↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/350

第80章 いつものように

翌朝。


月白は。


店の前で立ち止まった。


昨日のことを思い出す。


手をつないだ。


それだけ。


でも。


昨日から。


何度も思い出してしまう。


「……どうしてだろう」


自分でも。


少しおかしいと思った。


それでも。


扉を開ける。


「おはよう」


「おはよう」


林夏は。


いつもの場所にいた。


月白は。


少しだけ安心した。


⸻


午前中。


二人は。


いつも通り仕事をした。


時計を修理する。


本を読む。


昼になる。


食事をする。


特別なことは。


何もない。


それなのに。


月白は。


何度か林夏の手を見ていた。


昨日。


自分が握った手。


そのことを思い出すたび。


少しだけ。


胸が温かくなる。


林夏は。


何も気づいていない。


いつも通りだった。


⸻


昼過ぎ。


林夏が言った。


「散歩する?」


「うん」


二人は。


店を出た。


昨日と同じ道。


人通りも。


ほとんど同じ。


月白は。


隣を歩く。


昨日とは違って。


今日は。


人が少ない。


手をつなぐ理由はない。


だから。


二人とも。


何も言わない。


しばらく歩く。


月白は。


少しだけ林夏に近づいた。


肩が。


軽く触れる。


林夏は。


何も言わなかった。


月白も。


離れなかった。


⸻


公園。


ベンチに座る。


林夏が。


自動販売機で飲み物を買う。


「何がいい?」


「昨日と同じ」


「覚えてる」


林夏が。


二本買ってくる。


月白は。


受け取った。


「ありがとう」


「どういたしまして」


二人で。


静かに飲む。


「ねえ」


月白が言う。


「うん?」


「昨日」


「うん」


「手をつないだでしょう?」


「うん」


「今日は」


少し間を置く。


「つながなくてもいい?」


林夏は。


不思議そうに見る。


「もちろん」


月白は。


少し笑った。


「そう」


しばらくして。


月白が。


林夏の手の近くに。


自分の手を置く。


触れない。


ただ。


近くにある。


林夏は。


それを見る。


そして。


何も言わない。


⸻


帰り道。


夕方の街。


人が少し増えてきた。


二人は。


並んで歩く。


信号を渡る。


月白が。


少しだけ前に出る。


林夏が。


追いつく。


その時。


月白の手が。


林夏の手に触れた。


一度。


離れる。


また触れる。


今度は。


離れなかった。


月白が。


小さく手を握る。


林夏も。


握り返す。


二人とも。


何も言わない。


昨日とは。


違う。


今日は。


誰もいない。


人混みもない。


必要もない。


それでも。


手をつないだ。


⸻


店に戻る。


紅葉が。


カウンターにいた。


二人の手を見る。


今度は。


隠すこともできなかった。


紅葉は。


少しだけ黙る。


「……」


林夏が。


普通に言う。


「ただいま」


「おかえり」


月白も。


「ただいま」


紅葉は。


二人の手を見て。


そして。


本に目を戻した。


「今日は人、多かった?」


「いや」


林夏が答える。


「少なかった」


紅葉の指が。


ページの端で止まる。


「……そう」


それ以上。


何も言わない。


⸻


夜。


月白が帰る時間。


扉の前で。


二人は立っている。


「じゃあ」


「うん」


「また明日」


「また明日」


月白は。


少し歩く。


そして。


振り返る。


林夏は。


まだそこにいる。


月白は。


少し笑った。


「おやすみ」


「おやすみ」


月白が帰っていく。


林夏は。


しばらく見送った。


⸻


翌朝。


月白が店に来る。


「おはよう」


「おはよう」


昨日と同じ。


いつもの挨拶。


いつもの時間。


いつもの場所。


月白は。


少しだけ笑った。


林夏が。


「今日はどうする?」


と聞く。


月白は。


少し考える。


「何もしなくていい」


「いいの?」


「うん」


そして。


少しだけ間を置いて。


「一緒にいれば」


林夏は。


笑った。


「それなら簡単だな」


「うん」


二人は。


並んで座った。


何も起こらない。


何も決めない。


ただ。


同じ時間を過ごす。


それが。


いつの間にか。


二人にとっての。


「いつものこと」になり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。