キウルとサント
キウルという名の神の話は、ユウもここに来るまでの間に何度か耳にしていた。
その時の話によると、長く人の世の安寧をもたらしていた神だとされていたはずだ。
その神が突然姿を消し、それが人の世の乱れる原因となったのではないかと推測する者もいた。
三人の精霊達の話は、それが現実に起こっていた事だというを示すものだった。
更に言うと、三人はキウルがいなくなった事について、或る神に疑いを持っているという。
その神がキウルを拘束したのではないかと思っているらしいのだ。
三人の事を木の中に閉じ込めたのも、その神の仕業ではないかと疑っているらしい。
『確認するけど、三人とも誰が自分達の事をあの木の中に閉じ込めたのか、実際には見ていないっていう事でいいんだよね?』
ユウが聞くと、三人を代表しメリンが沈んだ声で言った。
『…残念ながら。けど、こんな事が出来るのは神様しかいないと思うの。いくら力のある眷属でも、別々の場所にいた私達を一時に捕まえて、しかも私たちがどうあがいても逃げられない様拘束する事なんて、出来ないと思うもの』
エルスもそれに付け加える。
『それに、いくらキウル様からの力の流入が小さくなっているとは言っても、私たちだってキウル様の眷属ですからね、本来ならそう簡単に捕まるはずがないのよ』
『力の流入?』
『そう、キウル様がいなくなる前はもっとたくさんの力が湧き出して来たのだけど…』
察するに、彼女達眷属は主である神の力を分けてもらう事が出来るという事なのだろう。
という事は、もしかしたら三人が捕まったのはその力が弱まっていた所為もあるのかもしれない。
『でも、っていう事は、今も力の流入は止まっていないっていう事なのでしょう? だったら、その力を辿ればキウルの居所がわかるんじゃないのかな?』
『それが出来れば苦労しないわ』
ベーデが吐き出す様に言ってくる。
『悔しいけどね』
エルスの口調も悔しそうだ。
考えてみれば、確かにそれはそうだろう。
それが出来るくらいなら、三人はとっくにやっているはずなのだ。
『で、結局三人は誰の事を疑っているの? その誰かって神様なんだよね。あっ、そうそう、そもそもここには何人ぐらいの神様がいるのかな? ここに来る時にゴフジールに聞いたのだけど、教えてもらえなかったんだよね』
ユウは質問の途中で質問を加えた。
ここへ来て以降、ずっと気になっていた事だったからだ。
せっかくなので、この機会に聞いてみる事にしたという訳だ。
三人が更に身を寄せてくる。
『正確な数は私達にもわかりませんが、たくさんいる事は間違いありません』
『だけど、人の世に直接干渉出来る神様となると、基本的には一人しかいないはずなの。少し前まではそれがキウル様だったっていう訳』
『そして、今はその役割をサント様が担っている。…だから、私達はそのサント様こそがキウル様を、そしてその眷属である私達を捕らえて閉じ込めたのだと思っているの』
サントという神の話も聞いたことがある。
確かに、実際にキウルの持っていた権力がそのサントという神に移動しているというのなら、そんな風に考えるのもおかしな事ではないだろう。
キウルがいなくなった事で最も得をしたのがサントだという事になるだろうからだ。
だが、そう断定する為にはまだ情報が足りていない。
『何か証拠みたいなものはないの?』
なのでユウが聞いてみると、それを聞いた三人は皆急に黙りこんでしまった。
明らかに大人しくなってしまった所を見ると、恐らくは証拠などないのだろう。
『他の神の中に怪しい奴は?』
『サント様以外に、心当たりは有りません。私たちが捕まったのだって、ちょうどサント様の話をしている時でしたし…』
メリンは疑っているはずのサントの事を様を付けて呼んでいる。
メリンはサントの事を敬っている様には見えないので、眷属という立場ではさすがに呼びつけにする訳にはいかない、という事なのだろう。
はっきりした序列がある事が窺える。
『じゃあ、そのサントって言う神様はどんな神様なのさ』
『元々が結構奔放な神様として有名だったのですが、ある時からそれが更に激しくなったようなのです』
『自ら面白い事をするのが好きだって公言しているけど、最近はその所為で迷惑しているモノも多いみたいね』
『サント様がらみで私たちと似た様な目に遭ったっていう話も良く聞きますわ』
彼等の言っている事が本当なら、少なくとも人の世に干渉する事ができる神の資質としてはどうかと思えてくる。
といっても、ユウが選ぶ訳ではないのでどうしようもないのだが…。
『そう言えば、キウルの後釜って、どうしてサントが選ばれたの? 二人は兄弟だって聞いたような気がするけど、それが原因?』
何となく聞いてみたユウのこの質問に、三人は少し驚き、それから大きく首を横に振った。
そして強い口調で言ってくる。
『キウル様とサント様は兄弟なんかじゃありませんよ』
エルスとベーデが補足する。
『といっても、全ての神の系譜は元をたどれば一つに繋がるはずですから、そういう意味では近しい間柄とも言えるのでしょうけど』
『そうでなければ、神たりえませんからね』
彼女達が嘘をついているようには思えない。
という事は、以前ユウが聞いたその話の方が間違っていたという事だろう。
ここで起こった話が正確に伝わる事が難しい事は理解できる。
人は、神に関する話をする時、自分の都合の良いように話を変えてしまいがちだからだ。
その所為で事実が曲がって伝わってしまったという事も十分に考えられる。
と、ユウはここで背中をトントンと叩かれている事に気が付いた。
そっと視線を後ろに向けると、フィノがユウの顔を覗きこんでいる。
こういう場合、黙ってユウが声を掛けるのを待っていてくれるのが普通のフィノなのだが、ユウがあまりに長い間、何も言わずに黙っている為、心配して様子を見に来たようだ。
ユウはメリン達から聞いた話をフィノ達にも伝えておく事にした。




