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番人の小屋

それから少しして、突然、赤黒い溶岩の山麓は終わり、その先の背の高い針葉樹の森に入った。


が、その針葉樹の森は、予想した通り、さして時間がかかる事もなくすぐに通り抜けてしまった。

といっても、それは決してこの森が小さい訳ではなく、東西に細長く伸びている森だった為で、その森を南から北に行った為、すぐに通り抜けてしまったという事だ。


しかし、森は抜ける事が出来ても、目の前にはほぼ垂直にそそり立つ崖が迫っていて、そこから北に行こうとする者を阻んでいる。

それは登る事などとてもできそうもない巨大な垂直の壁であり、仮にこの壁を登りきった所で、上には針のように尖った巨大な岩がびっしり並んでいる為、とてもそれを越えていく事は出来そうもない。

つまり、この壁沿いのどちらかに進むしかないという事になる。


ならば目指すのは、上から見た時亀裂のような細い線が走っているように見えた西側だろう。

その亀裂が道である可能性が高いからだ。

ユウはその道を目指し、壁際は落石の危険がある為少しだけ森に戻ってから、壁を見失わない様壁と平行に、森の中を西に向かって進んで行く事にした。


すると、少し進んだところで、突然、森の中を走る「道」に行き当たった。

南北に走る真っ直ぐな道だ。

正確に言うと、それは道ではなく、あくまでもそれまでと同じ針葉樹の森の一部でしかなかったのだが、ちょうど木が生えるスペースが一本分、綺麗に空間が空いていて、それで道のように見えたようなのだ。

空いたスペースの分、周りの木の枝が大きく延びているようで、頭上に空が見える程の隙間は空いておらず、その所為で、道と言うよりトンネルと言った方が近いともいえる。

まさに緑のトンネルだ。


トンネルの南側は遠くまでその状態が続いているようで、どこまで続いているかはわからない。

しかし反対側はすぐ先が出口になっている。

ユウ達は壁と平行に歩いて来た訳なので、それはある意味当然の事ともいえるのかもしれないが、しかし出口の先に有ったのはその壁ではなかった。


そこにあったのは、壁を少しだけくりぬいて作られたようなスペースと、そこにポツンと建てられた小さな小屋。

その小屋の向こうには両側に切り立った崖が見えている。

それが恐らく上から見た時にひび割れのように見えた北に続く道なのだろう。


道そのものは小屋が邪魔して見えないが、そこだけ巨大な壁が切れていて、唯一先に進めそうな場所となっている。

その小屋が、恐らくユウ達が目指して来た場所、とりあえずの目的地であるゴフジールの小屋なのだろう。


その小屋を正面に見ながら、フィノが安堵の声を漏らした。

「やっと着いたみたいね」

小人の里からここまでは結構時間がかかった訳なので確かにやっとという感じがする。


「けど、なんだか少し拍子抜けだな」

「なにが?」

「だってさ、小屋に住んでいるゴフジールって言う奴は、確か神の住む山の番人とかって言う奴なんだろ。そんな奴のいる場所なら、もっとこう、なんていうか、守りの堅い砦みたいな小屋があるんじゃないかとあたしは思っていたんだけどな」


どうやらアーダはもっと武骨な建物がある事を想像していたらしい。

少し前まで緊張しているように見えたのは、もしかしたらその所為なのかもしれない。

何かあった場合には、真っ先に飛び込もうとでも考えていたのだろう。

だから少し気が抜けたのだ。


「そうですか? ゴフジールさんという方は、その山に無理やり入り込もうとさえしなければ、優しかったと聞いていますよ。私にとっては、あの小屋はイメージ通りの小屋ですけど…」

「そうだったっけ?」

アーダは空を見上げ頭を掻いた。


そのルティナの感覚は間違っていない。

ルティナはユウからゴフジールの話を聞いている訳で、ルティナのイメージはユウのイメージとも一致している。

しかし、ユウは一抹の不安をぬぐいきれないでいた。

何故かはわからないのだが、妙な重圧を感じるのだ。


「まあ、それはそうなんだけど、ゴフジールがそこを通してくれるかどうかが問題なんだよね。多分、交渉が必要になると思うんだ」

「無理やり通ると怖いのでしたっけ?」


「別にいいだろ。その時は強引に通っていけば。あたしとフィノで協力すれば何とかなる」

アーダが握った拳を振り回している。


ユウは慌ててアーダの拳を押え、下ろさせた。

「ダメダメ、戦う事を前提としないでよ。話し合いが基本だからね」


ユウは、ゴフジールを怒らせる事なくこの小屋を通してもらうつもりでいた。

デハルの話ではゴフジールは話の通じる相手だという事の様なので、話し合いで何とかできると考えたのだ。

それに、確かにフィノやアーダは充分強いと言えるのだろうが、なにしろ相手は神と関わりのある者だ。

それ以上に強いという事も考えられる。

思わぬ手傷を負わない為にも、無駄な戦いはできるだけ避けておきたい。


ここまで来てみてわかった事は、声の主の気配はここよりも更に北にあるという事だ。

そこへ行き付くためにはこの小屋を超えた更にその先に行かなければならないという事になる。

追い返される訳にはいかないのだ。

だが、だからと言って、ここを強引に通り抜けようとするのは愚策だろう。

やはりここは説得するしかないという事だ。


「ユウ様、小屋の扉が開きました」

ルティナのユウの腕を掴む力が強くなる。

見ると、小屋の扉は確かにゆっくり開いている。


丸太を組んで造った質素な扉だ。

その扉の向こうから、大きな影が現れる。


扉から出てきたのは背丈はユウと変わらないが、横幅はユウの三倍以上はありそうな、恰幅の良い大男だった。

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