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フィノの番

翌日、ユウは予定通りにフィノの馬に乗る事となった。

だが、それによりユウはこの三日間で最も難儀な状況に直面する事となる。


といっても、フィノがユウに甘えて来て、ルティナやアーダがそれについて文句を言って揉めだした、などというような事ではない。

フィノは元々ユウに抱きしめられる事が好きだった事ので、馬に乗るにあたっては当然のようにユウの前に座る事を選んだのだが、そうなると必然的に、前日のルティナの弓と同様にユウがフィノの剣を背負わなければならなくなり、これにやはり昨日と同様、大地の盾を一緒に背負うとなると、ユウにとってはそれだけで大変な事になってしまった、という事だ。


これは、フィノの剣が見かけ以上に重い事に原因がある。

フィノはこの剣を軽々と振るっているが、これは他の者も同じように振るえる代物ではない。

それでも剣だけならば、そこまで辛い思いをする事も無かったのだろうが、それに加えて小人にもらった盾も持たなければならない為、この二つのものを持つだけの事でユウにとっては大仕事となってしまったのだ。


フィノがユウを気遣い言ってくる。

「ユウ、大丈夫? 重くない? 」


が、ここはさすがに見栄を張らざるを得ない所だ。

「大丈夫。このくらい、何ともないよ。持っているだけだからね」


見栄以外にも、これまでフィノはこの剣をずっと背負ってここまで来た事を思えば、こんな時くらいは少し楽をさせてあげたい、という思いもある。

いや、そんな事は全て別にして、両手を開けて、こうしてフィノを腕に抱いていたいのだ。


フィノを胸に抱いていると心地良いし、懐かしい思いにも浸る事が出来る。

この世界に来て最初の頃はずっとこうして過ごしていた為か、こうしていると何故だか不思議としっくりくる。

これはフィノが剣を背負っていると出来ない事だ。

だから、ユウが頑張るしかない。


「でも、ユウはなんだかふらふらしているみたいに感じるんだけど…。なんなら剣は私が前に抱えて持つようにする?」

「いや、さすがにそれは持ちづらいだろ。それに、それだと俺も窮屈になりそうだしね」


フィノはさかんにユウの身体を案じてくれるが、フィノが剣を前に持つとすると、さすがに両手がふさがるだろうから、フィノの身体を抱いているユウもその影響を受ける事になる。

フィノの事なのでフィノはそれでも疲れないのかもしれないが、だとしてもそんな窮屈な体勢を取らせる事は躊躇われる。


「せめてその盾くらいはあたしがもってやろうか? 重そうだぞ」

見かねたのか、アーダが優しい言葉をかけてくる。

と言うよりも、そう言わざるを得ない程、辛そうに見えたのだろう。


しかし、それも出来るだけしたくない。

今日のアーダには重要な役割があるからだ。


「いや、何かあった場合、今日のフィノは機敏には動けないだろうから、アーダの機動力まで奪うような真似はしたくない。だからここは、ルティナも含めて二人には身軽に動けるようにしておいてもらいたいんだ。何かあった場合の今日の主力は、アーダだからね」

それはすなわち自分がお荷物であるという事に他ならない訳で、情けない、とも思わないでもないのだが、ここで見栄を張っても良い事が無いどころか、命にかかわる可能性だってある。

しかもそれは、自分一人に留まらず、同行している三人にも降りかかってくる問題でもある。

なので、ユウはそんな愚かな見栄は張らないようにして、正直にそう言った。


軽く手を上げ了承の意を表したアーダが、少し前へと進み出る。

「そういう事なら、任せておいてくれ」


その表情は見えないが、心なしかいつもよりも動きが機敏で、アーダの気持ちが上がっている事が伝わってくる。

こんな風に言えばアーダが喜ぶだろう事は、ユウにはある程度わかっていた。

何故なら、昨日の岩亀戦で最終的な止めをフィノに取られた事を、アーダは随分と気にしていたからだ。


アーダはフィノに止めを取られた事が余程悔しかったらしかった。

あの時、フィノが岩亀の首を落としていなければ、戦いはもっと長引いていたであろう事はアーダもわかっているのだが、それでもフィノに先を越された事は無念だったようなのだ。

フィノは特別な力を持っているのだから、と言っても納得しない。

自分も特別な人間なのだから、それは理由にならないと言うのがアーダの理屈だ。


それは少し考え方が違っていると思うのだが、アーダはフィノやルティナよりもとにかく少しでも多く役立ちたい、と考えているのも確かなようで、目に見える成果を上げたがっている。

この一行に後から加入したが為のコンプレックスのようなモノがあるのかもしれない。

だからこそ、アーダはユウの言葉が嬉しかったのだ。


「アーダ、念のために言っておくけど、魔獣を見つけたからといって、すぐに魔獣に向かって行かないでよね。やり過ごすのが一番なんだから」

「わかってるって。無謀はしねぇよ」

昂りかけていたアーダにルティナが釘を刺している。

アーダもルティナの指示を無下にする事はしないようなので、この二人も存外いいコンビになっているのかもしれない。


そんな調子でしばらく行くと、小さな丘を登りきった辺りで、突然アーダが立ち止った。

その隣にルティナも並び、少し遅れていたユウの馬の到着を待つ。


ユウがそこへゆっくり近づいて行くと、ルティナが振り返り、問いかけてくる。

「分かれ道です。どっちに行きます?」


見ると、そこは確かに分かれ道になっていた。

草原の真っただ中に分かれ道があるというのもおかしな話だが、確かに二手に分かれている。


一方は、進行方向に沿って登っていて、もう一方は下っている。

どちらもそれまでと同じ草原なのだが、綺麗に二段に分かれているのだ。


どっちに行ってもしばらくは緩やかな坂になっているので、どちらに行く事も出来るのだが、二つの草原はその先で垂直に切り立った断崖に隔てられ、そこから先は二つの草原の間を行き来する事は出来そうもない。

ユウはそのどちらに進むのか、決断しなければならなかった。

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