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真の解放

透明な蔓はメリン達の目には見えていない様だった。

しかし、確かに足に巻き付いている様で、それが証拠に彼女達は今いる場所から大きくは動く事が出来ない事がわかった。

木の周りからあまり離れようとすると、足首を締められるような感じがしてその部分がひたすら痛くなり、それ以上は動けなくなってしまうらしいのだ。


しかも、その蔓は思った以上に頑丈で、フィノの剣でも断ち切れない。

ならばと蔓の生えている木の方を直接切ってみても、木は切断できるのだが、蔓の方は断ちきれずに残っている。

はっきりと見えている訳ではないので良くはわからないのだが、どうやら、蔓は剣が当たったその瞬間だけゴムのように異様に伸び、剣をやり過ごしているようなのだ。


アーダの槍でも試してみたが、やはり蔓は断ち切れない。

二人で何度も試しているうち木の方はだいぶ低くなってきてしまったが、それでも蔓はそのまま残っている。

フィノの剣に加えアーダの槍でも断ち切れないとなると、他に良い手は思いつかない。


「これは結構難儀な代物ですね」

ルティナが思わず声を漏らした。

そして、これをきっかけに皆が声に出して話し始める。

良く考えれば、聞かれて困るような事でなければ、声に出しても困らなかったはずなのだ。


「フィノの剣でもあたしの槍でもダメだとすると、もうお手上げだぞ」

「でも、つける事が出来たのですから、外す事だって出来るのではないですか?」

「私もそう思う。でも力技じゃあダメみたい。透明で良く見えないからはっきりはわからないんだけど、剣で斬りつけても手ごたえが感じられないのよね」

「確かに。あたしの槍にも手ごたえは無かったからな。…けど、まだ矢は試していないだろう? ダメもとでルティナの弓で射抜いてみるっていうのはどうだ?」


確かに、まだあの蔓を矢で射ぬく事は試していない。

とはいえ、剣や槍で切る事の出来ないものを矢で射ぬいて切り落とそうなど、とてもうまくいきそうには思えない。

そもそも蔓は透明で見えづらいので、的にする事すら難しいのだ。


しかし、ルティナはやってみる事にしたようだった。

「私もフィノと同じ意見で、力技では難しいと思うのですけど、他に手が無い様なのでやってみる事にしますね。あまり可能性が高いとは思えませんので、というか、当てる事すらできるかどうかわからないので、期待は出来ないかもしれませんけど」


言いながらルティナが背負っていた弓を身体の前に回す様にして抜き取ろうとしたその時、ルティナの懐から小さな巾着が零れ落ちた。

そして、その巾着の口から透き通ったうすい青色の球体がコロンと地面に転がった。


ルティナが慌ててその小さな球を拾い上げる。

それは小人の鏡を取り返しに行った時にカラスからもらったガラス玉だった。


ルティナは、その拾い上げたガラス玉を懐へと戻そうとしたようだったのだが、慌てたのかもう一方の手に持っていた弓にそのガラス玉をぶつけてしまい、その所為でガラス玉は再びルティナの掌から転げ落ち、精霊たちの捕えられている木の幹の方へと転がっていってしまった。

転がるガラス玉を追いかけるようにしてルティナも木の方へと近づいて行く。

そしてその木のすぐ横でガラス玉を摘み上げた。


その時だった。

ルティナはガラス玉越しに一本のが蔓はっきりと見て取れる事に気が付いた。

薄っすらと青いガラス玉にやはり薄い青色の蔓が重なって、その姿がはっきり見える様になっている。


蔓はそこに三本あるはずなのだが、なぜだかはっきり見える蔓は一本だけしかない。

それを不思議に思ったルティナは、もう少しよく見てみようと、ガラス玉を自分の目の前へと持ってきてみた。

が、よく見てみても、蔓は一本だけしか確認できない。


と、ルティナははっきりと見て取れるその唯一の蔓が、その一部を大きく曲げて自分の方へと近づいて来ている事に気が付いた。

ガラス玉越しに蔓の一部が見る見る大きくなってくるのだ。

蔓はガラス玉に引き寄せられるように近づいて来ていて、明らかにガラス玉に反応している事がわかる。


「ルティナ、どうかしたのか?」

切り株の前で固まっているルティナの事を訝しんだユウが声を掛けると、それに反応したルティナはすぐに皆を呼び寄せた。


「皆、来て!」

その切迫した言い方に急いでルティナの周りに集結する。

すると、窮屈な格好で身を寄せる皆の目の前で、蔓のU字型に湾曲した部分の先端がするんとガラス玉の中へと吸い込まれた。

と同時に大きく湾曲した蔓のその先の部分が、ガラスが飛び散るような残像を残し、綺麗に消えて無くなった。


「なんだなんだ、どういう事だ?」

「青い蔓が砕け散ったように見えたけど…」

蔓の根本側はまだルティナの持つガラス玉の所まで伸びている。

しかし、そこから先の部分はもうそこには見当たらない。

という事は、メリンに巻き付いていた蔓の部分も消えてなくなったという事になる。


そしてその後、ルティナがガラス玉をゆっくり離していくと、残された根本側の蔓もその場に力なく垂れ落ちた。

ガラス玉に変化は見られない。


メリンが一旦空高くまで見舞い上がり、それからユウに近づいて来て頭を付ける。

『体が軽くなりました。今度こそ本当に解放されたみたいです。ありがとう、ユウ』


『良かった。俺はなにもしていないけどね』

『いいえ、そんな事は有りません。ユウが他の皆さんの事を引き連れて来てくれたのですから。もちろんユウだけではなく他の皆さんにも感謝しています。…でも、すみませんが、エルスとベーデの拘束も解いてもらえると、私的にはもっと嬉しいのですが…』


メリンが控えめに言って来る。

まだ二人は拘束されたままなので、素直に喜べないでいるらしい。


ユウはルティナに聞いてみた。

「ルティナ、他の二人の蔓もそれで壊す事は出来ないのかな」


「…それが、やってみているのだけど、上手くいかないみたいなのです。さっきは蔓の方が自分からガラス玉に近づいて来てくれたから簡単に出来たのですが、後の二本は近づいて来ないし、無理やり近づけても蔓が消えて無くなる事はないみたいで…。蔓の姿もさっきとは違ってはっきりとは確認できませんし…」


ルティナはガラス玉を盛んに動かして、うっすらとしか見えない残りの蔓に何とか近づけようと試みている。

しかし、時折青い光が飛び散る様にしてそこに残っていたメリンを拘束していた残りの青い蔓を砕いてはいくものの、肝心の残りの二つの蔓については、逆にルティナの事をあざ笑うかのように、するするとルティナの手から逃れていっている。


ユウはメリンをその場に残し、そんなルティナの隣にしゃがみこんだ。

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