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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第76章 甘いもの

午後。


万事修理店の仕事が一段落した。


林夏は。


時計を見る。


「そろそろ行く?」


月白は。


本を閉じた。


「うん」


紅葉が。


カウンターの向こうから顔を上げる。


「また二人?」


「うん」


林夏が答える。


「甘いもの食べに行く」


紅葉は。


少しだけ笑った。


「そう」


「紅葉も来る?」


「いい」


「本当に?」


「今日はいい」


紅葉は。


視線を本へ戻した。


「二人で行けば?」


月白は。


紅葉を見た。


「……分かった」


二人は。


店を出た。


⸻


街の端に。


小さな洋菓子店がある。


林夏が見つけた店だった。


「ここ」


「初めて?」


「うん」


「どうして知ってるの?」


「昨日、通った」


「一人で?」


「そう」


「じゃあ」


月白が。


少し笑う。


「昨日から今日のために探してたの?」


林夏は。


少し考えた。


「……そうかも」


月白は。


何も言わなかった。


ただ。


少し嬉しそうに笑った。


⸻


店の中。


ショーケースには。


小さなケーキが並んでいる。


月白は。


真剣に選んでいる。


林夏は。


すぐに決めた。


「これ」


「早い」


「食べたいものは分かる」


「月白は?」


「まだ」


「全部食べれば?」


「無理」


「じゃあ二つ」


「それも無理」


「じゃあ半分こ」


月白は。


ショーケースを見る。


「……それならいい」


「決まり」


二人で。


一つずつ選んだ。


⸻


窓際の席。


ケーキが二つ。


林夏は。


すぐに食べ始める。


月白は。


小さく一口。


「美味しい?」


「うん」


「よかった」


「林夏が作ったわけじゃないのに」


「俺が見つけた」


「それだけ?」


「それだけ」


月白は。


笑った。


「でも、ありがとう」


「どういたしまして」


二人は。


静かに食べた。


⸻


その時。


店の外で。


小さな子供が転んだ。


母親が駆け寄る。


林夏が。


反射的に立ち上がった。


「大丈夫かな」


月白も。


窓の外を見る。


子供は泣いている。


けれど。


母親が抱き起こしている。


林夏は。


席に戻った。


「大丈夫そう」


「うん」


月白が。


少し笑った。


「林夏って」


「ん?」


「こういう時、すぐ見るよね」


「気になるから」


「誰にでも?」


「たぶん」


「そっか」


月白は。


少しだけ目を伏せた。


「……そういうところ」


「何?」


「何でもない」


「また?」


「うん」


⸻


帰り道。


月白の足が。


少し遅くなった。


林夏が気づく。


「疲れた?」


「少し」


「休む?」


「大丈夫」


「じゃあ、ゆっくり行こう」


林夏は。


歩く速度を落とした。


月白も。


その隣を歩く。


「林夏」


「うん?」


「さっき」


「子供?」


「うん」


「どうした?」


「……優しいね」


林夏は。


少し困った顔をした。


「普通じゃない?」


「そうかもしれない」


月白は。


前を見る。


「でも」


「うん?」


「私は好き」


林夏の足が。


一瞬止まった。


月白も。


止まる。


二人の間に。


短い沈黙が落ちた。


林夏が。


ゆっくり聞く。


「……何が?」


月白は。


少し考えた。


「そういうところ」


「……ああ」


林夏は。


少しだけ笑った。


「びっくりした」


「何を?」


「いや」


「何?」


「何でもない」


月白が。


少し笑う。


「また?」


「うん」


⸻


店へ戻る。


紅葉が。


カウンターに座っていた。


「おかえり」


「ただいま」


林夏が。


紙袋を置く。


「これ、紅葉に」


「何?」


「ケーキ」


紅葉は。


少し驚いた。


「私に?」


「うん」


「……どうして?」


「三人で行けなかったから」


紅葉は。


紙袋を見る。


そして。


月白を見る。


月白は。


少し笑っていた。


「ありがとう」


紅葉は。


ケーキを受け取った。


「……いただく」


林夏が。


満足そうに笑う。


「うん」


紅葉は。


箱を開ける。


中には。


小さなケーキが一つ。


「これ」


「美味しそうだろ?」


「……うん」


紅葉は。


少しだけ笑った。


⸻


夜。


林夏が店を閉める。


月白が。


鞄を持つ。


「じゃあ」


「うん」


「また明日」


「また明日」


月白が。


少し歩いてから。


振り返る。


「林夏」


「ん?」


「今日は楽しかった」


「俺も」


「ありがとう」


「こちらこそ」


月白は。


笑って帰っていった。


林夏は。


その背中を見送った。


しばらく。


その場に立っている。


紅葉が。


横から言った。


「見送りすぎ」


「そう?」


「そう」


林夏は。


少し笑った。


「……そうかも」


紅葉は。


ケーキを食べながら。


林夏を見る。


「最近」


「うん?」


「変わったね」


「俺が?」


「うん」


「どこが?」


紅葉は。


少し考える。


「……誰かとの約束を」


一口食べる。


「ちゃんと覚えるようになった」


林夏は。


少し黙った。


それから。


笑った。


「そうかもしれない」


店の外。


月白の姿は。


もう見えない。


それでも。


林夏は。


まだ少しだけ。


そこを見ていた。

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