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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第88章 君が選んだ場所

「こっち」


月白が歩く。


林夏はその後ろをついていく。


「まだ着かない?」


「まだ」


「どこ行くの?」


「秘密」


「昨日からそればっかりだね」


「言ったでしょう。今日は私が決めるって」


「分かった」


林夏は素直についていった。


しばらく歩くと、人通りの多い通りを抜けた。


大きな店もない。


観光客もほとんどいない。


その先に、小さな古本屋があった。


月白は立ち止まった。


「ここ」


「本屋?」


「うん」


林夏は店を見た。


「前にも来たことある?」


「ない」


「じゃあ、初めて?」


「そう」


月白は扉を開けた。


小さな鈴が鳴る。


店内には、古い紙の匂いが漂っていた。


棚には年代の違う本が並んでいる。


林夏は一冊の本を手に取った。


「これ、読める?」


「読めるよ」


「タイトルが難しい」


「林夏には難しいかもね」


「ひどい」


月白は笑った。


二人で棚を眺めていると、月白が一冊の本を手に取った。


表紙は少し色あせていた。


「これ、好きそう」


「俺が?」


「うん」


林夏は本を受け取った。


「どんな話?」


「まだ読んでないから分からない」


「じゃあ、なんで俺が好きそうって分かるの?」


「表紙」


「それだけ?」


「それだけ」


「適当だなあ」


「でも、気になったでしょう?」


「……まあ」


月白は笑った。


「じゃあ、それでいい」


*


本屋を出たあと。


月白は次の場所へ向かった。


「今度はどこ?」


「昼ご飯」


「やった」


「ラーメンじゃないよ」


「えっ」


「今日は違う」


「……」


林夏は少し残念そうな顔をした。


月白はそれを見て笑う。


「そんな顔しないで」


「してない」


「してる」


「してない」


「してる」


二人は小さな食堂に入った。


窓際の席に座る。


注文を終えると、林夏は買ったばかりの本を机の上に置いた。


「これ、帰ったら読もうかな」


「一緒に?」


「うん」


月白は少しだけ目を細めた。


「それ、いいね」


料理が運ばれてくる。


二人は静かに食べ始めた。


特別な話はしなかった。


今日見た本の話。


店の話。


昨日の雨の話。


そして、明日の天気。


それだけ。


けれど月白は、何度も笑っていた。


林夏も笑っていた。


*


午後。


二人は食堂を出た。


「次は?」


林夏が聞く。


「もうないよ」


「え?」


「今日はこれで終わり」


「もう帰るの?」


「うん」


「まだ早いよ」


「だから、ゆっくり帰ればいい」


林夏は少し考えた。


「じゃあ、遠回りしよう」


「いいよ」


二人は来た道を戻らず、知らない道へ入った。


途中、小さな公園があった。


月白がベンチに座る。


林夏も隣に座った。


風が吹く。


木の葉が揺れる。


しばらく、二人とも何も話さなかった。


月白が突然言った。


「今日ね」


「うん」


「楽しかった」


「俺も」


「本当?」


「本当」


「じゃあ、また行こう」


「うん」


月白は少しだけ迷ってから言った。


「次も、私が決めていい?」


林夏は笑った。


「もちろん」


月白は安心したように息を吐いた。


「よかった」


「そんなに?」


「うん」


「なんで?」


月白は少し考えた。


「自分で決めた場所に、一緒に行ってくれる人がいるのって……」


言葉が止まる。


「なんか、いいなって思った」


林夏は何も言わなかった。


ただ、隣に座っていた。


月白も、それ以上は言わなかった。


*


その頃。


紅葉は一人で古い倉庫の前にいた。


七番から送られてきた場所だった。


扉には、かつて命運修正機構が使っていた古い印が残っている。


紅葉はそれを見た。


「……まだ残ってる」


背後から声がした。


「消されてなかったんだね」


七番だった。


紅葉は振り返った。


「来たの?」


「君が来ると思ったから」


「それ、待ち伏せ?」


「違う」


「じゃあ?」


「同じ場所を見たかっただけ」


紅葉は少し黙った。


「入る?」


「いいの?」


「私は入る」


七番は頷いた。


「じゃあ、一緒に行く」


二人で扉を開ける。


中は暗かった。


古い机。


壊れた端末。


使われなくなった記録棚。


そして壁に残された、いくつもの名前。


紅葉はその中から自分の名前を探した。


なかった。


七番の名前もなかった。


「……消された」


「たぶん」


「誰が?」


「分からない」


紅葉は壁に触れた。


「でも、ここにいたことは消せない」


七番が彼女を見る。


「どうして?」


紅葉は振り返った。


「私が覚えてるから」


七番は少し笑った。


「それなら、十分だね」


紅葉は何も言わなかった。


ただ、ほんの少しだけ笑った。


*


夕方。


林夏と月白は店に戻った。


買った本を机の上に置く。


「読む?」


林夏が聞いた。


「今日はいい」


「なんで?」


「今日はもう、十分楽しかったから」


林夏は少し考えた。


「そっか」


本を棚に置く。


月白はその本を見た。


「明日、読む」


「じゃあ明日」


「うん」


その言葉が、妙に自然だった。


明日も会う。


明日も話す。


明日も、何かをする。


それだけのことなのに。


月白は少し嬉しかった。


窓の外では、夕日が街を照らしている。


端末が静かに一度だけ光った。


【本日の共同行動:記録】


【行動目的:未定義】


【満足度:算出不能】


【次回行動:本人たちに委ねる】


林夏は画面を見なかった。


月白も見なかった。


二人はただ、買ったばかりの本を棚に置いた。


明日読むために。


明日、また会うために。


それ以上の名前を。


今は、まだ必要としていなかった。

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