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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第48章 分からない人の隣で

昼過ぎ。


五人は駅前の広場にいた。


林夏はベンチに座っている。


手には、紙袋。


中身はパンだった。


「また食べてる」


紅葉が言う。


「昼飯だよ」


「さっき食べただろ」


「さっきのは昼飯」


林夏は袋からパンを取り出した。


「これは追加の昼飯」


「それを間食と言うんだ」


「細かいな」


紅葉は呆れた顔をした。


月白は隣に座っていた。


林夏が紙袋を差し出す。


「食べる?」


「……少しだけ」


月白がパンを受け取る。


一口食べる。


「おいしい」


「だろ?」


林夏は満足そうに頷いた。


澪は少し離れた場所で端末を見ている。


ユウは噴水のそばで鳩を眺めていた。


紅葉は腕を組んでいる。


一見すると。


いつもの午後だった。


しかし。


澪の端末には、奇妙な表示が出ていた。


【共同因果:安定】


【個人因果:安定】


【環境:正常】


【異常:なし】


澪は眉をひそめた。


「……何もない」


紅葉が振り返る。


「それがどうした?」


「今までなら、何かが起きる」


「起きない日もあるだろ」


「そうだけど」


澪は画面を見つめる。


「システムが、何も予測していない」


林夏がパンを食べながら言った。


「いいことじゃん」


「そうかもしれない」


「じゃあ、今日は普通の日だな」


その言葉が落ちた直後。


端末が震えた。


【普通:定義不能】


林夏が笑った。


「ほら」


紅葉がため息をつく。


「お前が余計なことを言うからだ」


「俺のせい?」


「たぶん」


「ひどいな」


しかし。


今回の表示は、それだけだった。


何も起きない。


誰も追ってこない。


道も変わらない。


看板も書き換わらない。


時間も止まらない。


五人はそのまま広場にいた。


しばらくして。


ユウが戻ってきた。


「鳩って、人によって近づき方が違うんですね」


澪が聞く。


「どういう意味?」


「僕が近づくと逃げるんですけど、林夏さんが近づいても逃げない」


林夏が言った。


「俺は食べ物持ってるから」


「なるほど」


「鳩も分かってるんだよ」


紅葉が言う。


「何を?」


「お前が食べ物を持っていることだろ」


林夏は真面目な顔をした。


「違う」


「何が?」


「俺が優しい人間だってこと」


紅葉は黙った。


「……そういうところだぞ」


「何が?」


「何でも自分に都合よく解釈するところ」


月白が笑った。


林夏を見る。


「でも、そういうところは林夏らしいと思う」


林夏は少し驚いた。


「俺らしい?」


「うん」


「どんなところ?」


月白は答えなかった。


少し考えてから。


「分からない」


林夏が笑う。


「なんだ、それ」


「でも」


月白は続けた。


「分からないけど、一緒にいると分かることもあるから」


林夏は黙った。


紅葉が横から言う。


「お前たち、たまに妙に真面目な話をするな」


「そう?」


「そうだ」


ユウが笑う。


澪も端末から顔を上げた。


「今の言葉、記録されていない」


林夏が聞く。


「記録する必要ある?」


「ないと思う」


澪は端末を閉じた。


「だから閉じた」


それから。


しばらく誰も話さなかった。


風が吹く。


駅前の人々が行き交う。


誰も五人を特別には見ない。


誰も彼らの関係を尋ねない。


誰も未来を予測しない。


ただ。


同じ場所にいる。


月白がふと口を開いた。


「林夏」


「ん?」


「もし私が、突然いなくなったら」


紅葉が振り返る。


澪も顔を上げる。


ユウは黙った。


林夏だけが。


パンを食べていた。


「探す?」


月白は少し驚いた。


「……どうして?」


「いなくなったら探すだろ」


「危険かもしれないよ」


「そうかも」


「戻ってこないかもしれない」


「そうかもな」


「それでも?」


林夏は少し考えた。


「探すかどうかは、そのとき決める」


月白は笑った。


「そう言うと思った」


「なんで?」


「林夏だから」


林夏も笑う。


「じゃあ、安心だな」


「何が?」


「今はここにいるんだろ?」


月白は少しだけ目を細めた。


「うん」


「じゃあ、それでいい」


月白は頷いた。


「うん」


それ以上。


二人は何も言わなかった。


そのとき。


澪の端末が一度だけ光った。


【予測:未実行】


【理由:現在が継続しているため】


澪は画面を見つめる。


そして。


電源を切った。


「どうした?」


ユウが聞く。


澪は答えた。


「何でもない」


紅葉が笑う。


「珍しいな。お前が『何でもない』なんて言うのは」


「何でもないこともある」


「そうか」


林夏が立ち上がった。


「じゃあ、帰ろう」


「もう?」


「腹減った」


紅葉が呆れる。


「さっき食べたばかりだろ」


「だから、夕飯を考える時間だ」


「まだ昼だぞ」


林夏は歩き始めた。


「明日のことは、明日考えればいい」


月白がその後ろを歩く。


紅葉も続く。


澪も。


ユウも。


五人の影が、夕方の道に伸びていく。


誰が誰をどう思っているのか。


完全には分からない。


何を考えているのかも。


全部は分からない。


それでも。


分からない人の隣を歩くことはできる。


理解できないから離れる必要もない。


理解したから近づかなければならないわけでもない。


ただ。


今日、一緒に歩く。


それだけを選ぶことはできる。


街のどこかで。


古い時計が一度だけ鳴った。


しかし。


今回は。


記録されなかった。

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