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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第89章 それは、たぶん恋じゃない

「ユウ、これ」


昼休み。


教室の窓際で、女の子が小さな紙袋を差し出した。


ユウは少し驚いた。


「僕に?」


「うん」


「何?」


「開けてみて」


ユウは紙袋を受け取った。


中には、小さなキーホルダーが入っていた。


青い鳥の形をしている。


「かわいい」


「そう?」


「うん」


「じゃあ、よかった」


彼女はそれだけ言って、自分の席へ戻っていった。


ユウはキーホルダーを手のひらに乗せたまま、しばらく動かなかった。


隣の席の男子が覗き込む。


「お前、それ、もしかして……」


「何?」


「告白じゃない?」


「え?」


ユウは目を丸くした。


「いやいや、ただのキーホルダーだよ」


「女子からもらったんだろ?」


「そうだけど」


「じゃあ、そういうことだって」


「どういうこと?」


「……お前、本当に分からないの?」


ユウは困った顔をした。


「分からない」


「まあ、お前らしいけど」


男子は笑った。


ユウはもう一度キーホルダーを見た。


青い鳥。


ただ、それだけだった。


*


放課後。


ユウは万事修理店に来た。


「林夏」


「お、ユウ。どうした?」


「ちょっと聞きたいことがある」


「恋愛相談?」


「なんで分かったの?」


「顔」


「そんなに分かりやすい?」


「分かりやすい」


月白が店の奥から出てきた。


「何があったの?」


ユウは紙袋を机の上に置いた。


「これ、もらった」


月白が中を見る。


「キーホルダー?」


「うん」


「誰から?」


「同じクラスの子」


林夏がすぐに言った。


「それは大事にしよう」


「そういう話じゃなくて」


「じゃあ何?」


「これって、恋愛なのかな」


月白は少し考えた。


「分からない」


「だよね」


「本人に聞かないと分からないと思う」


「でも、聞くの怖い」


林夏は椅子に座った。


「じゃあ、今は聞かなくていいんじゃない?」


「え?」


「嬉しかったんでしょ?」


「うん」


「じゃあ、それでいいじゃん」


ユウはキーホルダーを見る。


「嬉しかった」


「なら、今日はそれで十分」


月白も頷いた。


「好きかどうかって、すぐ決めなくてもいいと思う」


「……そうなのかな」


「うん」


ユウは少し安心した。


「じゃあ、明日も普通に話していい?」


「もちろん」


「でも、もし向こうが好きだったら?」


林夏は少し考えた。


「そのとき考えればいい」


「またそれ?」


月白が笑う。


「林夏らしいね」


「だって、まだ起きてないことだから」


ユウはしばらく考えていた。


そして、キーホルダーを紙袋に戻した。


「じゃあ、明日でいいか」


「それでいい」


*


翌朝。


ユウが教室に入ると、彼女がいた。


「おはよう」


「おはよう」


ユウは少し緊張した。


昨日もらったキーホルダーを鞄につけている。


彼女はそれを見ると、少し笑った。


「つけてくれたんだ」


「うん」


「ありがとう」


「こっちこそ」


そこで会話が終わった。


ユウは席に座った。


胸が少しだけ温かかった。


でも、それが恋なのかどうかは、やっぱり分からなかった。


それでも。


今日は、昨日より少しだけ彼女と話したいと思った。


それだけだった。


*


一方。


万事修理店では、月白が昨日買った本を読んでいた。


林夏は向かいで作業をしている。


しばらくして、月白が顔を上げた。


「ねえ」


「ん?」


「昨日の本、続きを読まない?」


「もう読んだ?」


「半分」


「早い」


「面白かったから」


「じゃあ、一緒に読む?」


「うん」


月白は本を閉じた。


二人は同じ本を開いた。


肩が少し触れる。


誰も気にしなかった。


それが最近では、もう珍しいことではなくなっていた。


店の扉が開く。


紅葉だった。


「……何してるの」


「読書」


「見れば分かる」


「じゃあ聞かないでよ」


紅葉はため息をついた。


「七番から連絡が来た」


月白が顔を上げる。


「何て?」


「昨日の場所、また行かないかって」


「行くの?」


「まだ決めてない」


林夏は笑った。


「じゃあ、まだ決めなくていいじゃん」


「……本当に、あんたはそればっかりね」


紅葉はそう言った。


けれど、少しだけ嬉しそうだった。


「でも」


彼女は続けた。


「たぶん、行く」


「どうして?」


月白が聞く。


紅葉は少し考えた。


「もう一度、話したいから」


それだけだった。


*


夕方。


七番は一人で待っていた。


紅葉が来る。


「待った?」


「少し」


「帰ろうと思わなかった?」


「思った」


「じゃあ、なんで待ってたの?」


七番は笑った。


「来るかもしれないと思ったから」


紅葉は少し黙った。


「……そういうところ、変わらないね」


「悪い?」


「分からない」


紅葉は隣に立った。


二人は歩き始めた。


今度は、前より少しだけ近い距離だった。


けれど。


どちらも、その距離に名前をつけなかった。


*


夜。


ユウは自分の部屋で、青い鳥のキーホルダーを眺めていた。


スマートフォンを手に取る。


短いメッセージを打つ。


――明日も話そう。


送信する。


すぐに返事が来た。


――うん。


それだけ。


ユウは画面を見ながら笑った。


「……これ、恋なのかな」


誰も答えない。


だから。


今はまだ、分からなくていい。


【関係:発生】


【感情:未確定】


【次回接触:予定】


【定義:本人に委ねる】


画面を閉じる。


ユウはベッドに横になった。


明日のことは、明日考えればいい。


少なくとも今は。


誰かと話したいと思えたことだけで、十分だった。

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