↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/350

第49章 同じ場所にいないという選択

翌朝。


万事修理店の前に、五人が集まっていた。


正確には。


集まる予定ではなかった。


林夏は店を開けるために来た。


月白は昨日借りた本を返すために来た。


紅葉は林夏に用事があった。


澪は端末の異常を調べるために来た。


ユウは昨日のラジオを取りに来た。


結果として。


五人が揃った。


林夏が店の鍵を開けながら言う。


「なんだ。今日も全員いるじゃん」


紅葉が答えた。


「別に待ち合わせたわけじゃない」


「知ってる」


「なら言うな」


月白が笑った。


そのとき。


澪の端末が鳴った。


【共同因果:継続】


【接触頻度:上昇】


【同一地点:増加】


【原因:不明】


澪は画面を見つめる。


「……また始まった」


林夏が覗き込む。


「今度は何を問題にしてる?」


「私たちが、自然に同じ場所へ集まること」


紅葉が言った。


「それの何が悪い?」


「分からない」


澪は画面を操作する。


「ただ、システムが原因を特定できていない」


ユウが聞く。


「じゃあ、調べようとしてるんですか?」


「たぶん」


林夏は肩をすくめた。


「別に調べなくてもいいだろ」


澪が顔を上げる。


「どうして?」


「集まる理由なんて、毎回違うんだから」


その言葉に。


誰も反論しなかった。


月白が店の中を見る。


「今日は何をするの?」


「修理」


「私は?」


「手伝いたければ手伝えばいい」


「手伝わなくても?」


「いいよ」


紅葉が言った。


「私は少し外に行く」


林夏が振り返る。


「どこへ?」


「分からない」


「じゃあ、行ってらっしゃい」


紅葉は少し意外そうな顔をした。


「止めないのか?」


「なんで?」


「……いや」


紅葉は笑った。


「そうだったな」


そのまま歩き出す。


ユウも言った。


「僕も学校に行ってきます」


林夏が手を振る。


「行ってらっしゃい」


澪は端末を見ていた。


「私は残る」


月白が言う。


「私も」


林夏は頷いた。


「じゃあ、今日は三人だな」


紅葉は少し離れたところから振り返った。


「勝手に人数を数えるな」


「五人から三人になっただけだろ」


「そういう意味じゃない」


紅葉はそれだけ言って、歩いていった。


しばらくして。


ユウも駅の方向へ向かった。


店には。


林夏、月白、澪の三人だけが残った。


澪が端末を見る。


【共同因果:五人】


【物理的同行:三人】


【離脱:二人】


【共同因果:継続】


澪は少し驚いた。


「……継続してる」


林夏が工具を手に取る。


「だから言っただろ」


「何を?」


「同じ場所にいることと、一緒にいることは別だって」


月白は黙って聞いていた。


澪は画面を閉じた。


「じゃあ」


「ん?」


「誰も同じ場所にいなくても、共同因果は成立する?」


林夏は少し考えた。


「分からない」


澪が笑う。


「またそれ?」


「分からないことは分からない」


月白も笑った。


「でも」


「ん?」


「たぶん、そういうことなんじゃないかな」


その頃。


紅葉は駅とは反対方向へ歩いていた。


目的地は決まっていない。


ただ。


昨日から少し気になっている場所があった。


古い建物。


以前、命運修正機構の人間が使っていた施設だ。


建物の前で。


紅葉は立ち止まった。


扉には。


もう誰も使っていないはずの札が掛かっている。


【関係者以外立入禁止】


紅葉は札を見た。


そして。


笑った。


「まだ、こういうのが残ってるのか」


扉を開ける。


中には誰もいない。


机。


椅子。


古い記録端末。


壁に貼られた古い資料。


紅葉は一枚の紙を手に取った。


そこには。


【共同行動による因果安定】


と書かれていた。


紅葉は眉をひそめた。


「……これ」


下の文章を読む。


【複数の異常命軌が接近した場合、相互作用により予測精度が低下する】


その下。


【対策:接触機会の分散】


紅葉は黙った。


「なるほど」


彼女は紙を机に置いた。


「私たちが集まること自体が、昔から問題だったわけか」


端末が起動した。


【対象:紅葉】


【過去記録:命運修正機構所属】


【現在記録:未定義】


【推奨行動:帰還】


紅葉は画面を見た。


そして。


電源を切った。


「帰るかどうかは、私が決める」


それだけ言って。


部屋を出た。


一方。


駅では。


ユウが電車を待っていた。


ホームの時計を見る。


【八時二十三分】


いつもの時間。


いつもの場所。


しかし。


向かい側のホームに。


一瞬だけ。


月白の姿が見えた。


ユウは目を疑った。


しかし。


よく見ると。


知らない女性だった。


ユウは笑った。


「……なんだ」


そして。


電車が来た。


誰も知らない場所へ。


それぞれが歩いている。


同じ時間。


違う場所。


違う目的。


違う選択。


それでも。


どこかで。


一本の線だけが残っている。


【共同因果:継続】


【物理的接触:不要】


【同一選択:不要】


そして。


その一番下に。


新しい記録が現れた。


【次段階:個別選択の分岐】


その文字を。


誰も見ていなかった。


誰も知らなかった。


だから。


その日だけは。


誰もそれを拒否しなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。