第96章 誰かに見られていた
昼休み。
ユウは教室の隅で弁当を食べていた。
昨日もらった青い鳥のキーホルダーが、鞄から少しだけ見えている。
それを見つけた男子が声をかけた。
「それ、誰から?」
「え?」
「そのキーホルダー」
「ああ……友達」
「女?」
ユウは箸を止めた。
「……たぶん」
「たぶんって何だよ」
「分からないから」
「お前、それ絶対好きじゃん」
「そうなの?」
「そうだろ」
「でも、まだ分からない」
男子は呆れたように笑った。
「じゃあ聞いてみれば?」
「何を?」
「好きかどうか」
「本人に?」
「お前のことだよ」
「……難しいな」
「なんで?」
「だって、まだ自分でも分からないのに」
男子は少し考えた。
「それもそうか」
二人は弁当を食べ続けた。
*
放課後。
ユウは教室を出た。
廊下の向こうに、彼女がいる。
青い鳥のキーホルダーをくれた女の子。
目が合った。
「あ」
「……あ」
二人とも止まる。
「今日、時間ある?」
彼女が聞いた。
「うん」
「じゃあ、一緒に帰らない?」
「いいよ」
二人で歩き始める。
しばらく無言だった。
ユウが口を開く。
「昨日のキーホルダー」
「うん」
「ありがとう」
「気に入った?」
「うん」
鞄につけてある青い鳥を見る。
「毎日見てる」
「……そっか」
彼女が少し笑った。
「じゃあ、よかった」
また歩く。
「ねえ」
「うん?」
「昨日、誰かに聞いた?」
「何を?」
「そのキーホルダーのこと」
「聞かれた」
彼女が少し驚く。
「誰に?」
「クラスの人」
「何て言われたの?」
ユウは迷った。
「……好きなんじゃないかって」
彼女が黙る。
「それで?」
「分からないって答えた」
「そうなんだ」
「うん」
少し気まずい。
ユウは慌てて言った。
「嫌だった?」
「何が?」
「分からないって言ったこと」
彼女は首を横に振った。
「ううん」
少し考えてから。
「私も分からないから」
「え?」
「私がユウのことを好きなのか」
ユウは立ち止まった。
彼女も立ち止まる。
二人の間に、少しだけ風が吹いた。
「じゃあ」
ユウが言った。
「同じだね」
「うん」
彼女は笑った。
「同じ」
*
その日の夕方。
万事修理店。
ユウがやって来た。
「林夏」
「お、ユウ」
「ちょっと聞きたい」
「何?」
「好きって、どうやって分かるの?」
林夏は真剣に考えた。
「……お腹空いたときに、その人を思い出すとか?」
「それは林夏だけじゃない?」
月白が横から言った。
「確かに」
「じゃあ月白は?」
月白は少し考えた。
「その人と一緒にいるとき、何も起きなくても楽しいと思えるとか」
ユウは黙って聞いていた。
「でも」
月白は続ける。
「それだけで恋なのかは、分からない」
「じゃあ、どうするの?」
林夏が言った。
「分からないままでいいんじゃない?」
「いいの?」
「だって、明日のことなんて誰にも分からないし」
「……それ、いつものやつ?」
「そう」
月白が笑う。
「明日のことは、明日考えればいい」
ユウは少し考えた。
「じゃあ、明日も話してみる」
「それでいいと思う」
林夏が頷いた。
「自分で決めればいい」
ユウは青い鳥のキーホルダーを触った。
「うん」
*
翌朝。
学校へ向かう途中。
ユウは彼女を見つけた。
「おはよう」
「おはよう」
「昨日の続きだけど」
「うん」
「今日も一緒に帰らない?」
彼女は少し驚いた。
それから笑った。
「いいよ」
二人は並んで歩き始めた。
まだ恋人ではない。
好きなのかどうかも分からない。
それでも。
昨日より少しだけ近い。
その距離を。
二人は誰にも決めてもらわなかった。
【関係:未定義】
【感情:確認中】
【次回接触:継続】
そして。
【本人の選択:進行中】
端末の表示が消える。
ユウはそれを見なかった。
ただ。
隣を歩く彼女に、
「今日、何食べる?」
と聞いた。
彼女は笑って答えた。
「それ、ユウが決めて」
二人の帰り道は。
まだ始まったばかりだった。




