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草原の終わり

断崖は延々と続いていて、上と下の草原は全く交わりそうもなかったが、ユウの見込みが当たったのか岩亀の様な強い魔獣は現れる事は無く、旅は順調に進んでいった。

遠くに見えていた急峻な山々も少しづつ大きくなってきているように感じられる。


この日、ユウはルティナの馬に乗っていた。

一行の先頭を行くのはフィノの馬だ。

少し先行するような形で周りの様子を窺いながら進んでいたフィノは、小さなうねりの天辺に差し掛かったところで、ゆっくりと馬を止めた。

そこは辺りを見回すのに都合の良い、見晴らし台の様な場所だった。

続くアーダもそこまで行って立ち止まる。


「何か見えたのか?」

「ううん、そういう訳じゃあないんだけどね。ちょっと景色を眺めようと思ったくらいかな」

「つっても、景色なんてどこも変わり映えがしないんじゃないのか? ただの草っ原がどこまでも続いているだけだろ。」


二人で話をしている所へユウの乗るルティナの馬も追いついて来る。

「そうでもないみたいですよ。山がかなり大きくなってきました」

ルティナが指し示すその先には、目印にしている山頂に雪を頂く山がある。


「…確かにな。でもそれは進行方向の景色だろ、横はあまり変わらない…、いや…」

アーダは、視線を崖下の方向にずらし、突然言葉を止めた。

視線は崖下のとある一点を見つめている。


「何か見えたのか?」

ユウが聞くとアーダはゆっくり視線を戻した。


「何でもない。多分、また亀だ」

すぐにフィノが同意する。


「なるほど、あれは確かに亀、みたいね」

という事は、確かに亀はいるのだろうが、しかし、ユウの目にはそれらしきものの姿は見つけられなかった。


「二人が言うのなら間違いないのだろうけど、俺には全然わからないな」

「この辺の亀は緑色をしているから、草に紛れて見えづらいのよね」

「それでもまあ、あたし達にはしっかり見えているけどな」


下段の草原に、初めて緑色の亀の姿を見つけたのはアーダだった。

アーダが言うには、この辺りの亀は少し前に倒した岩亀とは種類が違う様で、形はもちろん、大きさも以前遭遇した岩亀程はなく、何より全身が苔で覆われているような緑色をしているのだそうだ。

その所為で、周りの草が保護色となって見えづらくなっているらしい。


フィノとアーダは下段の草原にその亀が複数いる事を確認している。

亀は、ある一定の間隔をあけて存在しているらしい。

もしかしたら上段にもこの亀はたくさんいるのかもしれないのだが、崖沿いは縄張りにしていないのか、ユウ達はまだ一度も出会っていない。


「亀以外には何かみつけなかったか?」

「ここからっていうのなら、特に何も見えねえけど、少し前なら、オレンジ色の豹みたいなやつを見かけたかな。すぐに草の陰に隠れて見えなくなったけどな」


「ルティナ、わかる?」

「豹ならあちこちに結構いろいろな種類の豹がいると思いますけど、そもそも普通の豹では無い様な気がしますし、近くで見てみないと、何とも言えません」


「それはまあそうか。ここから見たのでは遠すぎるものな」

「でも、それはともかく、崖際を行くようにしたのは正解でしたね。最初に遭った岩亀以降、ここまで邪魔は一回も入っていませんから」

「少しばかり拍子抜けの気もするけどな」


ここの所アーダもだいぶ落ち着いてきている。

これは寝る時はユウが順番に誰か一人と眠るようにした事の副産物とでもいうものだった。

ルティナがユウと眠る番の時、フィノがアーダに抱き付いて眠る事となり、そこでどんな話があったのかはわからないが、それ以降、アーダは無理にフィノと張り合わないようになっているのだ。


「あっ」

しばらくの間、崖沿いに前方をひたすら眺めていたフィノが、突然、小さく声を漏らした。

すぐにアーダが声をかける。


「どうした? 何か見つけたのか、フィノ」

「ほら、前を見て」

フィノはまっすぐに視線の先を指差している。


始めは少し視線を泳がせている様子でいたアーダだったが、すぐにフィノの意図に気付いて視線をもどした。

「ああ…、このだだっ広いだけの風景も、ようやく終わりをむかえるっていう事か」

「そうみたい」


どうやらフィノにはこの草原の終点が見えたらしい。

ユウにはまだよく見えないが、アーダもそれがわかった様なので、きっとそういう事なのだろう。

それならば、確かにようやくという感じだ。


アーダは、もう一度前方をよく見直すと、それから小さく呟いた。

「…けど、山に入っても下と行き来が出来るようになる訳じゃないんだな」


その呟きを聞きつけたユウが聞き返す。

「どういう事だ?」


それに答えてくれたのはフィノだった。

「この先は、もう少し行くと草原が終わっていて、その先はむき出しの岩の斜面になっているみたいなんだけど、そこまで行ってもこの段差は無くならないみたい。っていうか、そこから先は山の斜面に大きなクレバスが走っているみたいね。もう少し近づけばユウにも見えてくるはずよ」


そして、言い終わるとフィノはゆっくり馬を出した。

そのすぐ後にアーダが続く。

ユウもルティナと一緒に二人の後について行った。

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