのだ。
『だとしたら、こちらの方がまだ完全に解決していない、という事なのではないのですか?』
『こちら、とは?』
『メリンさん達の事ですよ』
ユウは、一旦三人から頭を離し、メリン達の方を見てみた。
彼女達は彼女達が閉じ込められていた木の太い幹のすぐ前で、ユウの胸の高さくらいの空中に浮かび、ユウ達の話が終わるのを待っている。
捕らえられていた木の中からは既に解放されている事は間違いない。
ユウが頭を戻すと、フィノとアーダはすぐに寄ってきて元通りに頭をくっつけた。
そして、ユウが、彼女たちの件が解決していないようには見えない、と言おうとしたその時、少し遅れてルティナが頭を寄せてきた。
『ユウ様、メリンさん達の足元を良く見てください。彼女達はまだ解放されていないのかもしれませんよ』
ユウはもう一度三人から頭を外し、空中に浮かんでいるメリン達の姿を良く見てみた。
しかし、特に変わった所は見当たらない。
なので、姿勢を戻そうとすると、我慢する事が出来なかったのだろう、ルティナが頭をくっつけずに離れた位置から念の声ではなく普通の声を使って言った。
「ユウ様。彼女達の足元です。光の加減で見えなくなる事があるみたいなので、少し位置を変えたりして見てみてください」
その声に促され、ユウはもう一度、今度は集中してメリン一人をじっくり観察してみた。
良く見てみると、彼女の右の足首に角度によっては薄っすらと青く光を反射する、何やら透明なチューブの様なものが巻き付いている。
その透明なものはその木の蔓なのか、辿っていくと後ろの木の切り口へと繋がっている事がわかる。
この蔓によって彼女達はまだ捕えられた状態を脱する事が出来ないでいる、という事なのかもしれなかった。
ユウはフィノ達と話す事を止め、メリンの足の透明な蔓を見失わない様注意しながら、ゆっくりとメリンの方へと近づいて行った。




