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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第37章 名前のない関係

昼過ぎ。


五人は商店街の小さな食堂に入った。


店内には、四人掛けのテーブルがいくつかある。


林夏は店を見回した。


「五人だけど」


店員が言った。


「隣の席を使ってください」


二つのテーブルを近づける。


五人はそこに座った。


林夏がメニューを開く。


「何にする?」


紅葉が答える。


「自分で決める」


「じゃあ聞かなきゃよかったな」


月白が笑う。


「私はこれ」


ユウもメニューを覗き込む。


「僕はこれにします」


澪はメニューを閉じた。


「私は同じものでいい」


林夏が驚く。


「珍しいな」


「何が?」


「いつも自分で決めてるから」


澪は少し考えた。


「今日は、それを選びたい」


「なるほど」


注文を終える。


しばらくすると、料理が運ばれてきた。


普通の昼食だった。


特別なものではない。


五人は黙って食べた。


その時間だけは。


命軌も。


予測も。


共同因果も。


何も起こらなかった。


ところが。


食事を終えた直後。


五人の端末が同時に光った。


【関係記録:更新】


林夏が画面を見る。


「関係?」


そこには、五人の名前が並んでいた。


その横に。


【林夏――月白:同行者】


【林夏――紅葉:協力者】


【林夏――澪:観測対象】


【林夏――ユウ:保護対象】


月白が眉をひそめた。


「……保護対象?」


ユウも自分の端末を見る。


「僕は林夏さんに守られることになったんですか?」


林夏が首を振る。


「俺はそんなこと決めてない」


紅葉が端末を見た。


「私も協力者になった覚えはない」


澪は画面を見つめている。


「これは新しい」


「何が?」


「これまでシステムは、私たちの選択を予測していた」


「うん」


「でも、今度は関係そのものを記録し始めている」


月白が静かに言った。


「つまり……」


「私たちが誰なのかではなく」


澪が続ける。


「お互いにとって、何なのかを決めようとしている」


林夏は端末を見た。


【月白:同行者】


「これも違うな」


月白が彼を見る。


「違う?」


「月白は月白だろ」


「……」


「俺にとって何なのかなんて、そんな簡単に一つに決められない」


月白は少し黙った。


そして。


「うん」


小さく頷いた。


紅葉が画面を指差した。


「じゃあ、これも消せるのか?」


澪が操作する。


しかし。


消えない。


【関係記録:固定】


「固定?」


紅葉の声が低くなる。


「勝手に決めたものを固定するのか」


その瞬間。


店内の時計が止まった。


五人が顔を上げる。


店員も。


客も。


全員が動かない。


林夏が立ち上がった。


「またか」


澪が端末を確認する。


【関係記録:固定開始】


【変更権限:なし】


紅葉が舌打ちした。


「ふざけてる」


月白は端末を見つめていた。


そこには新しい文章が出ていた。


【あなたと最も関係の深い人物を選択してください】


その下に。


三つの名前。


林夏。


紅葉。


ユウ。


月白は黙っていた。


林夏の画面には。


月白。


紅葉。


澪。


紅葉の画面には。


林夏。


月白。


ユウ。


五人それぞれに、違う名前が表示されている。


ユウが言った。


「これ……」


「うん」


澪が答える。


「また選択肢を作っている」


林夏が笑った。


「でも、俺は選ばない」


「林夏」


月白が見る。


「どうして?」


「だって」


林夏は画面を閉じた。


「誰が一番大切かなんて、今決める必要ないだろ」


紅葉が言う。


「それだけ?」


「それだけ」


ユウが少し考えてから言った。


「僕も選びません」


澪が続く。


「私も」


紅葉は腕を組んだ。


「……私もだ」


最後に。


月白が端末を伏せた。


「私も」


五人の端末に。


同時に表示が出る。


【選択:拒否】


【既存選択肢:該当なし】


そして。


【関係:未定義】


林夏が笑った。


「また未定義だ」


澪は画面を見つめていた。


「違う」


「何が?」


「今回は、未定義になったことじゃない」


「じゃあ?」


「私たちが、自分たちの関係を決めなかった」


紅葉が言う。


「決めなかった?」


「そう」


「それって、前と同じじゃないのか?」


澪は首を振る。


「前は選択肢がなかったから決めなかった」


「……」


「今回は、選択肢を出された上で決めなかった」


五人の間に沈黙が落ちる。


月白が言った。


「それなら」


「うん」


「今の私たちの関係は、本当に名前がないんだね」


林夏が笑った。


「名前なんて、そのうちつくんじゃないか?」


「誰がつけるの?」


「俺たちじゃない?」


月白は少し考えた。


「……そうだね」


その瞬間。


止まっていた時計が動き始めた。


店員が何事もなかったように歩き出す。


客も話し始める。


時間が戻った。


しかし。


五人の端末には最後の一行が残っていた。


【関係記録:保留】


その下に。


【理由:本人たちによる選択】


林夏はそれを見て。


「これでいい」


と言った。


誰も反対しなかった。


食堂を出る。


五人は並んで歩く。


友達なのか。


仲間なのか。


家族なのか。


恋人なのか。


敵なのか。


協力者なのか。


そんな名前は。


まだ、どこにもなかった。


ただ。


五人は同じ道を歩いていた。


それだけだった。

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