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撃破

岩亀の口が自分達の正面に来ない様にする為に、ユウは馬をランダムに左右に振りながら走らせていた。

その激しく動く馬の上で、ルティナが弓を射かけていく。

ユウの素早い手綱さばきで、現状、岩亀が発する岩の弾には何とか当たらずに済んでいるが、ルティナの放つ矢の方も有効なダメージは与えられていない。


「ごめん、撃ちにくいよね」

「大丈夫です。むしろ楽しいくらいです。私は弓に集中するだけでいいのですから」


実際、この時ルティナはこの状況を楽しく感じていた。

その身をユウに預けている事が嬉しいのだ。

弓だけに集中できる事も好ましい。

標的の位置が定まらず、上手く狙いを付けられない事など、大した問題ではなかった。


ルティナは、その時その時で可能な限りの狙いを定め、迷わず矢を放っていった。

すぐ脇にメートルサイズの岩石が突き刺さっても気にしない。

不思議と少しも恐いと思わないのだ。


しかし、結果として、ルティナの放つ矢の方も岩亀に対してダメージを与える事は出来ていなかった。

それでも構わないとルティナは思っていた。

なぜなら、少しでも長く岩亀の注意を引き付けておく事が今の自分の役割だと認識していたからだ。


ルティナが矢を射かけ、岩亀がそれを甲羅で弾く、そしてその後岩亀が撃つ岩の弾による反撃をユウが何とか避けていく。

そんなやり取りを何度か繰り返した所で、ルティナの役割は完遂した。


それまでと同様、ルティナが射かけた矢の一本を岩亀が弾き、反撃の為に岩亀が頭を上げたその瞬間、岩亀の頭に横からフィノが斬りかかったのだ。

フィノが気配を消していた事と、ルティナが注意を自分に惹きつけていた所為で、岩亀はフィノの存在に気付いていなかった。


が、フィノの存在に気が付くと、岩亀はあっさりルティナへの攻撃を諦め、首を甲羅に戻す事だけに専念した。

そうする事により、それまでとは別次元の速さで首を甲羅の中へと引き戻す事が出来るようなのだ。


岩亀の頭は、その甲羅と同様、硬い外殻に護られている。

そこは、フィノのバカ力をもってしてもさすがに切り落とす事の適わない場所でもあった。

しかし、ルティナを狙う為に延ばしていた首ならば、伸縮する事が出来る分、そこまでの硬さはない為、狙うのには適した場所と言える。

フィノは当然その首を狙って切り掛かっていたのだが、フィノの人間離れした運動能力をもってしても、岩亀の反応にはぎりぎりの所で追いつく事が出来なかった。


ガキン


巨人から貰ったフィノの巨大な剣が、岩亀の頭に当たって弾き返される。

フィノの力で、しかも振るっているのはあの巨人の剣だというのにもかかわらず、弾き返す岩亀の硬さは、並大抵のモノではない。


しかし、フィノの攻撃力も並大抵のモノなどではなかった。

フィノの剣は岩亀のゴツゴツした外皮によって弾かれてしまったが、その時にはまだ完全に戻りきれていなかった外皮の内側の筋肉は、その衝撃を受け切れていなかった。

その為に首の筋肉が弛緩してしまい、僅かにではあるものの再び首は伸びてしまっていた。


もっとも、弛緩したのはほんの僅かな時間でしかなく、すぐに甲羅の中へと戻り始める。

さすがにまだ先程の様な超高速では動かせないらしく、首はゆっくりと動いているのだが、それでも二撃目を狙うフィノの剣では間に合いそうにない。


しかし、そのゆっくりと戻って行く首の皮と固い背中の甲羅との間の僅かな隙間に、フィノがいるのとは逆方向から、一陣の風と共に間一髪で銀色の軌跡が突き刺さった。

アーダの投じたラビアローナの槍だ。


槍は見事に目的の場所に突き刺さっていた。

岩亀の首から血が滴り落ちる。

とはいえ、それはまだ致命傷には至っていない。

岩亀は首に槍が刺さったままの状態で、今までになく大きく口を開けた。


グウォォォォォォォォォ


前に聞いた時よりも随分と野太い、大地を震わすような雄叫びがあがる。

そしてその直後、大きく開けたその口を左右に振って、狙いもつけずに岩の弾を乱れ撃ちし始めた。


人の身体など簡単に押しつぶしてしまいそうな大きな岩に、周囲の地面が次々と抉られていく。

ルティナの最後の一射の後、ユウは岩亀から距離を取るよう動いていたのだが、それでも岩の弾の射程からは逃れ切れていない。


だが、亀から距離を取る方向に動いていた事で、ユウの周りには岩亀が最初にユウとルティナを狙って射出した岩がごろごろしていた。

ユウはその岩の中で、一番大きな岩の裏に馬ごと隠れた。

それは、岩亀が撃った岩の弾などでは無く、元々その場所に有った岩だったようだった。


その為他の岩と比べると一回り大きく、また頑丈そうにも見えたのだが、それでも岩亀の攻撃を何発も持ち堪える事は出来そうもなかった。

周囲の地形が、見る見る変わっていく。


しかし、よく見るとそれは岩亀の頭の前方だけだった。

盛んに首を振ってはいるが、岩亀は頭の後ろへは岩の弾を飛ばす事が出来ていない。


そしてこの時には、フィノもアーダも既に岩亀の頭の後ろまで回り込んでいた。

そのフィノが横から大剣を振りかざして飛びこんでいく。


しかし、岩亀はこれを身体全体の向きを変える事で何とかしのいだ。

ギリギリの所でフィノの姿を捉えた為、咄嗟に射程の中に入れるべく体全体で動いたのだ。


こうなると、さすがにフィノも防御に専念せざるを得なくなる。

岩亀が次々と撃ってくる岩の弾を、何とか剣で弾いていく。

剣で岩を弾く事が出来るだけでも十分凄いのだが、さすがに攻撃には転じられない。


だが、岩亀はアーダにラビアローナの槍を突き刺された時に既に詰んでいた。


フィノとは反対側から岩亀の甲羅に取りついていたアーダが、この間にラビアローナの槍の所まで移動して、その槍を更に首の奥へと突き刺したのだ。

鈍い音をたて、槍が亀の胴体の中へと押し込まれていく。

それに慌てた岩亀は、フィノへの攻撃を止め、アーダを振り落すべく、激しく首を振り始めた。


しかしそれは思慮の足りない愚策だった。

首を振るためにはどうしても首を伸ばさなければならない。

その為に伸びた柔らかな部分に、フィノが一気に斬りかかる。


フィノの巨大な剣が岩亀の首をあっさり両断していく。

岩亀は無念そうな目を、その時ちょうど亀の正面の位置にいたユウの方へと向けたまま、ズドンと大きな音をたてて事切れた。

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